MSRI滞在記


MSRI (Mathematical Sciences Research Institute) で行なわれる semester program Galois Groups and Fundamental Groups に general member として参加するため、 1999年8月15日〜10月16日の間、同研究所に滞在していました。 その滞在中に書き留めたものを公開しています。


この滞在には、MSRI より滞在費の一部の援助を、また 上智大学理工学振興会 より渡航費の一部の援助をそれぞれ頂きました。



紹介

MSRI や Berkeley の街ってこんな所、という紹介をしてみましょう。

Berkeley は San Francisco の街中から BART(Bay Area Rapid Transit. 日本の地下鉄みたいな乗物)で 30分くらいにあって、 街の真中に University of California, Berkeley (UCB) がどーんとある大学の街。 北大を大きくしたようなというか、 山の上まであるので東北大をもっと街中にしたようなというか。

Mathematical Sciences Research Institute (MSRI) は、街中の構内から shuttle bus (Hill Shuttle) で登ること10分の丘の上。 距離感は大文字山の「大」の字の辺り、という人も。 3階建てで外観はログハウス風。 天気がいいと Berkeley の街を一望できるばかりか Golden Gate Bridge まで見渡せて非常に景色がいい所。 こっちに来るまで MSRI と UCB との関係が良く判らなかったんだけど、 説明によると、他の大学も20校ほどがスポンサーとなっている研究所で、 UCB とはかなり独立性が高い「特殊な関係 (special relation)」だそうです。 という訳で、「良く判らない」が正解。 そいえば domain name も msri.ucb.edu じゃなくて msri.org ですが、 一方、MSRI の membership card で、 図書館をはじめとした UCB の諸施設が利用できたりもします。 UCB の Dept. Math. でもセミナーや講演があるので、そっちにも良く行きます。

九州大の松本眞さん と二人で大学の近くに家を借りて住んでいます。 我々二人にはもったいないくらい快適な家です。 家の近くから丘の上を見渡すと MSRI の建物がちらっとだけ見えます。 余り大きい建物ではないのでね。 大学の敷地の境界までは最短で歩いて5分くらい、 研究所に行く shuttle bus の乗り場までは 更に大学の構内を通って全部で15分くらい、 BART の Berkeley (downtown) の駅までは10分くらいの所です。


日記

8/17

Now I am writing this at MSRI. I have obtained a computer account here and can receive e-mails from you. Please send to tsuno@msri.org (注:現在は無効). Isn't it cool ? To read and write Japanese is hard now, so I am happy if you write to me in English or RO-MAJI. Thank you.

8/15

順序通りではないけれど、思い出したことを随時書きます。 行きは都立大の 小松さん と一緒の道中。 行きの飛行機では、刻限が近付いてから席を取ったため非常口席 (何かあったら脱出・誘導の手伝いをする)になったり、 両隣を韓国帰りの the U.S. Army の若い陽気な大男に挟まれたり、 アメリカの入国審査では書類が足りないからここで書けと言われて 何か記入するカードを渡されたり、まぁいろいろありましたが、 何とか San Francisco に辿り着きました。 San Francicso の街中を半日歩き回って、当日はそこに泊まり、 翌日から MSRI での Workshop に臨みます。

8/19

今週と来週とは AMS von Neumann Symposium on Arithmetic Fundamantal Groups and Noncommutative algebra という workshop があるので、研究所に通い詰め。 講演が1時間×4コマあるので、休憩を挟みながら話を聞いていると 一日が過ぎてしまいます。 2日ほど曇り勝ちで風があって肌寒いくらいでしたが、 今日は正に雲一つない晴天で、そうなると日差しが強くて日なたにいると暑いくらい。 麦藁帽子を持ってくればよかったかな。こっちにあるかしらん。

