2001統計力学II     Q&A-9 (12/21回収分)                    <<<戻る

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    例:「よくわからなかった」⇒「二重和の取り方で、なぜ束縛条件が外れるのかわからなかった」

Q's

  1. 相互作用のあるスピンの問題で、トレース(Tr)をとる時に、
      Tr C-1HC = Tr H 
    左辺のトレースが、「固有状態ではない基底ベクトル」でとるという点が
    理解できなかった。(浜崎)<<<TOP

    後藤 注) 上の式で、H が対角化されているハミルトニアンとしています。
    念のため。

  2. 多数のスピンが相互作用している問題で、三つ以上は解けないのでは?(石川)<<<TOP
  3. 格子比熱の問題で、デバイモデル以外の近似モデルはないのですか?(乙黒)<<<TOP

  4. 格子振動の最大振動数nmaxnDの考え方(1)で、「隣接原子が逆に動く振動」
    という意味がわかりません。(野村、戸田)   <<<TOP

  5. 格子振動の最大振動数nmaxnDの考え方(2)で、「独立な振動モード=3N
    という条件の意味がわかりません。(黒田)   <<<TOP

  6. 格子振動のところで、波長が短くなって行きl=a まで行くとl=0 と一緒、と
    言われましたが、l=∞ ではありませんか?(梶田)<<<TOP

  7. 愚問かも知れませんが(原文ママ)、T→∞(高温)としたときの、高温とは
    実際にはどれくらいの温度なのですか?実現できるのですか?(梶田)<<<TOP

  8. 格子振動の「モード」の意味がわかりません。(松井、三宅)<<<TOP
    特に状態密度が、格子振動の場合=(3/2)×光子の場合 
    となる理由がわからない。

  9. 剛体球のポテンシャルとは何ですか?(久保)<<<TOP

  10. 格子比熱はなぜ、高温で一定になるのですか?(野村)   <<<TOP

  11. 学生実験で、電気抵抗の温度変化の要因は格子振動であり、電子による
    散乱は殆ど効いていないと習いましたが、それと電子の比熱がフェルミ面
    近傍の電子のみによることと関係ありますか?(藤波)<<<TOP

  12. ボースアインシュタイン凝縮の臨界温度を求める際に、別の教科書で
    Appel関数を用いていたのですが講義でやった方法と同じですか?(田中)<<<TOP


  13. ボースアインシュタイン凝縮の臨界温度を求める際に、下式の
    和が定数になる理由がわかりません。(野村)<<<TOP


  14. (いくつかの球の連成振り子で)一つの球を端にあてると、反対側の球が
    動くというおもちゃがありますが、その原理と音波が関係していると聞いた
    ことがあります。これは固体中の格子振動のことでしょうか?(富沢)<<<TOP
     |  ||||| |
     〇←…〇〇〇〇〇←〇

  15. スピン相互作用で、イジング型やハイゼンベルグ型のハミルトニアンは
    どうやってもとめたのですか?(東)<<<TOP

  16. スピン相互作用のある系で、強磁性と反強磁性の磁化の磁場依存性の
    違いの原因は何ですか?(梅田)<<<TOP

    後藤 注) 原文には反磁性とありましたが、反強磁性と反磁性は異なる意味で、
    ここでは反強磁性と直して置きます。

  17. N次元球の状態数の導出が未だに出来ません。(子長谷)<<<TOP

  18. スピンというのは粒子の自転みたいなものですか? それにしては↓と↑しか
    状態がありえないというのは、、、(小野)<<<TOP

  19. スピン相互作用(イジング型)について。↑━↑という絵を書かれましたが
    二つのスピンの向きはどちらも上を向いているのですか? (長田)<<<TOP

  20. 光子について考えるとき、スピンを考慮する必要があるのですか?(佐藤)<<<TOP

  21. 光子の性質で、粒子数不定からμ= 0を導くやりかたがわかりません。(増岡)<<<TOP

A's

  1. 相互作用のあるスピンの問題で、トレース(Tr)をとる時に、
      Tr C -1HC = Tr H 
    左辺のトレースが、「固有状態ではない基底ベクトル」でとるという点が
    理解できなかった。(浜崎)<<<TOP


    トレースは、線型代数で習ったように、行列の対角成分の和です。
    一旦、N×Nの行列の形に書いてしまえば、どちらも、単に対角成分の和をとる
    ということで変わりはありません。

    しかし、ハミルトニアンは元々演算子です。よって、これをN×Nの行列の形に
    書くためには、基底ベクトルを決めなければなりません。
    左辺でC-1HC の形に書いたということは暗黙の内に、基底ベクトルを
    xからCxに変えているのです。


  2. 多数のスピンが相互作用している問題で、三つ以上は解けないのでは?(石川)<<<TOP

    力学で、三体以上は、変数が9個あり、求められる「積分」である、エネルギー(スカラー値)、
    運動量(ベクトル)、角運動量(ベクトル)の個数7つを超えてしまうので、解けない、という
    風に教わったわけですね。

