私たちの身体が生命を保っていくためには、呼吸をし、心臓から血液を全身に送り出すこと、そして身体の各部が有効に機能するために体温が一定であることなどが必要です。
私たちは、このような身体の働きの具合を、身体が発するさまざまなサインから知ることができます。
これらの“身体の生きているしるし”をバイタルサインと呼びます。
バイタルサインとは一般に、「体温、呼吸、脈拍、血圧、意識」を指します。
これらのサインは、身体に何か変調を来すと変化して、病気の徴候として現れてきます。
バイタルサインを正しく観察する技術を身につけることによって、お年寄りの身体の異常を早期に発見する手助けをすることができます。
私たちは風邪をひいたときなど、額に手を当ててみて熱があるかどうか調べますが、体温を測ることは、健康状態をチェックする方法として日常最もよく行われている方法でしょう。
この節では、体温調節の仕組みや体温の測り方、体温の観察、熱が出たときの対応などについて述べます。
身体の状態を把握するためには、体温の正しい測り方を身につけることが大切です。
正確な情報によって、すみやかな対応を考えることが可能になり、お年寄りの安全を守ることにつながります。
体温とは身体の内部の温度のことですが、身体の内部の温度は部位によってさまざまです。
理論的には大動脈出口の血液の温度が、身体の各部分の総まとめの温度として適当であると考えられています。
身体の中での代謝によって発生した熱は、血液によって身体の隅々に伝えられて体温となるからです。
私たちはふだん、腋窩(腋の下)や口腔内、直腸の温度を測ることによって、その値を体温と呼んでいます。
人間は恒温動物で、環境が変わっても体温を一定に保つ調節機能をもっています。
この一定の温度の下で酵素が働き、スムーズな新陳代謝が行われています。
この調節を司るセンターは、脳の視床下部にある体温調節中枢で、体熱の生産と放散のバランスを保っています(図1)
。
体温の生産にあずかっているのは、基礎代謝、筋肉運動、甲状腺ホルモンなどです。
一方、体熱は体外へ放散していきますが、それは「輻射、伝導、対流、蒸発」といった物理的な仕組みで行われています(図2)
。
輻射とは、たとえば体熱が周囲の壁の温度よりも高いときには、体熱は壁に向かって逃れていく状態(体熱のほうが低い場合は逆になる)をいいます。
伝導は、体を取り巻いている空気の温度が体温よりも低ければ、体熱は体の表面から直接空気のほうへ流れる状態です。
体温で温まった空気は上昇し、体の周囲の下のほうの空気は冷たくなる状況が対流です。
また暑い日には、発汗して汗が蒸発することで、熱が放散されます。
体熱の放散はその約90%が皮膚からであって、皮膚は一番重要な役割を担っています。
基礎代謝とは、体温の維持、呼吸・循環機能、腎臓での尿生成、中枢神経機能、最小限の緊張などの生命維持に必要なエネルギー代謝のことを指します。
代謝とは生体内で行われる化学反応の総称です。
代謝によって自己の生体維持と生命活動に必要なエネルギーや物質をつくり出しています。
体温計は水銀体温計に代わって、電子体温計が多く用いられるようになりました。
電子体温計には、腋窩用と耳式電子体温計があります(図3)
。
一般的に棒状の電子体温計の多くは、予測式のものです。
熱によって抵抗値が変化する素子であるサーミスタを利用し、電子回路により体温を測定し、測定値を表示するタイプのものです。
日常よく用いられています。
動作させるためには電源が必要となり、ボタン電池が内臓されています。
計測が終わると内臓されたスピーカーから電子音で、計測が終わったことを知らせます。
サーミスタ式では、測定時間中の変動をもとに3分間の変動を予測して、計算を行っています。
人体表面から出ている赤外線を検知することによって体温を測るものです。
耳に計器を当てることによって1秒で測定できます。
安静を保つことのできない乳幼児の体温を測定するのに便利です。
電子体温計は水銀体温計に比べて短時間で測定でき、大変便利ですが、これは実際の体温ではなく、電子回路によって計算された予測上の体温です。
使用する際には取扱説明書をよく読み、正しく使いましょう。
また、お年寄りの場合は、計測がすんだという“ピッピッ”という音を聞き逃すことがあるので注意が必要です。
体温を測るとき、体温計の先端が腕の向こう側に飛び出ていたり、体混計を真横に差し込んだりしている例をよく見受けますが、これでは正しい体温は測れません。
体温計の正しい入れ方は、腋の下の前下方から後上方に向かって差し込み、体温計の先端が腋の下の一番くぼんだ部分に収まるようにします(図4)
。
くぼみの一番深いところが、腋の下で最も温度が高いからです(図5)
。
腕を少し前方に出し、しっかりと腋を締めて体温計の先端が空気に触れないように密封します。
お年寄りや、やせている人は体温計が外れやすく、外れたことに気づかずに体温計の上に寝ていたり、ベッドの下に落としてしまうことがあるので注意してください。
