上智大学発生生物学研究室

主な研究テーマ

近年、タンパク質実験技術のめざましい進歩により、タンパク質分子の形(立体構造)が機能にどのように関係しているかが解明されてきています。一方、分子生物学の進歩により、生物の形作りのメカニズムもまた、分子レベル、遺伝子レベルでの研究が可能となり、形作りのプログラムをになう遺伝子カスケードが解明されてきています。私たちは、分子の形と生物の形という二つの側面より研究を行っています。

孵化酵素と卵膜の分子生物学

孵化酵素HCEの3次元構造 私たちは魚類の孵化について研究を行ってきました。孵化とは胚が卵膜を脱ぎ捨てる過程ですが、魚類においては、孵化時に胚体からタンパク質分解酵素が分泌され卵膜を分解します。メダカを用いてこの孵化酵素の研究をおこない、二種の異なったタンパク質分解酵素が協調して卵膜を分解することを発見しました。一つの酵素(HCE)が卵膜の特殊な構造を限定分解し、その後、もう一つの酵素(LCE)が、HCEにより限定分解をうけた卵膜を分解します。これらの酵素は種特異性を持ち、他の魚類の卵膜を容易には分解しません。このように、孵化の分子メカニズムは綴密に作られていること、そして、孵化酵素は卵膜を分解するために特化した分子です。現在私たちは、卵膜分解のメカニズムを理解するために、孵化酵素の基質である卵膜タンパク質と孵化酵素相互の理解を深めていこうと研究を進めています。また、色々な魚の孵化酵素を調べると、孵化時の卵膜分解は、単一酵素による限定分解から、効率の良い2種の酵素(HCE, LCE)の分解系に進化してきたことが解ってきました。孵化酵素の卵膜分解系が魚の世界でどのように進化してきたかをタンパク質機能の側面から研究します。

孵化腺細胞の分化

孵化酵素-GFP遺伝子を導入した遺伝子導入メダカ 孵化酵素は孵化時に働く酵素タンパク質ですが、その合成は発生初期に遡ります。すなわち、孵化酵素遺伝子は体の軸が出来た直後に体軸先端部の細胞に発現します。その細胞(孵化腺細胞)は、もっぱら孵化酵素タンパク質を合成し細胞内に貯め込み、孵化時に孵化酵素を分泌します。このように、孵化腺細胞が形成される過程は形作りのプログラムの中に書き込まれており、発生初期に分化因子の指令を受けて、孵化腺細胞へと変化(分化)していくのでしょう。これら分化因子の遺伝子のクローン化、遺伝子導入、遺伝子機能阻害実験を通して、形づくりのプログラムの一端を解き明かしていこうとしています。孵化酵素は孵化時に働く酵素タンパク質ですが、その合成は発生初期に遡ります。すなわち、孵化酵素遺伝子は体の軸が出来た直後に体軸先端部の細胞に発現します。その細胞(孵化腺細胞)は、もっぱら孵化酵素タンパク質を合成し細胞内に貯め込み、孵化時に孵化酵素を分泌します。このように、孵化腺細胞が形成される過程は形作りのプログラムの中に書き込まれており、発生初期に分化因子の指令を受けて、孵化腺細胞へと変化(分化)していくのでしょう。これら分化因子の遺伝子のクローン化、遺伝子導入、遺伝子機能阻害実験を通して、形づくりのプログラムの一端を解き明かしていこうとしています。

卵膜の形成機構

卵は、卵膜と呼ばれるタンパク質で出来た構造物に保護されて発生が進みます。卵膜を構成するタンパク質をZPタンパク質と呼びます。それらZPタンパク質は、多くの動物で卵形成の過程で卵巣内の卵細胞が合成・分泌して卵細胞の周りに卵膜が合成されます。おもしろいことに魚の進化過程で本来卵細胞で発現していたZPタンパク質遺伝子は、肝臓で発現するようになりました。肝臓で合成されたタンパク質は、血流を通して卵巣に運ばれます。生物の最も大きい臓器は肝臓です。合成場所の変化により大量のZPタンパク質を合成することが可能となり、魚類は、厚く強靭な卵膜を持つようになりました。ZPタンパク質遺伝子の進化を研究しています。

卵膜の硬化機構

胞胚期のメダカ卵(1mm)とニジマス卵(3-5mm) 受精(卵と精子の融合)後に、卵は細胞分裂を繰り返し発生を開始します。それと同期して、卵膜も硬く強靭な構造に変化します。これを卵膜硬化と呼び、胚は卵膜に守られて発生します。卵膜の硬化は、トランスグルタミナーゼという酵素(硬化Tg)が、卵膜構成タンパク質間に架橋を形成することで起きます。硬化Tgの遺伝子をクローン化すると、そのアミノ酸配列が血液の凝固因子FXIIIa遺伝子(フィブリンに架橋を作る酵素)と良く似ていることがわかりました。FXIIIa遺伝子は、脊椎動物全てにある遺伝子で、硬化Tgは、魚類に特異的な遺伝子です。このことは、魚類の進化過程でFXIIIa遺伝子が重複して2つになり、一方が変化して硬化Tgが生まれたと考えられます。遺伝子重複による新規遺伝子の創生という観点からTgのタンパク質と遺伝子を調べています。

孵化という発生生物学的なひとつの現象を中心にすえ、一方は、酵素タンパク質の分子機能の理解とその基質である卵膜タンパク質の研究、他方では、生物の体作りの分子メカニズムの解明を目標に、共に分子から形へつながる研究を行っています。タンパク質を根気よく調べて、それらの機能を解明することが当研究室の特徴です。