私たちはふだん、無意識のうちに姿勢や体位を変え、同一体位や姿勢から来る疲労や苦痛を軽減しています。
眠っている間にも寝返りを行い、安楽な体位を保っています。
自分で身体を動かすことのできないお年寄りを寝たきりのままにしておくと、関節が拘縮したり褥創ができたりしてさまざまな障害が起こってきます。
それらを防止するために、介護者は定期的な体位交換やよい姿勢を保つための援助を行わなければなりません。
体位には、立位、座位、臥位、側臥位などがありますが、各体位にはそれぞれのよい姿勢があります。
よい姿勢の条件には、①各筋に加わる負担が少ない、②基底面積が広く、しかも重心が低く力学的に安定している、③内臓の諸器官が圧迫されないこと、などが挙げられます。
すなわち、よい姿勢とは、頭、胴体、手足の位置関係が体重のかかり具合と調和している状態をいいます(図1
、図2
)。
また、よい姿勢とは、関節の角度が関節の動く範囲の真ん中付近にあることです(もちろん、立っているときだけは、膝関節や肘関節が、伸びている状態がよい姿勢です)。
この状態だと、もし関節の動きが悪くなったとしても、影響を最小限にとどめることができます。
この状態を「良肢位」と呼びます(図3)
。
自分でよい姿勢を保てないお年寄りには、座布団やクッションなど、さまざまな道具を使って、正しい姿勢(体位)がとれるように工夫します(図4)
。
私たちの骨格のつくりは、二足歩行をするために大変よい構造になっています(図5)
。
この状態は呼吸もしやすく、動きやすいです。
そして、何よりもほかの姿勢に変化させやすい姿勢となっています。
寝たきりのお年寄りをまず起こすことは、自立の促進の第一歩です。
バランスのとれた安定した立位を保つことによって、さまざまな筋群が働き、身体機能を高めることになります。
また、日常生活の中で座位もよくとられます。
筋の活動という視点からみると、座位では下半身の筋群の活動は休止されますが、上半身の筋活動は高まります。
よい姿勢を保つ(立位に近い状態に上半身を保つ)ことは、腹筋と背筋の活動を高めることとなります。
また、脊柱をまっすぐにすることで脳への刺激となること、姿勢の崩れから起こる腹部の圧迫が取り除かれることなど、さまざまな相乗的効果が期待できます。
このように、正しく座位を保つことを、食事する、排泄する、入浴するなど、日常生活の中に採り入れることによって、寝たきりのお年寄りの心身の機能回復に大変効果があり、これらが日常生活動作(ADL)の自立への第一歩となります。
呼吸は、胸郭と横隔膜の運動により行われています。
息を吸うと、肋骨と胸骨は前方に張り出し、胸部が拡張します。
また、横隔膜は下がり、胸腔が広がります(図6)
。
仰臥位を取ると、ベッドに接触していることで胸郭の拡大が制限され、胸部の運動が小さくなるので、肺の換気量は減ります。
特に、肺の下部は身体の重みで圧迫され、呼吸は浅くなり、酸素を十分に取り入れることができなくなってしまいます。
また、圧迫を受けている肺胞には空気が入りにくくなり、次第に湿度を帯びてきて細菌が繁殖しやすくなり、肺炎を起こしやすくなります。
呼吸を促進させ、肺炎を予防するためにも体位交換は大変重要です。
また、長期臥位の場合には、意図的に深呼吸を行わせることが必要です。
呼吸困難な場合には、上体を起こして、オーバーテーブルにうつぶせの姿勢を取ると楽になります。
こうすることによって、胸郭の広がる範囲が拡大するためです。
側臥位を取ったときの胸郭の運動には大きな特徴があります。
下になった側の胸郭運動が制限を受けると考えてしまいますが、もう少し複雑です。
確かに下になった側の肋骨は圧迫されて運動の制限を受けますが、横隔膜の運動はその代わりに増大するからです。
となると、下の側の肺の上部は運動制限を受けますが、逆に肺の下部の動きは増大します。
上の側の肺上部の肋骨運動は何の制限も受けませんが、肺下部の動きは、内臓下垂のために横隔膜が引っ張られるために制約されます。
たとえば、肺の病変部の安静を保つためには、呼吸運動が抑制される体位をとるとよいでしょう(図7)
。
循環血液量は、臥位のときに最大で、立位で最小となります。
これは、立位を取る下肢の血管内の(静水力学的)圧力が上昇するために、血液中の水分が毛細血管の外に去ってしまうからです。
また、血液は下部に残りがちとなり、下部の血液は心臓に戻りにくくなるためです(これが、長時間起立していると下肢にむくみが起こる原因です)。
立位から臥位に戻ると、出て行った液体が今度は血管内に還り、起立していたときに下部にたまっていた血液は、容易に心臓に還ります(下肢のむくみは軽くなります)。