8/21

今日は土曜で workshop はお休み。 買物に出た他は家でぐうたらしてました。 毎日が慌ただしいので、ぐうたらが何より生き返る気分。

8/22

松本さん、小松さん、京大数理研の玉川さん御夫婦と5人で連れ立って、 Berkeley の海岸まで観光に行きました。BART の駅から 2 miles くらい。 街中を走っている AC transit という bus に乗っていくとすぐです。 San Francisco Bay というちょっとした内海に面する海岸で、 向うに San Francisco の街や Golden Gate Bridge が見え、 その向うが太平洋で、その向うが日本という寸法です。 非常に天気がいい日で、長く突き出た Fishing Pier には釣り人が大勢いて 魚や蟹を釣っているようです。 でも、湾に化学物質があるからここで釣ったものは月に2回までしか食べるな、 とかいう掲示が出ていました。単に食べるなと書いてあるより具体的で怖い。 海岸からでも丘の上に研究所がちょっとだけ見えます。 海から帰って夕方はみんなでこちらの家に寄って、 御飯を作って食べたり、くつろいだ一日でした。 明日からまた workshop の続きです。

8/23

workshop の後、夕方に街の中の UCB の構内で Prof. Lang の講演があるというので、 研究所に来ている人達の多くが聞きに行きました。 丘の上の研究所から街中まで歩いて降りる人もいたので、 この機会に自分もそうしてみることにしました。 30分くらいかな、天気が良かったので気分は良かったのですが、 着いてみると既に講演が始まっていて、立ち見どころか廊下まで人が溢れていて、 人の合間から覗き込むようにしか見えません。 UCB の数学教室の談話会らしいのですが、 偶々 MSRI に来ていた同じ分野の人々が押しかけて、 聴衆が予想外に増えたというのが真相の様でした。 話の内容自体は入門的かつ丁寧で判り易いものでしたが、 それでいて初めて聞く事柄もあり、 workshop の先週の講演に出てきたこととも関連して理解を新たにしたり、 面白く興味深いものでした。 講演の後は Student Union の購買部を覗いたり、御飯を食べたりしてから帰宅。

8/25

今日は夕方にバーベキューパーティがありました。 山道を二三十分歩いて Tilden Park というバーベキュー場に行ったのですが、 夏時間の午後4時ってのは要するに3時なのでまだまだ日差しが強く、 辿り着く頃にはくたくたでした。 疲れていて英語を話す気力がなくて、何となく日本人ばっかり寄り集まっていたのは、 後で思うとちょっと残念でしたが、でももう日陰から出たくないっていう感じ。 こっちの人はタフです。本当に人間なのか。 帰りはまた研究所まで歩いて帰って、8時発の最終の Hill Shuttle で帰りましたが、 丁度、丘から街や海を見渡すのが西側で夕日の方向なので、 丘の上からの夕景は実に綺麗でした。

8/27

長かった workshop も今日で終わりです。 ばたばたしている間に終わってしまったような気もしますが。 それにしても言葉が聞きとれないなぁ。うぅ。

8/29

この週末は家でのんびり過ごしてました。ちょっと近所を散歩する程度。

8/30

午前中に Social Security Number とやらの申請に行きました。 こっちで研究所から滞在費をもらうのに必要らしい。 こういう申請書に署名する時に、日本語(漢字)で書くか alphabet で綴るか、 いつも迷うんで、窓口で聞いたら alphabet で書け、と言われました。 でも他の時には、passport の署名と同じ方(つまり漢字)がいい、 と言われたこともあるので、どうもその度毎に聞いてからにするのが安全なようです。 そいえば visa の申請の時にも思ったけど、 こちらでは印鑑は全然使わなくて全部 signature(署名)です。 Alphabet で書くと、書く度に形が違うんだけどいいのかな。 それから研究所に行ってこれを upload して、夕方に講演を一つ聞く。

8/31

セミナートークを1時間×2つ聞いて、夕方に伊原先生・松本さん・あたしの3人で private なセミナーを2時間ほど。くたびれた。

9/1

午前中に研究所で、午後に丘の下の UCB の数学科でセミナートークを、 併せて1時間×2つ聞く。workshop が終わっても全然ゆっくり出来ないぞ。 ところで、午後のセミナーに出てきたんですが、 谷山志村予想(有理数体上の楕円曲線の modularity 予想) 「有理数体上の楕円曲線は modular である」 が完全に解けたらしいです。先月のことだって。詳しくは 「谷山志村予想の完全解決について」 を参照のこと。

