上智大学先端科学技術研究機構

ハイテク・リサーチ・センタープロジェクト2010
(平成22年度 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「研究拠点を形成する研究」採択)

研究プロジェクト名「学際連携による超伝導伝送システムとマグネット開発」

◆研究目的・意義

低炭素社会を実現して地球温暖化を防ぐためには、化石燃料から、太陽光・太陽熱・風力などの再生可能な自然エネルギーへの転換が必要不可欠である。
自然エネルギーには製造する適地というものが存在するため、それらの場所でエネルギーを大規模に生成したのち消費地に大電力を長距離輸送するとい
う方法が検討されている。
そのためには、送電網の電力ロスを最小限に抑えることのできる超伝導線を採用することが必要である。研究開発が活発に行われているが、
超伝導線による伝送システムの実用化にはまだ多くの問題点がある。解決すべき課題は基礎物性、物質、線材から装置、ケーブル、システムまで多岐に
渡るため、要素技術の開発だけでなく全体の整合性を踏まえた包括的な取り組みが求められている。 本プロジェクトでは、基礎から応用、基礎物性から
システムまでを網羅する専門分野をもつ研究者が集まって、横の連携を密に保ちつつ研究開発を推進し、研究成果をお互いにカスケードさせることにより、
効率的に超伝導伝送システムとマグネットの実用化に向けて着実に進んでいくことを目的とする。
さらに超伝導基礎物性の知見を深め、次世代の研究シーズに繋ぐことも目的とする。

 

◆プロジェクトメンバー

理工学部・教授 後藤貴行 NMR法による磁束格子のその場観察 磁束格子の有効なピン止め法に関する知見を得る
理工学部・教授 高尾智明 超伝導マグネットの安定性向上 高安定なマグネット実現の見通しを得る
理工学部・教授 板谷清司 超伝導体の合成と微構造解析 超伝導体の微構造に関する情報を顕微鏡観察により収集する
理工学部・教授 桑原英樹 酸化物・金属間化合物による新規超伝導物質・超伝導線の創製 線材・マグネット応用に耐えうる新規な超伝導物質群を開発する
理工学部・教授 坂間弘 酸化物超伝導線材の高配向化 超伝導線材の臨界電流密度を向上させる
理工学部・教授 大槻東巳 量子ネットワークモデルによるピン止めのミクロスコピック機構の解明 磁束格子の有効なピン止め法に関する重要な理論的指針を与える
理工学部・准教授 宮武昌史 各超伝導機器類の要求性能と効果分析 要求性能を反映した線材・機器開発に生かす
理工学部・教授 坂本治久 短パルスYAGレーザを用いた超伝導線材の改質 超伝導線材の改質により臨界電流を向上させる
理工学部・准教授 谷貝剛 電力貯蔵装置用CICケーブルの内部構造と安定性の向上 パルス動作電力貯蔵装置の低損失・低コスト化に関する知見を得る
理工学部・助教 中村一也 CIC超伝導ケーブルにおける素線間応力の臨界電流への影響 超伝導線材の臨界電流密度に対する応力歪の影響に関する知見を得る
 

◆年次計画

  1. 【平成22年度】 研究設備導入、研究体制構築、キックオフ研究会、通電状態における磁束格子のNMRによる観察法の確立、
    新規超伝導物質の化学的合成法の検討、PLDによるCeO2中間層作製法の確立
  2. 【平成23年度】 NMR法によるピン止め中心の電子状態の解明、CICケーブル内の素線配置の乱れの計測、超伝導体への
    不純物導入によるピン止め中心の有効性評価、Ni合金基板上への高配向中間層の探索、超伝導マグネットの交流損失測定法の確立
  3. 【平成24年度】 超伝導マグネットにおける交流損失低減のための巻枠材料の提案、超伝導体の微構造の種々の顕微鏡による評価、
    CVDとレーザー改質によるY系超伝導層の最適成長条件の確立、パルス通電時の電磁力の素線配置からのFEM解析による通電中の素線乱れの定量化
  4. 【平成25年度】 新規酸化物超伝導物質の線材化における問題点の指摘、モデル電力システムにおける機器の総合効率とコストの評価、
    素線間接触抵抗の測定による電磁力下の抵抗算出コードの作成、国際シンポジウム開催
  5. 【平成26年度】 CICケーブルにおける磁束格子の挙動の解明、超伝導マグネットの交流損失の測定、超伝導機器不安定時の運転方法の検討、
    中間層とY系超伝導層の高配向化による高臨界電流密度の達成、最終報告会開催

 

◆支援事業により導入された装置・成果の一例

素線軌跡3D測定装置

 

素線軌跡測定結果からシミュレーションした素線曲げ歪み分布の3D表示

曲げ歪みによる臨界電流密度劣化の解析結果

 

無冷媒16テスラ超伝導マグネット

冷却用の液体ヘリウムを必要としない、GM冷凍機を使った16テスラ超伝導マグネット
(英国クライオジェニック社製)が導入されました。現有の、無冷媒1.5Kクライオスタット
と組み合わせて、広範囲の磁場・温度領域で、物性測定(超伝導特性を初めとした、
電子状態の測定。NMRや磁化率の測定)を行います。

単結晶試料を磁場中で回転させて異方性を測定することも可能です。
下の写真は極低温下(1.5K)で、単結晶Cu-NMRを測定しているところ。強磁場によって
近辺の鉄製品が吸い付けられ、衝突してしまう事故を防止するため、外周を木枠で
覆っています。