血圧は体位変換によって変動します。
一般に、最高血圧は臥位が最も高く、座位、立位へと体位を変換すると低下するものですが、この低下は体位交換後1分くらいで、元の値に戻ります。
これは、臥位から立位へと体位を変えると、血液は先ほど説明したとおり下部に残りがちで、心臓へ還る血液が減少し、心臓の送血量もそれに比例して減少するため最高血圧が低下するといわれています。
健康な者の場合には何とか血液を十分に心臓に戻す調整能力がありますが、長期臥床者などでは、血圧の下降が著しく起きて、脳貧血を起こしたりすることがあります。
肝臓や腎臓の血流量は、立位をとると減少します。
これは、立位をとったときに心臓への血液循環量を確保するために、腹部の内臓領域の毛細血管が反射的に収縮するからです。
そうすると、肝臓や腎臓に血液が十分行き渡らなくなってしまう、すなわち酸素不足となってしまいます。
肝臓や腎臓の病気で臓器を保護しなければならないときには、血液を臓器に十分行き渡らせるために安静臥床が必要となるわけです。
側臥位を取ると、身体の上側と下側とで機能が変化します。
発汗は、上側が増加、下側か減少します。
体温は、上側が上昇、下側か下降します。
血圧は、上側が上昇、下側か下降します。
これらの変化は、「圧反射(圧迫による身体の反射メカニズム)」の影響と考えられています
人は身体を動かすことにより、いろいろな臓器の機能を低下させないよう維持しています。
身体を動かさないと、さまざまな障害が起きてきます。
たとえば、お年寄りが長期間寝たままでいると、手足の筋肉が細くなったり、関節が硬くなったりしてしまいます。
このように、使わないことで臓器が衰えてしまうことを、「廃用症候群」といいます。
廃用症候群に陥りやすい臓器には、筋肉や関節のほかに、骨、心臓、血管、肺、脳などがあります。
寝たきりの生活では、体重を支えるための骨や関節は働かなくてすみます。
その結果、骨からカルシウムが排出されて骨はもろくなり、ちょっとした外力で容易に骨が折れる骨粗鬆症となります。
また、筋肉は廃用性萎縮を起こしてしまいます。
心臓や血管は長く臥床していると、弱い力で全身に血液を送る習慣を身につけ、血管は開いたままの習慣が身についてしまいます。
その結果、急に起き上がっても頭に十分血液を送れるほどの心臓の力はなくなり、血管が収縮してこれを助けることができないために、立ちくらみが生じます。
肺も長期間寝ている間に、呼吸する力が弱くなったり、痰が溜まったりしやすくなり、気管支炎や肺炎を起こしやすくなります。
関節を使わないままでいると、関節は曲がった角度のままで固まってしまいます。
このような拘縮は、膝関節や股関節、肘関節、手関節によくみられます。
足は尖足(足背が伸びきって拘縮した状態)になります。
臥床により生じる廃用症候群でもう一つ大切なものに、精神活動性の減退があります。
認知症の症状が現れやすくなります。
寝たきりの人にとって、身体を起こすことによって日常生活を取り戻すことは、身体と精神の自立を進める上で、大変重要です。
寝たきりから身体を起こすことで、まず廃用症候群の発症を防止することができます。
そして、精神面の効果も大変重要です。
壁や天井ばかりを一日中眺めている生活は単調で苦しい毎日です。
座位になれば視野は360度に開けます。
さらに移動できるようになると、生活がどんどん変わっていきます。
これらが、“生きる意欲”にもつながっていきます。
このように、身体を動かすことは、寝たきりのお年寄りにとって大変重要です。
介護者の動作の基本は、ボディメカニクスを活用することです。
ボディメカニクスとは、生体力学ともいわれ、解剖学・生理学・力学などの基礎知識を活用して、身体の機能や構造と身体運動がどのように関連しているかを明らかにしていくことを目的とした応用理論です。
お年寄りの介護をするとき、ボディメカニクスを活用することによって、介護者がどのように身体を動かすと、身体に無理な負担をかけずに、しかも無駄な動作をせずに最小の労力で最大の効果を上げることができるかを考えることができます。
これらによって、お年寄りの安全・安楽を守り、かつ介護者が腰痛を起こしたりケガをしたりすることを防ぐことにもつながります。
以下の点に留意して、介護者の身体を有効に使います。
その際、お年寄りのもつ身体能力を正しく把握し、それらを活かす方法をアレンジすることが大切です。
①重心の移動がしやすいように両下肢を前後、もしくは左右に開く(基底面積が広くなり、姿勢も安定する)。
②膝を曲げ、重心を低くする。
③お年寄りの重心をできるだけ自分に近づけ、正常作業域(上腕を自然に下垂して、前腕と手だけで到達できる範囲)内にあるようにする。
