オーストラリアのマス・メディア
言論・表現の自由が保障されるオーストラリア社会では、多様な意見、声を確保する意味でマス・メディアも多様である。オーストラリアのマス・メディア界は@世界的なメディア王、ルパート・マードック(News Corp.)の新聞市場の寡占化、A放送・出版分野におけるケリー・パッカー(PBL)の影響、B公共放送のABCと商業放送テレビ・ネットワークの存在が顕著、といった特徴がまずあげられる。SBS放送や多彩なエスニックプレスといった多文化社会を反映したメディアの存在も興味深い。また健全な市民社会育成のために、ABAのような独立放送行政組織やプレスカウンシルに代表される苦情処理機関などが設立されている。
全国日刊紙The Australian(13.2万部)、オーストラリアで最大の発行部数を誇るHerald Sun(メルボルン、54.9万部)やDaily Telegraph (シドニー、41.8万部)などを発行するマードックは、大都市日刊紙市場(月−金)で6割、同土曜日紙市場で5割、さらに日曜紙市場は6割、同郊外紙でも5割以上の発行部数を占める。これに続くのはThe Sydney Morning Herald(シドニー、22.3万部)を旗艦紙とするJohn Fairfax Holdingsがほぼ2割程度、そして第3グループがアイルランド系のトニー・オライリー率いるAPN(Queensland Press Ltd.)である。37ある地方日刊紙市場も同様である。各州都で発行される日曜紙はキャンベラを除き、たとえ複数紙あってもマードック系かフェアファックス系のいずれかであるように、少数オーナーによる寡占化が目をひく。
商業放送局の三大ネットワークは常に視聴率トップを誇るパッカーのチャンネル9、外資系CanWest(カナダ)がもつチャンネル10、そしてチャンネル7(ケリー・ストークス)が各州都を結び、ABCとともに全国的な影響力をもつ。また地方都市でもSouthern Cross、WIN(ブルース・ゴードン)といったグループが10以上の局をもつ。90年代に議論を呼んだ有料テレビの導入もFoxtel、OptusTV、Austarの契約者が計100万台にのった。しかしながら、放送分野への外資導入はこれによりさらに拍車がかり、元来オーストラリア製作の番組を重視する伝統的な地上波放送政策とぶつかりあっている。ここでもグローバル化の進展が地元(ローカル)にどのような影響を与えるかが、新たな問題としてとらえることができよう。
これまでにも、新聞とテレビ局の同一市場での所有に制限を加えていたが、そのメディア規制法の改革が2002年2月から始まった。骨子は外資の保有規制の緩和と、同一資本による新聞、放送メディアの同時所有を規制するもの。現在の外資保有規制=地上波25%、有料テレビ20%、新聞25%=を緩和する方向にあるが、一部資産家による独占を避けるという目的の後者が、実は地方メディアの経営に大きな影響を与えるとは対照的に、前者がマードックやパッカー帝国の寡占化を進めるのではないかと懸念されている。
多言語・多文化放送の代表格を担うSBSは1970年代の実験を経て80年代から本格化し、現在ラジオ、テレビとも70言語近くを放送しているが、総放送時間量からいえば、いずれも半分は英語放送である。またエスニックプレスと称される非英語紙は日刊、週刊、月刊など70紙ある。長い間アラビア語、イタリア語、ギリシャ、スペイン語紙が主流の分野だったが、近年中国語紙の台頭が著しい。
参考:ABC(2001年6-12月)、Communication Update No.164(April,2002)