東北大学金属材料研究所附属強磁場センターにおける共同研究   <<戻る

  1. 30テスラ・ハイブリッドマグネットによる超強磁場NMRの実験に成功
  2. 強磁場NMRの意義
  3. ハイブリッドマグネットとは?
  4. 準備状況及び解決した問題点
  5. 実験風景
  6. 今後の課題
  7. 謝辞

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  1. 30テスラ・ハイブリッドマグネットによる超強磁場NMRの実験に成功

2001年9月20日、30テスラのCu-NMRの観測に成功した。これで20テスラ超の
強磁場領域におけるNMR測定の道が国内でもようやく開けたことになる。
(タラハッシー等の強磁場水冷マグネットでは既に測定が行われている)。
これまで、ハイブリッドマグネットは磁場安定度・磁場均一度が極めて悪く、
NMRには向かない(あるいは、信号の観測すら出来ない)と思われて来たが、
固体(特に磁性体等)では十分に実用になることが判った。

  1. 強磁場NMRの意義

〇強磁場で得られるもの
    イ) 分解能、感度─これらはいずれもハイブリッドマグネットでは実現しにくい。
    ロ) 強磁場における新奇な物性⇒これが目的

〇たとえば、
         磁場誘起SDW (FISDW)
        磁場誘起磁気転移 (マグノンのボーズアインシュタイン凝縮)
        磁場誘起超伝導 (ジャッカリーノピーター効果)
        磁気貫通 (magnetic breakdown)
        スピンフリップ
等が考えられる。

〇今回の目的
最近の低次元スピンギャップ磁性体で、構造がエッジシェアリングであるものは、
交換相互作用が小さく、ギャップも小さいため、「ギャップを磁場で潰した状態」
を実現することが可能。

特にNH4CuCl3は、J〜数Kであるため、30Tの磁場で完全にギャップを埋めること
が出来る。この時、どのような電子状態が現れるかを調べたいというのが今回の
目的である。


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  1. ハイブリッドマグネット

東北大学金属材料研究所強磁場センター
    30Tハイブリッドマグネット=常伝導+超伝導の合体型
        外側:超伝導マグネット(液体ヘリウム冷却)
        内側:常伝導マグネット(水冷) (消費電力〜数MW)
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写真:強磁場センター

写真:手前は、常伝導マグネットの冷却タワー。奥がセンターの建物。
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  1. 準備状況及び解決した問題点

    マグネットルームと測定ルームが数十メートル離れていて、励磁中は入出出来ない。
        ⇒すべてをリモート制御にする必要がある。

    a) 超音波モーター (新生工業USR60、非磁性タイプ)
    b) ロータリーエンコーダ (OMRON)
    c) Voltronics非磁性トリマ (テフロンタイプから内部導体削り出し)
    以上を使って50m離れたところからチューニングを行う。
    前もって、ネットワークアナライザで、エンコーダの読みと共振周波数の関係を
    較正しておく。⇒測定温度が変わるとずれる。今後の改良が必要。

    d) 低損失同軸ケーブル 8D-FB(直径15mm程度)
    往復100メートルで、100MHzで10dB程度の減衰がある。200MHzを以上の測定では
    パワーアンプもマグネットルームに設置する必要があるかもしれない。

    e) 低雑音プリアンプのマグネットルーム内設置
    これにより、感度の低減を避けられた。
    但し、あまり、マグネットに近づけて設置すると、外側超伝導マグネットの励磁
    を行うと、アンプは動作しなくなる(高周波トランスコアの飽和?)ので、3〜4
    メートル離して設置した。

    f) ハイブリッドマグネットの磁場均一度・磁場安定度
    公称では、どちらも0.1%ということになっている。

    均一度については、試料を小さくすればある程度問題はない。今回は7×3×2mm
    程度の小さな試料であった。当初、非常に心配したのは磁場安定度である。0.1%
    ということは30テスラでは、300ガウスとなり、このような大きな磁場揺らぎでは信号
    は全く見えないのではないかという疑問があった。

      しかし実際に測定してみると信号は十分強く観測された。これは、磁場揺らぎの
        周波数成分が、かなり小さい(数十〜数百Hz)程度であり、スピンエコーの捕捉に
        要する時間(数十μsec)では、磁場変動は全く無いと見なせるためであると考え
        られる。なお、磁場変動がゆっくりである理由は、コイルのインダクタンスが大き
        いため、速い成分が減衰しているからである。

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  1. 実験風景

写真:30テスラが出た瞬間

写真(上):ハイブリッドマグネットで初めて観測されたCu-NMRスピンエコー信号
(試料は、量子スピンラダーNH4CuCl3)