④持ち上げるよりは水平移動を行う。
⑤大きな筋群を使う。
⑥てこの原理を応用する。
⑦四肢をできるだけ体幹に近づけ、重力の分散を防ぐ。
⑧慣性の法則を利用した連続運動とする。
これらの方法に留意した介護者の動作の基本を図8
、図9
、図10
、図11
、図12
、図13
、図14
に示し、説明を加えます。
車いすはそれが必要な人にとって、私たちの足や靴の役割を果たしてくれる大変重要な道具です。
車いすの使用にあたってはお年寄りにとって目的もさまざまですし、したがってタイプもいろいろなものがあります。
まず、介護者はお年寄りが何の目的で車いすを使っているのかをきちんと確認し、可能な限りその目的に合った車いすを使うことが大切です。
また、お年寄りの身体の状態(障害部位、疼痛部位、禁忌事項など)を事前に調べておきます。
それによって、どのように介護をするとお年寄りは楽であるのか、何を手伝ったらよいのかといった介護方法を計画し、実行します。
車いす使用にあたっては、安全第一を心がけます。
介護者が無理な姿勢で動作を行うと、お年寄り、介護者ともにけがをすることがあります。
事故防止のためには、あわてず、急がず、無理をしない、周辺に気を配るということが大切です。
車いすの中には使用するお年寄りに便利なように、アームサポートが外せたり、折り畳めるようになっていたりするなど、さまざまな機能がついているものがあります。
介助する前に、これらの特徴と操作法を知っておくことが大切です。
車いすの構造と名称を図15
に示します。
a. ベッドに対し、30度の角度に車いすを置く。
移動動線を少なくするためには、ベッドと車いすの配置がとても大切です。
配置がうまくいかないと、スムースに移動させることができません。
b. 車いす介助はブレーキ操作で始まり、ブレーキ操作で終わる。
車いすを配置したら、まずブレーキをかけ、フットサポートを上げておきます。
c. 動作は「次の動作の準備」「実施」の繰り返し。
準備が整ったら、お年寄りを車いすにのせます。
そして、移動できるように腰の位置を確かめたり、足をフットサポートにのせたりするなど、移動の準備をします。
このように、介護動作は「次の動作の準備」「実施」を次々と繰り返すことになります(図16
、図17
)。
筋の負担、内臓器官や血管の圧迫も少なく安定していますが、同一姿勢を長く維持していると、血液や内臓が下方に下がる傾向があるので、筋に負担がかかってきます。
体幹・骨盤と大腿の角度が直角か、やや前傾、膝・足首とも直角とします。
両足底は床にしっかりとつけます。
背を下にした仰向けの体位です。
体重を支えている基底面が広いので安定しており、多くの筋が弛緩するためにエネルギーの消耗が最も少なく、長続きする体位です。
しかし、長時間同一体位を取ると、下になる部分に体圧が加わり、褥創の原因となるので、体位交換が必要です。
頭・肩の下、背中に枕を挿入すると、頸部の筋肉、脊椎周りの筋肉の緊張を防ぐことができます。
また、膝の下に枕を入れて膝を少し立てると、腹筋の緊張が取れます。
足の先も自然の位置を保つように足底部を枕で支えます。
左右の一側を下にした体位をいいます。
仰臥位に比べて基底面が少ないので安定しにくいですが、枕を用いて基底面を広くしたり、不必要な筋の緊張を防止したり、局所への圧迫を軽減させたりして、安定と安楽を図ります。
褥創の予防のために側臥位を取るときには、30度傾ける方法がよいです。
90度傾けると仙骨部の除圧はできますが、大転子や腸骨にかかる圧が高く、褥創発生の原因となる場合があるからです。
半座位とは、仰臥位の変形で、ベッドの上部を15~60度挙上した体位です。
膝関節部にあてものをして膝を少し屈曲させます。
そうすると、腹筋の緊張を和らげて安楽であり、身体が滑り落ちることも防いでくれます。
褥創予防の観点からは、キャッチアップは30度以下が望ましいです。
これ以上角度を上げると、仙骨・尾骨に摩擦やすれが起こるからです。
寝たきりの人にとって車いすは移動の手段としてよく用いられます。
さまざまな機能を付加することによって、お年寄りの力を十分活かし、また、介護者の腰痛を防ぎながら自立への手助けをすることができます。
自力で移乗するにせよ部分介助で移乗するにせよ、車いすのアームサポートがあると腰を大きく持ち上げないといけなくなります。
側板が跳ね上がったり取り外せたりすると、移乗動作が随分楽になります。
また、フットサポートを開閉することにより、足元が広く使えて下腿をこすりつけるすり傷が防げます。
その人の能力に応じた福祉用具を活用し、自立をサポートしましょう。