9/3

午前中に private seminar の2回目。 午後は図書室でその復習など、 それから谷山志村予想の件についての反響があったのでその返事のメイル書きなど。 夕方に研究所のロビーで violin concert がありました。 この種の催しはしばしばあるそうです。 先立ってのバーベキューもそうですが、いろいろな催しを通して交流を図る、 ということを非常に重視するようです。 他にも今後の催しの予定のメイルが幾つか届いています。

9/6

今日は Labor Day という祝日でお休み、というわけで3連休でした。 何処に観光に行くでもなく、お散歩と買物とくらいしか出かけず、 ちょっとくたびれてきた頃だったので、いい休みになりました。 そうそう、「天」の最新情報を複数の方がお知らせ下さいました。ありがとね。

9/8

こっちに来て初めて雨らしい雨が降りました。一月ぶりらしい。 San Francisco の方では雷も激しく鳴っていた模様。 例年は9月はもっと暑いらしいんだけど、今年は例外的に涼しいらしい。

9/9

J-1 Visa(交流訪問者)で入国した人のための説明会があるというので、 大学のへりにある International House に午前中に行く。 2時間もあるので行く前から何だかげんなり。 前半は「アメリカ人の特質について」とかいうお話。 小さい時から independent の精神を教え込まれる、とか、 informality を重んずるので初めて会う人にも friendly に接する、とか云々。 後半は International House の活動の案内とかがあって、 その後もっとも大事と思われる、滞在期間中に一度出国して再入国する場合に 必要な手続きとかそういう説明があったけど、自分には関係なさそうなので 適当に聞き流す。つうか1時間も聞いてたら疲れた。 Slang 講座の案内もあって、面白そうだったが、 10月後半からということで日程が合わず残念。 午後は研究所に行ってセミナートークを一つ聞いて、 夕方に街に降りて談話会を聞いて、家に帰って歌の練習。

9/10

申請していた Social Security Card が届いたので、 税金関係の書類(これを出さないと滞在費がもらえない)と 健康保険の加入の申請をする。滞在半ばにしてこれでやっと事務的手続きが完了。 セミナーを一つ聞いて、private seminar を一つ。

9/12

観光に出かけない週末が結局3週続いてしまいました。 平日には毎日2つくらいセミナーがあって結構くたびれるので、 週末は一息つきたいのですが、そうすると観光で気分転換というよりも、 家の近所でのんびりとしてしまう猫なあたし。 あ、今日はロクに散歩にも出なかったな。夕方から家で歌の練習。

9/13

今日から1週間は、松本さんが Duke Univ. の Hain さんの所に共同研究に行くので、 一人暮らしです。家が広すぎる感じ。 Duke Univ. は東海岸(大西洋側)にあるそうなんですが、 折しも Harricane が2つ、それも猛烈なのが立て続けに近付いているようなので、 行きはまだ大丈夫そうですが、予定通り帰ってこられるかちょっと心配。

9/15

日本では「敬老の日」といって祝日だそうですが、 こちらにはそういうものはありません。 午前中に玉川さんのセミナートーク。英語なのでいつもの軽妙洒脱な持ち味は 日本語で話す時ほどではありませんが、そつなく話して流石というところ。 今日はお昼過ぎはセミナーはなく、もやもやと考えながらお茶飲んだりしてたら 夕方になってしまった。家に帰って歌の練習。

9/16

午前中は最近出来た話を伊原先生に聞いていただいた。 街のお勧めの喫茶店で珈琲を買って飲みながら、という予定だったが、 いい場所が見つからなかったりして、話は少しだけでまた今度ということに。 午後は一旦研究所へ行ってから、 Campus で Prof. Manin の一連の講義(7回)に先立つ特別講演。 帰りがけに大学構内で道を尋ねられる。こっち暮らしも板に付いてきたということか。 東洋系の学生は多いから、特に不思議ではないけれど。