    量子力学では三体どころか、二体でさえも厳密には解けない場合が多くあります。
    水素原子は厳密に解けますが、水素「分子」ではすでに近似的にしか求まりません。

    多数のスピンが相互作用している問題でも、一つ一つのスピンの動きの時間変化は
    統計力学では全くわかりません。統計力学の目的は、そのような一つ一つのスピンの
    ミクロな動きがわからなくとも、平均値をうまく計算してしまおう、というところにあります。


  3. 格子比熱の問題で、デバイモデル以外の近似モデルはないのですか?(乙黒)<<<TOP

    イ ) 等分配則を無理矢理当てはめたのがC =3NkB のデュロンプティ則

    ロ ) 一つ一つの原子が古典的な調和振動子(動き回らない)として振る舞う
    というモデルが、アインシュタインモデル(低温で指数関数的に減衰)。

    などがあります。


  4. 格子振動の最大振動数nmaxnDの考え方(1)で、「隣接原子が逆に動く振動」
    という意味がわかりません。(野村、戸田)   <<<TOP

    下図のように、左右の隣同士が離れたりくっついたりする振動モードです。
     ○→ ←○ ○→ ←○ ○→ ←○
     ←○ ○→ ←○ ○→ ←○ ○→
     ○→ ←○ ○→ ←○ ○→ ←○
    これが最大波数(最短波長)で、かつ最大周波数(最短周期)の振動です。

    解析力学の「バネでつながれた多数の質点の振動」を思い出して下さい。


  5. 格子振動の最大振動数nmaxnDの考え方(2)で、「独立な振動モード=3N
    という条件の意味がわかりません。(黒田)   <<<TOP

    三次元のN個の粒子の運動は、3N個の成分のベクトルで表されることを
    思い出して下さい。格子振動は、バネでつながれた質点の振動と思って
    良いので、この基準振動を行列の対角化で求めれば3N個の基準振動
    が求まります。これを指して、「独立な振動モード」と呼んでいます。


  6. 格子振動のところで、波長が短くなっていき、l=a まで行くとl=0 と一緒、と
    言われましたが、l=∞ ではありませんか?(梶田)<<<TOP

    そのとおりでした。k =0と混乱していました。


  7. 愚問かも知れませんが(原文ママ)、T→∞(高温)としたときの、高温とは
    実際にはどれくらいの温度なのですか?実現できるのですか?(梶田)<<<TOP

    大変良い質問です。温度が非常に高いとか、低いとか言うのは、絶対的なもの
    ではなく、必ず、何かと比べた場合の話です。
    例えば、自由電子の比熱であればフェルミ温度と比べるし、格子比熱であれば、
    デバイ温度と比べることになります。

    他の場合でも、出てきた式の次元を調べると、T/[温度の次元を持つ何かの量]
    という形になっていると思います。


    もう一つの質問で、∞の温度を実現できるかということですが、格子系の
    温度を上げてしまうと、みんな解けて蒸発してしまいますが、特定の部分系
    (たとえば、原子核スピンのスピン温度)の温度を∞にしたり、あまつさえ、負にした
    りすることも可能です。


  8. 格子振動の「モード」の意味がわかりません。(松井、三宅)<<<TOP
    特に状態密度が、格子振動の場合=(3/2)×光子の場合 
    となる理由がわからない。

    これまで、状態を指定するのに波数やエネルギーを使ってきましたが、
    波数やエネルギーだけでは状態を一つに絞りきれない場合があります。
    電子のスピンや、格子振動の縦波・横波、光子の偏波方向、etc.
    などです。これらを総称して「モード」と言います。

    ただ、スピンや偏波方向は、その単語の方がわかりやすいので、
    わざわざモードと言い換えることはしません。

    格子振動は3つのモード(縦波、水平偏波の横波、鉛直偏波の縦波)
    があり、光子は、二つ(水平偏波の横波、鉛直偏波の縦波)だけですから、
    比を取ると、3/2が出ます。


  9. 剛体球のポテンシャルとは何ですか?(久保)<<<TOP

    剛体球の半径をRとすれば、下図のようなポテンシャルです。ようするに、
    半径内には絶対に入れない、という非常に単純なことです。


  10. 格子比熱はなぜ、高温で一定になるのですか?(野村)   <<<TOP

    線形独立な振動の数が3N個しか無く、これに熱エネルギーが等分配
    されるためです。


  11. 学生実験で、電気抵抗の温度変化の要因は格子振動であり、電子による
    散乱は殆ど効いていないと習いましたが、それと電子の比熱がフェルミ面
    近傍の電子のみによることと関係ありますか?(藤波)<<<TOP

    パウリ排他律のために電子−電子散乱は起こりにくくなっているという
    意味ではその通りです。


  12. ボースアインシュタイン凝縮の臨界温度を求める際に、別の教科書で、
    Appel関数を用いていたのですが講義でやった方法と同じですか?(田中)<<<TOP


