<2014年秋学期 紹介文>

 昨日まで住んでいた所が、今日から隣国の一部になる ― 9カ国と陸続きで国境線を有するドイツとその隣国との間では、領土争いに伴う境界線の変更が幾度となくなされてきました。第二次世界大戦後、多くの領土を失ったドイツはそうした歴史的背景を抱える隣国と改めて向き合うこととなりました。今期ゼミの前半では、その取り組みはどのようなものであったのか、例を挙げてその経過と結果を検証しました。

 豊富な石炭埋蔵量をめぐり領土の取り合いがなされてきたが、EUの母体ともなった欧州石炭鉄鋼共同体の発足による資源の共同利用に領土・資源争い終結の糸口を見出したドイツ・フランス国境ザールラント。歴史的因縁を抱えて領地奪い合いがなされ、現在はフランス領となったがEUの主要機関が置かれ、国という枠を超えてヨーロッパを象徴する存在となったドイツ・フランス国境アルザス。国境線の変更はせず、国境付近に混在して住んでいる少数民族の権利を互いに保障することで国境問題の解決をみたドイツ・デンマーク国境。そして、第二次世界大戦後、戦勝国がある川を国境と定めたため一つの町でも川の東と西が違う国、ドイツとポーランドとなる奇妙な事態に陥ったドイツ・ポーランド国境オーデル・ナイセ線。ドイツ・ポーランド間の支配の歴史、強制移住や戦争の負の記憶による双方の国民の反感感情も根強く、両国民が和解するのは容易なことではありませんでした。しかし「ドイツ人とポーランド人がしたことを比べて、どちらが悪いかを論争するところに戻ってはいけない」という視点でドイツが国境の現状を認めて東方領土の追及を放棄したことが状況を進展させ、戦後およそ50年をかけて和解に至ります。

 現在はEUにより移動の境界が撤廃されたこともあり、審査なしで橋を渡るだけで国境を越えられるようになりました。ドイツの職場とポーランドの自宅を行き来する人、川を挟んでどちらにもキャンパスを持つ大学で学ぶ学生も今では多くおり、未だ残る東西の経済格差など今後の課題もあるものの、言語、教育、文化、経済面で国境を越えた交流が行われています。私たちはこの検証を通し、隣国は「敵ではなくパートナーたりうる」こと、「脅威の対象ではなく興味の対象となりうる」ことを学びました。
こうしたドイツの取り組みを検証しながら、現在も国境問題を抱える日本の現状も考察しました。島国で国境線も海の上の日本は、隣国と陸続きで国境を持つドイツと地理的条件は異なるものの、第二次世界大戦後に多くの領土を失い、国境問題を抱えたという出発点を同じくしており、その解決のプロセスにおいて参考になる点は多いはずです。歴史と向き合うことを避けないと同時に未来志向で妥協点を探ることは、日本の国境問題の解決のヒントたりうることと思います。

 そして今期後半は、ゼミ生各自が興味のあるテーマを定め、日独の比較をしながら考察し、発表を行いました。自分の取り上げた問題に対し、信頼できる資料を参照しながら、「この問題に関して、私は自信を持ってこう言えます」というところまで、自分なりに答えを出すことを目標に取り組みました。各自が選んだテーマは様々で、日独の戦争責任、安全保障政策、メディアの情報公開、CSR(企業の社会的責任)において重視されること、育児休業制度、空き家問題、就職のプロセス、オーケストラ経営、における日独の違いとその背景という、誰も誰ともかぶらない見事に個性のあらわれたものでした。それぞれが熱意をもって取り組み、悩みながらも結論を導き出しました。自分とは違うことに興味のある人の発表を聞くことで新たな知識を得たり、自分の中に新たな興味がわくこともあって充実した時間でした。 (文責:N.H.)