9/17

午前中に研究所でセミナーを一つ聞く。 午後に UCB の構内で Prof. Manin の7回講演の1回目。 その後、玉川さんのお連れ合いと合流して中華料理屋さんで食事。 晩は所長の Eisenbud さんの家で音楽会(Musicale)。 こっちでタクシーに乗るのは初めてと言いながら、3人でタクシーで所長宅へ。 研究所の近くの丘の上の大きな家に40人くらい参集。 これだけの人が入っちゃうというだけでも凄いが、 そこでやるのが音楽会というのも、いやはや異文化との遭遇という所ですな。 伊原先生と玉川さん御夫婦とあたしとの4人で「浜辺の歌」と合唱することに なっていたのですが、順番が最初だと言われてちょっとびっくり。 練習の時ほどではなかったけれど、でもまぁまぁの出来でしたかね。 喜んでもらえたようで何より。セミナーで喋るより緊張しなかったなぁ。 最初に歌っちゃったお蔭で後は他の人の演奏や歌を落ち着いて楽しめました。 教会風な合唱あり、民謡風な独唱あり、ピアノありチェロあり、 みんなうまくて、他の人のを聞いた後ではプレッシャーで歌えなかったかも。

9/19

お昼過ぎに街中を散歩。 日曜でも構内の Student Union のお店が開いていることを発見。 松本さんが無事に予定通り帰ってきました。

9/20

午後に研究所で日本組の private seminar をいろいろ。 来週のセミナーで話すことになっているので、 その内容を聞いてもらって、いろいろ御助言を頂く。 段々プレッシャーが掛かってきます。

9/23

来週のセミナーの練習を聞いてもらったんだけど、 構成の練り直しが必要なのはともかくとして、 読めばいい原稿を作ったのに喋れないとはどういうことだ。 こいつは困ったぞ。 因みに今なら MSRI の web page の中のセミナーの予定の所に出ている筈。 そうそう、こっちには「秋分の日」というお休みはありません。

9/25

昼間は街をお散歩。薔薇園(Berkeley Rose Gerden)に行ってきたよ。 夜はセミナーで喋る準備。OHP を使うことにすると少し楽かな、とも思うけど、 やはり思い直して、黒板に書きながら喋ることに挑戦することにする。

9/26

昼間は街をお散歩。美術館(UC Berkeley Art Museum)に行ったり、 Cafe で珈琲を飲んだり。この週末は良いお天気どころか、 日照りがんがんでやたら暑かった。でも少し木陰に入れば涼しい。 夜はセミナーで喋る準備。 ここ数日はプレッシャーが掛かっているので、毎日カモミール茶を飲んで寝る。

9/28

とうとうセミナーで喋る日が来ました。 読めばいい原稿は一応あるけども、だからどうにでもなるという訳でもない。 10分前くらいから急に緊張してくる。喋る時間は1時間。 日本ででもそうだが始めて暫くは調子が出ず、 前半で予定より随分時間が掛かって慌てたが、 結果の定式化に必要な具体的な細かい定義を思い切って省略することに密かに決める。 時々質問が出てどきどきする(良く聞きとれないこともあるし)けれども、 ちゃんと聞いて理解しようとしてくれているんだと思うと嬉しいもので、 有難うございます感謝感謝。 最後の3分くらいで駆け込みで主定理の証明の超 outline を話す。 こうなると黒板の前で両手使って、これがこうでこっちがこうなって、 てな具合で原稿そっちのけ。だけど、自分でやった証明だから何とか喋れるし、 最後になってやっと調子が出てきたかな、という感じ。 話し終わって挨拶、"Thank you for your patience."

2年前にドイツの Oberwolhach 研究所で喋った時は我ながらズタボロで、 伊原先生に「新入幕で大負けして十両に落ちるのはよくあることなんだから、 次の時にしっかり出来るようにして下さい」と言われ、 自分でも、一度はきちんと決めないと、と思って今回に臨んでいたんですが、 準備段階の時間評価が甘かったことも含めると、 きちんと決めたぞ、どうだ、とはちょっと言えない気分。 でもまあどうにかこうにか何とかしたかな。I managed to do ってんですな。 2年ぶりの再入幕は7勝8敗ながら幕内残留、という所でしょうか。甘いか。 実は準備していたことをかなり省略していた、というのを知らずに聞いていた人には それなりに聞こえていたかも。もっと甘いか。 ただ、喋っている途中で何処を省略するかというのを瞬時に選択し判断するのも、 ちゃんと準備していないと出来ないこと。結果的にはそう悪くない判断で、 技術的な細かい定義を話すより却って良かったのかも知れない。 うん、そう言って頂けると助かります。