    全く、同じです。単に関数に名前(Appel)をつけているだけです。それほど
    メジャーな関数でない(⇔ツェータ関数はメジャー)のと、名前を出しても
    ご利益がないので講義では触れませんでした。


  13. ボースアインシュタイン凝縮の臨界温度を求める際に、下式の
    和が定数になる理由がわかりません。(野村)<<<TOP



    低温では粒子数を一定に保つために、化学ポテンシャルが負の値から
    どんどんゼロに近づいて行きます(ゼロを超えることは絶対にありません)。
    よって、限りなくゼロに近づいた状態では、和の分子は1ですから、βに
    依存しなくなり、定数となるのです。


  14. (いくつかの球の連成振り子で)一つの球を端にあてると、反対側の球が
    動くというおもちゃがありますが、その原理と音波が関係していると聞いた
    ことがあります。これは固体中の格子振動のことでしょうか?(富沢)<<<TOP
     |  ||||| |
     〇←…〇〇〇〇〇←〇

    片端に球を当てると、繋がった球から球へ、ソリトン的(孤立波)な
    弾性波が伝わっていって、反対の端で、最後の球に衝突し、一つだけ
    突き飛ばされるというイメージですが、伝わるのはあくまでソリトン
    なので、格子振動とはちょっと違うと思います。


  15. スピン相互作用で、イジング型やハイゼンベルグ型のハミルトニアンは
    どうやってもとめたのですか?(東)<<<TOP

    量子力学か、固体物理、物理実験学(磁気共鳴)などの講義でやります。
    ハイゼンベルグ型は、要するに、同じ向きのスピンはパウリ排他律で近寄
    れないので、クーロンエネルギーは低くなって安定、ということから求められます。
    以前の数理物理演習III(量子力学)の問題11をどうぞ。


    イジングは、これに、電子の軌道角運動量を組み合わせて、スピンが
    特定の方向しか向けないということを考慮すると出てきます。



  16. スピン相互作用のある系で、強磁性と反強磁性の磁化の磁場依存性の
    違いの原因は何ですか?(梅田)<<<TOP

    後藤 注) 原文には反磁性とありましたが、反強磁性と反磁性は異なる意味で、
    ここでは反強磁性と直して置きます。

    それほど面倒なことではありません。
    かけた磁場が弱い場合は、隣のスピンとの相互作用でスピンの方向が
    決まっています(強磁性なら同じ向きに揃っているし反強磁性なら、
    逆向きに揃う)。
    しかし、磁場が強くなると、どちらもその磁場の向きに揃うようになります。

    これを「スピンフロップ現象」と呼ばれます。


             強磁性   反強磁性
    低磁場      ↑↑     ↓↑
    高磁場      ↑↑     ↑↑

    注)磁気異方性がある場合は、磁場をかける方向がスピンに平行か
    垂直かで、もっと奇妙なことが色々おきます。詳しくは固体物理IIで。



  17. N次元球の状態数の導出が未だに出来ません。(子長谷)<<<TOP

    周期境界条件を課すると、特定の波数を持った状態しか存在しない、という
    ところがポイントです。

    状態密度の簡単な覚え方としては、dkN/(2p)N から kNe への変数変換で
    出すという方法もあります。講義ノートを参照してください。

  18. スピンというのは粒子の自転みたいなものですか? それにしては↓と↑しか
    状態がありえないというのは、、、(小野)<<<TOP

    もちろん、スピンは磁場に対して、斜めでも横でもいろんな方向を取り得ます。

    よく、1/2のスピンはup, downの二通りの状態しか無い、と言われるのは、
    ハミルトニアンH=aIZ (aは定数)の固有状態(≡時間が経過しても不変な状態)
    が二つしかかないということです。この |↑> と |↓> の線形結合で、任意
    の方向(θ,φ)を向いたスピンの状態を表すことが出来ます。


  19. スピン相互作用(イジング型)について。↑━↑という絵を書かれましたが、
    二つのスピンの向きはどちらも上を向いているのですか? (長田)<<<TOP

    いいえ違います。単に、二つのスピンが相互作用している、という絵を
    描いただけで、実際のスピンの向きは色々あります。(その平均を出そう、
    というのが統計力学の目的です)。


  20. 光子について考えるとき、スピンを考慮する必要があるのですか?(佐藤)<<<TOP

    まず、振動の偏波方向が、光子のスピンに対応していますので、エネルギー
    や比熱を求める際には偏波方向のモード数2を考慮すればスピンを考慮した
    ことになります。


  21. 光子の性質で、粒子数不定からμ= 0を導くやりかたがわかりません。(増岡)<<<TOP

    カノニカルで粒子数一定の条件を外して、色々な粒子数で全部和を取ると、
    グランドカノニカルのμ= 0の表式が出てきます。



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