海外情報 豪メディア最新事情二題


                          (『通信調査会報』No.451 (2000年6月号 掲載)
                           鈴木雄雅(上智大学教授)

 キャッシュ・ジャーナリズムの行方

 ラジオのトーク番組のコメンテーターが放送のなかで特定の企業や団体に対して便宜を図る発言をして、引き換えに金銭を受領していたという事件が「キャッシュ・フォア・コメント」としてセンセーションを巻き起こした。
 
 シドニーで最も人気のあるラジオ局2UEのお抱えキャスターのジョン・ローズとアラン・ジョーンズがオーストラリア銀行協会などと、銀行擁護を「コメントでアピールする」という取引があったことを、ABCの「メディア・ウォッチ」がすっぱ抜いたことから、彼らが多くの企業と同種の「契約」を結んでいたことが発覚した。毎朝六時から九時までをジョーンズが、引き続き十二時までローズが担当して、高い聴取率を上げている番組である。

  メディアの監督機関ABAは事態を重視し、調査委員会を設置したが、その長D・フリント(前プレス・カウンシル議長)が当該番組に出ていたことで、職を辞するなどといった混乱もおこり、今年二月になりようやく数百頁もの分厚い調査結果が提出された。それによると、二人は巨額の報酬の見返りに、放送中企業や業界団体の主張を有利に導く形でコメントを流し、少なくとも五件の放送業法違反と九十件の放送番組倫理規定違反があったという。2UEのライセンスについては向こう三年間にわたり、企業・業界団体との主要取引の詳細な公表が義務付けられた。

 新聞は低迷、ネット株は上昇


 九九年下半期(七―十二月)ABC調査の結果によれば、メルボルンの『ヘラルド・サン』(五十五・九万部)が変わらずトップの座を占めるが、『シドニー・モーニング・ヘラルド』(四・五%減、二十五・八万部)、『ジ・エイジ』(二・二%減、十九・一万部)と、大都市日刊紙の部数減傾向は止まらない。そのなかで経済専門紙の『オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー』の土曜日版(八・五万部)が過去一年間で一〇%近く増加したのが目をひく。これは雇用の上昇や住宅需要など、土曜日版ならではの特徴が絡んでいるものとみられる。

  確かに、目前に控えたオリンピックのせいだろうか、ここシドニーに住むと、一九八〇年代には見られなかったような人々の活況が感じられる。その一つは情報、ハイテク部門の株価の高騰にある。マードックが統括するニューズコープはことし三月はじめ、一株あたり二六jに達し、昨年九月時の倍額、一族の資産は何とオーストラリアのGNPの四%にあたるほどになった。タイム・ワーナーとAOLの合併などを横目にみながら、英国のボーダフォンあるいはフランスのビヴェンディと提携、でなければヤフーか、と連日ニュースになっている。マードックはタイム・ワーナーとAOLとの合併に、インターネット会社を探しているか、というような質問に「とんでもない」と答えてはいるものの、彼のしたたかさを読み違えてはいけない。
 
 オーストラリアの億万長者ケリー・パッカーも勢いがよく、これまた株価は二倍近く跳ね上がった。インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の老舗オージーメールが新興のイーサーに買収され、オーストラリアのISPも、テルストラ、ビッグポンドの強大化(強者)対新興勢力(弱者)が生き残りをかけて熾烈な争いを繰り広げる戦国時代に突入した。さらに英国のグラナダ・テレビジョンがK・ストークスがもつチャンネル・セブンの一○・八%株(一億四千百万j)を買収し、オーストラリアのメディア市場は外国勢力に現在の一五%制限をいかにするか、再び議論されている。
 
 二月に創刊百二十年を迎えた週刊誌『ブレティン』(八万部)は、特集号で「忠誠とは一割の熱心さと九割の追従」という諷刺画を掲げたが、三月久々のエリザベス女王の訪豪を伝えるメディの熱狂振りは、国民投票で連邦離脱が否決されたいまのオーストラリア国民の複雑な様相を見事に映し出しているのではないか。
 (文中豪j表記))

  ケーブル、インターネットについて