忘れない内に心得の覚書を幾つか。 数学的な話の流れの大筋に関わることで、その上に自分の結果がある、 というような先人の仕事はきちんと respect する。 個別の事実については場合により適度に、却って大筋が見えなくならないように。 今回の話で何が判ってもらいたいのか、やりたいと思っていることは何か、 何が面白くてそれをやるのか、それが出来ると何がいいのか、 そういうことがきちんと伝わるように話すのが大事。 何はともあれ準備をちゃんとするのは勿論だが、 上のようなことを考えて、構成に気を配ること。

何はともあれ滞在中の一大事が終わって、1週間ほどのプレッシャーから 解放されました。お風呂にも浸かって、カモミール茶を飲んでゆっくり休もう。

9/30

自分の口演が終わって、 他の人の話の面白かったのを改めて考えたりする余裕が出来たので、 質問したり考えたことを話したりすることも増えてきました。 そんなこんなの後、夕方に丘を降りて、 UCB の East Asian Library というのを覗いてきました。 日本・韓国・中国などの書籍やこの地域に関する英語の文献など 莫大な蔵書が収められています。 地誌などの資料や評論・論説・研究書などは、日本で日本の図書館で探すより、 こっちの方があるみたい。小説などはそれほどでもないけど、 有名なものはそれなりにありました。新井素子がないのは画龍天睛を欠くね。 今度来る時があったら持ってきて寄贈しようかしらん。

それはそうと、この1週間ほどは本当に暑い。昨日今日は90度もありました。 日本だとだらだらと汗をかくので、それで水分が抜けていくのを体が実感して それなりの対応をしているんじゃないかと思いますが、こちらでは湿度が低いので、 出るそばから蒸発していくのか汗が流れるということはありません。 なので気が付くと水分が抜けて体に熱が溜っていくという感じです。 こういう気候は馴れてない所為もあって苦手なんですよね。 日本でもまれにからっと晴れてがんがんに暑い日があると調子悪いし。 この辺では9月から10月にかけてが年間で一番暑いというのは本当のようです。

10/1

来週と再来週は workshop があるので、考えてみると研究所で普通に過ごす日は 今日で最後ということになります。 workshop の期間中は慌ただしく過ぎてしまうでしょうから、 こちらの滞在も先が見えてきた、という気になります。 京大数理研の望月さん・都立大の中村さんも MSRI に到着して、 日本勢もまた賑やかになってきました。 夕方に研究所のロビーで piano concert があり(何か現代風な訳判らん曲だった)、 その後、里に下りて日本勢の再会を祝して一緒に食事。

10/3

あたしの師匠である早稲田の橋本先生と弟弟子の梅垣さんとが、 明日から始まる Constructive Galois Theory の workshop に参加するためにこちらに到着したので、 お昼から一緒に San Francicso 観光に出かけました。 いつも週末はお散歩してぐうたら過ごしているとここに書いていたのを見て、 これは観光に連れ出さないと、と思われてしまったらしい。 Fisherman's Wharf とか Chinatown とかに行ったよ。 Fisherman's Wharf は如何にも観光地っと言う所で、こっちもすっかり観光客気分。 青い海や空と白い建物や船とのくっきりとした風景が何ともこちら的。 そこで海の幸をたらふく食べてすっかり満ち足りたので、 Chinatown では予定を食事から window shopping に変更。 中国の人は凄いね。Citibank も Chinatown では中国風の門構え。

10/4

今日から Constructive Galois Theory の workshop が始まりました。 朝も早いし、人も多いし、講演も1日4コマ×1時間もあって、 慌ただしい1週間(来週もだけど)になりそうです。

10/6

今日の研究所からの帰り道は、誘われるままに、 いつものバス通りじゃなくて人家の間の坂道をのんびりと歩いて 山を下りてきたのですが、改めて見てみると、家の造りがなかなか面白い。 どの家も広いのは言うまでもありませんが、 石造りあり木造あり一軒一軒それぞれに工夫を凝らした御自慢の家って感じ。 斜面なので画一的に建てるのはそもそも無理な訳ですが、 それがまた、日本だったら土砂崩れが怖くてとても住めないというような斜面。 雨が少ないから大丈夫なんでしょうけど。

