1996年度提出卒業論文 

新聞のアイヌ報道

 91−2627 栗本 尚樹

 ・・構・成・

  第1章 これまでのアイヌ民族とマス・メディア問題

  第2章 アイヌ民族基礎知識

  第3章 1946年〜1992年の報道調査

目的と動機

 マス・メディアが、マイノリティーの声を反映することは重要である。(マイノリティーとは、必ずしも数の上で少数であるとは限らず、居住・教育・職業・結婚・政治的参加など生きていくうえで当然認められるべき基本的な権利において差別を受けた「被抑圧者」をさす)圧倒的多数である「送り手側」はマイノリティーにとって、あくまでも「他者」であって、描かれるマイノリティー像は「他者」からみたマイノリティー像にすぎない。そのために、いかに報道量が増えたとしても、「送り手側」の差別意識や偏見のために「歪んだマイノリティー像」を報道する恐れがある。これまでの報道を検証し、どのような問題点があるのか、そして今後どのような報道がのぞまれるかをさぐった。

 アイヌ民族を取り上げたのは、私がアイヌ民族に関して全くの無知であったためである。私の住んでいた関西地方では、在日韓国人や被差別部落の問題は実際に差別の実態を見聞きする機会や学校で教わる機会もあったり、と身近な問題であった。ところが、ことアイヌの問題となれば、全くといって接する機会がなかった。そんな自分に疑問を持ち、むしろ全く無知であるものを取り上げるべきではないかと考えた。

 ・・方・法・

 北海道ウタリ協会所有のアイヌ関連記事をもとに全国紙の朝日新聞と地方紙の北海道新聞の2紙の記事(1946年〜1992年の計7319本)を取り上げ、報道全体としてどのような「アイヌ像」が描かれてきたかを・1946年〜1959年・1960年代・1970年代・1980年〜1986年9 月の中曽根発言以前・1986年の中曽根発言以後〜1992年の各年代別に、全国紙・地方紙、記事内容の点から調査した。

 

・・今・後・の・報・道・

 ・アイヌ民族自身による紙面批評の必要性

 描かれるアイヌ民族像が他者からみたアイヌ民族像であるため、そこには、必ず送り手の無理解からくるギャップが生まれる。そのギャップをなくすためには、報道にどのような問題点があるのかアイヌ民族自身が紙面をチェックし批評する機会を持つ必要がある。

 ・全国紙は、アイヌ民族についての基本的な知識を積極的に報道する全国紙の読者は、アイヌ民族問題が身近な問題ではない場合が地方紙よりも多いわけであるから、アイヌ民族について十分に知識を持たない場合が多い。そのため文化の紹介記事、歴史についての記事等、より基本的な知識を報道することがのぞまれる。

 ・環境問題にみられるような都合のいいアイヌ民族をもちいた記事をなくす環境問題であればアイヌ民族というように安易に引き合いに出す記事が多かった。都合よく記事に使われる側のアイヌ民族の人びとはどのように感じるであろうか。

 ・・調・査・の・問・題・点・

・1992年以降のより最近の報道傾向を調査しなかった。

・報道量は、記事本数のみでしかはかっていないため、どの記事が大きく扱われたまでは調査できなかった。

・記事を全国紙と地方紙の分類、内容別の分類で分析したが、投書記事、投書記事の発言者が誰であるかをたどる等、さらにさまざまな視点から記事分類をすれば、アイヌ民族の声がどれだけ紙面に反映されているのかよりくわしく調査できた。

[参考文献]

 書籍

アイヌ民族の現状と未来を考える会議『明日を創るアイヌ民族』(未来社、1988年)

綾部恒雄『現代世界とエスニシティー』(弘文堂、1993年)

荒井源次郎『続 アイヌの叫び』(北海道出版企画センター、1990年)

磯村英一、福岡安則編『マスコミと差別語問題』(明石書店、1984年)

内野正幸『差別的表現』(有斐閣、1990年)

大塚和義「日本のなかのアイヌ」信濃毎日新聞社『世界の民 光と影 上』(明石書店、1993年)

ジョン・G・ラッセル『差別と偏見はどのようにつくられるか』(明石書店、1995年)

北海道新聞社会部編『銀のしずくアイヌ民族はいま』(北海道新聞社、1991年)

宮島利光『アイヌ民族と日本の歴史』(三一書房、1996年)

 雑誌

上村英明「先住民族の権利の現在と未来」『神奈川大学評論』第19号(1994年11月)

金子国彦「ウレシパモシリに向かって」『新聞研究』第502 号(1993年5月)35ページ

土屋礼子「新聞とマイノリティー」『ジャーナリストを学ぶ人のために』(世界思想社、1993年)

羽柴駿 「マイノリティーの視点を大切に」『新聞研究』第512 号(1994年3月)24ページ

山内昌之「アイヌ新法をどう考えるか」『世界』第623 号(1996年6 月)

 資・料・

アイヌ年誌刊行会『アイヌ年誌』1987年〜1994年度版

国会図書館新聞切り抜き資料Ainu(1950年〜1983年度分)

北海道ウタリ協会新聞切り抜き資料(1946年〜1992年度分)