私の趣味

澤田肇

 趣味は多彩である。田園地帯から海岸線、あるいは山岳地帯へと、連日車で数百キロを走破すること も苦にならなければ、日がな一日公園やカフェの椅子に座り、本を読む合間に、移りゆく雲や人の姿を見ていることにも厭きない。ストロークとボレーのシューティングゲームのようなテニスに興ずることもあれば、一枚の絵の前に息をのんで時間が止まってしまうこともある。おいしい料理と酒を味わいながらの議論は愉快だし、スナック菓子がかたわらにあるだけのサイバースペース周遊も快適に感じられる。オペラやバレーに通いもすれば、スキーはどんなゲレンデでも飛び込んでいく。人生には楽しいことがたくさんある。
 しかし私はどの趣味においても達人ではない。時間がなくてのめり込むことができないのである。一つの仕事が終われば、二つの仕事が待っているという状態の繰り返しで日々が過ぎていく。車に限ってみても、私よりドライビングのうまい学者さんはかなりいらっしゃる。一度だけサーキットを走行したことがあるが、これは日常の次元とは異なる快感を与えてくれる。今はプジョーの206という車に乗っているが、これはもともとタウンユース用に買った小さくスペック的に平凡な機械である。ところがこのフランス車は、長時間の高速運転に向いていることがわかった。正式なライセンスを取得して日曜レーサーになりたいところだが、改造までしている暇はとうていない。万事が満足に上達しないまま、一時の猶予ができると思い出したように何かの趣味を再開する。これではただの気紛れをまき散らしているようなものだ。
 それでも何も究めていない分だけ、あらためてチャレンジするときには新鮮な喜びがある。上手な人、詳しい方、美しいもの、心を動かすこと、目を開ければ素晴らしい出会いは多い。誇れるような趣味はなくとも、趣味の良い生き方をしたいものである。


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