10/7

今日の晩御飯は、北大の田口さん御夫婦や学習院の中島先生や 既に名前の出ている人たちと韓国料理屋へ。 注文する時に日本語・韓国語・英語が飛び交う国際的な食事。 帰りがけに一部の面子で近くにある地ビールを飲める飲み屋に行ってビールを1杯。 ここは完全にアメリカの酒場という雰囲気。 しかも、こ〜んなに大きいグラス1杯でたったの $3 だ。

10/8

今日で1週目の workshop は終わりです。 上を見ると集会の内容は全然書いてないけど、なかなか重たい集会だった。 で、recreation の一環として晩に大勢で中華料理屋さんに行きました。 まぁ打ち上げですな。 Berkeley で一番と評判の高い Mandarin Garden(鹿鳴春)という中華屋さん。 実は既に3回くらい行ったことがあるのだけれど、本格的で実に旨い。 日本と違って本格的な中華料理が手頃な値段で食べられるのが嬉しいですね。 その後、昨日の飲み屋でビール1杯。 店の奥の方でたっぷり雰囲気を味わって帰ろうとしたら、 入口の所のテーブルで関係者10人くらいで飲んでるのに遭遇。 「飲み屋で関係者に出喰わす」の法則は当地でも実証された。

10/9

午前中は本屋さん巡り。今こちらでは Yellow Sale というのが始まった所です。 黄色でピンと来たあなたは鋭い。そう、Springer の本の安売り期間なのです。 大体の本は普通でも日本での値段の半額くらいで買えますが、 list up されたものは2割3割の値引きは当たり前。 対象外の本も併せて10冊くらい買ったかな。 他にも古本屋さんにも二軒ほど行った。 数学の研究書以外にも面白い本を何冊か買ったよ。 これを credit card で買ってるから実感がないのが危ないね。 重いので船便小包で送っちゃった。一ヶ月半くらいで大学にドンと届く予定。

10/10

京大数理研の古庄さんが合流して、この1週間は3人暮らし。 午後に San Francisco 観光に出掛ける。 航空ショーか何かをやっていたらしく、街中で曲芸飛行をしていた。 相当低くまで降りてきたりして結構おっかないし五月蝿かった。 日本じゃ絶対に許可されないよね。 市内を走る MUNI Bus というのを乗継いで Golden Gate Bridge へ。 たった $1 で何度でも乗換えられて超お得。トロリーバスの路線もあって趣がある。 丁度夕暮れ時に着いて、太平洋に沈もうかという夕日を見てきたよ。 Golden Gate Bridge より何より太平洋の夕日が見たかったんだよね。 この向こうが日本だと思うと、何とも言えない感慨があります。

10/11

いよいよ今日から最後の1週間。今週は workshop Galois Actions and Geometry が開かれます。自分の研究に一番密接した workshop なので正に最後の山場です。

10/15

今週は慌ただしくて余り書けませんでしたが、 今日で workshop も終わり、研究所に来るのも今日で最後です。 というわけで、こちらでの滞在記の更新も最後になります。 思い出したことがあったら、日本に帰った後に書き足すかも。では。


雑記

つれづれなるままに心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付けてみます。


谷山志村予想の完全解決について

谷山志村予想(有理数体上の楕円曲線の modularity 予想) 「有理数体上の楕円曲線は modular である」 が完全に解けたらしいです。先月のことだって。 と書いたら、問い合わせがあったので、聞いた範囲のことを書きます。

有理数体Q上の楕円曲線で導手が 27 で割れる場合が残っていた訳ですが、 この場合が Breuil, Taylor 他の人達の貢献により解決されたようです。 まづ、適当な代数体 K に体を上げて、 素数 p=3 での加法還元(additive reduction)を解消します。 拡大 K/Q では 3 が分岐しないといけないので、 K に於ける 3 の絶対分岐指数 e は p-1=2 以上になります。 これは有限平坦群概型(finite flat group scheme)の理論を使うのに 大きな障害となります。 (e < p-1 という条件がこの理論の多くの定理で要請されます。) しかしながら、彼ら、中でも Breuil さん(p 進表現や group scheme の専門家)は、 いろいろやりくりしてこの困難に打ち勝ったということらしいです。 これじゃまだまだ全然判りませんね。あたしも判ってません、すいません。 後はもっと詳しい人に聞いて下さいな。


予定

10月17日(日)帰国。



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