写真:一応うまく行ってほくそえむスタッフ(後藤)。
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〇測定準備

写真:低雑音プリアンプ(NF=1.5dB, 10-300MHz)はプローブのそばに設置。
但し、超伝導マグネットを励磁すると、使用不能になってしまったので、
少し、場所を離して設置しなおした。
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写真:液体ヘリウムのチャージ。ハイブリッドマグネットは、
地上数メートルのところに設置されているので、ヘリウムベッセルは、
架台の下において、天井の穴からトランスファーチューブを挿入。
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写真:さまざまなケーブルが飛び交う。
今回は、信号用に低損失同軸ケーブル8D-FB×2本、
ロータリーエンコーダによるトリマ回転モニタ用にシールドケーブル4ライン、
超音波モータ制御用に、同軸ケーブル2本、を使用。
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写真:ハイブリッドマグネットの制御室。上の表示は
消費電力で、およそ9MWを示している。
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写真:励磁中は安全のため、マグネットルームは完全にロックされる。
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写真:このキーを閉めてドアをインターロックしないと、ハイブリッドマグネット
は運転できないようになっている。
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写真:床下のベッセルからヘリウムをトランスファー。
奥がハイブリッドマグネット本体。クライオスタットは上に乗っている。
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動画: 250リットルベッセルの移動

写真:ヘリウムトランスファー中のようす。回収ラインの
ゴムチューブは凍り付いている。
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写真:ハイブリッドマグネットを横から見たところ。
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写真:ハイブリッドマグネットの電源ライン。10000アンペア以上流れる。
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写真:液体窒素のトランスファー。窒素のベッセルは、床下から
クレーンで吊り上げる。
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動画:液体窒素のトランスファー

写真:液体窒素のトランスファー中。
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写真:超音波モータ(下)とロータリーエンコーダ(上)。
これで、チューニング用トリマコンデンサを調節する。
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写真:NMRプローブの先端。Volronics社のテフロントリマを使った
single-tuneタイプのシンプルなもの。インピーダンスマッチは、コイルの
カプリングで行う。同軸ケーブルは新雄産業のセミリジッドタイプ。
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写真:エンコーダーの調整。トリマをネジの限度を超えて回すと
簡単に壊れてしまうため、エンコーダの読みとトリマの回転位置を
厳密に合致させておく必要がある。
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写真:励磁中は入室できないので、NMRプローブを設置直前に念入りにテスト。
(磁場をゼロにすれば入出可能であるが、マシンタイムがロスするうえに、
超伝導マグネットのヘリウム消費も増えてしまう)
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写真:温度計のテスト (Ge温度計を設置。もちろん、磁場中
では使えないが、今回は4He液浸での測定のみであったため、簡便な
モニタ用として、手持ちのGe温度計を取り付けた。いずれは30Tクラス
の磁場で使用出来る小型の温度計がいずれ必要)
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写真:NMRスペクトロメータ。制御用の98ノートが壊れかかっており、
困っている。
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写真:低磁場域でのNH4CuCl3のCu-NMR信号
この後、30Tまでの磁場域で、共鳴周波数を変えながら測定した結果、
10T以下はsingletサイトの信号(3eqq's×2isotopes×2sites=12本、内部磁場〜0)
13T以上の信号は、Cl核の信号であり、数テスラの大きな内部磁場を感じて
いることがわかった。
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  1. 今後の課題

A) WM-1aではデュワー内径がφ26であり、この中で温度制御を行うのは難しく、
1.5〜4.2Kでの実験は容易であるが、それ以外の温度域では何らかの準備
が必要。
    イ) 一重断熱タイプのクライオスタットにしてしまう。
       ⇒放電、試料の熱接触、シール部分の接着(低温半田等)が難しい。
    ロ) 極細ガラスデュワーを使う。
     ⇒3Heにも対応できるが、破損しやすい。

B) 磁場掃引が25テスラ以上ではゆっくり出来ない。
  ⇒これは何とかして欲しい。

C) ネットワークアナライザでチューニングを常時モニタする
現状では、励磁直前に、共振周波数とロータリーエンコーダの読みを較正している。
この方法では温度が変わると、較正がずれてしまい、正確にチューニング出来ない。
短いマシンタイム内で測定を成功させるに、チューニングだけは正確に合わせて
置きたい。よって、同軸リレー等で、ネットアナとスペクトロメータを切り替えて常時
モニタ可能にしたいような気がするが、挿入損失を考えると、躊躇してしまう、、、。

  1. 謝辞

今回の測定では、東北大学金属材料研究所強磁場超伝導材料センターの皆様に
大変お世話になりました。

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