測定する腕は左右どちらでもかまいませんが、左右で多少の差があるので、どちらか一方に決めておくとよいでしょう。
ただしまひのある場合は、一般にまひのある側が健側より体温が低くなるので、健側で測ってください。
まひのある人に体温計を渡すと、健側の手で体温計をとって、まひ側の腋の下に入れてしまうのをよくみることがあります。
まひがある場合は、介護者が体温計を入れてあげるとよいでしょう。
また、側臥位のときは、下になるほうの体温よりも上になるほうの体温が高くなります。
健康な日本人の大人の腋窩温の平均値は36.8℃前後といわれています。
私たちはふだん、体温が37℃を超えると熱があるといっていますが、一律にそう断言できるものではなさそうです。
各人の平熱を知るためには、次のことを知っておく必要があります。
体温には、個人差、日差、年齢差があります。
一般に明け方が最も低く、夕方が最高になりますが、その差は1℃以内です。
小児は成人よりわずかに高く(0.2~0.5℃)、お年寄りはわずかに低いのが普通です。
成人女性は月経周期に応じて変動します。
腋窩、口腔内、直腸で測定した体温には差があります。
直腸温が一番高く、腋窩温が最も低く出ます。
身体に熱っぽさを感じたときや、どうも気分がすぐれないときなどは、必ず実際に体温を測ってみます。
朝夕の2回測ってください。
実際に熱があったときは、6時・10時・14時・20時に測り、発熱の様子をつかんでください。
体温は1日何回も測るとなかなか覚えておけないので、忘れないうちにノートやメモ帳に記録します。
その後体温表(グラフ)に書き入れると、その変化がよくわかります。
医師に報告するときは、息苦しそうにしていたとか、下痢をしたなどの身体の様子や、飲ませた薬品名などを体温表に書き加えてください。
これらは診断に大変役立ちます。
また、報告に際しては、病気のときの様子のみならず、平生の様子を知らせることも大切です。
発熱には必ず原因がありますが、病気以外の原因によることもあります。
食後・運動後・入浴後は多少体温が上がる場合がありますし、過労や睡眠不足で微熱が出る場合もあります。
水分不足(脱水状態)でも発熱する場合があります。
乳幼児は体温調節機能が未熟なため、夏場によく発熱がみられます。
お年寄りは飲食量が少なく、体温調節機能が衰えているので、暑い環境下では高体温になる人もいます。
このようなときは、とりあえず身体を冷やしたり水を飲ませたりして様子をみます。
熱の高低のほかに、急に上がったのか、段々ひどくなったのかなどの発熱の状況や、熱以外の症状をよく観察することは、病気の診断の手助けとなるのでとても大切です。
熱の高低にかかわらず、発疹・意識障害・痙攣・呼吸困難・激しい下痢や腹痛などをともなっているときは、すぐに受診が必要です。
特にお年寄りは発熱しにくいという特徴をもっているので、ちょっとした風邪のような症状で熱があまりなくても、息が苦しそうな場合は医師に早く診てもらわなければなりません。
熱のほかに特別な症状がなく、全身の状態が悪くなければ、温かくして安静を守り、様子をみてください。
そのとき、温かい飲みものなどで水分を十分に補ってください。
氷枕や冷たいタオルなどで額を冷やすことは、それで熱を下げることにはなりませんが、当てることで気持ちよければ使ってください。
熱の出はじめにふるえが出現する場合がありますが、このときは毛布を追加するなどして保温に努めます。
また、急に高熱が出ると、それだけでかなり苦痛です。
とりあえず家庭薬の解熱剤や風邪薬などを用法どおり使う必要もありますが、病気そのものが解決するわけではないので、その後の身体の様子をよくみて、かかりつけの医師や看護師にすみやかに相談しましょう。
お年寄りは基礎代謝や運動量が減少するので、体温が36℃に達しない人も少なくありません。
通常37℃は微熱と判定されますが、平熱が35.5℃の人にとっては、いつもより1.5℃でも高く発熱状態といえるので、注意が必要です(表6-1 table6-1(別ウィンドウで開く))
この節では、呼吸器の構造と働き、呼吸数の測り方、呼吸の観察のポイント、呼吸を助ける環境づくりなどについて述べます。
呼吸は、体温や脈拍とともに、お年寄りの病状を知る上で重要なサインとなります。
呼吸がうまく行われないと、身体は必要な酸素を十分得ることができませんし、また身体の中にできた炭酸ガスもうまく身体の外に排出することができません。
環境を整えることは、お年寄りの安全を守るために欠くことのできない、大変重要なお世話です。
呼吸とは、栄養素の燃焼に必要な酸素(O2)を外界から取り入れ、燃焼の結果生じた炭酸ガス(二酸化炭素CO2)を排出することです。
呼吸には、肺胞内の空気とそこを流れる血液との間で行われる外呼吸(肺呼吸)と、血液と組織との間で行われる内呼吸(組織呼吸)とがありますが、一般に私たちが呼吸といっているのは前者です。
呼吸器は、気道と肺から成り立っています(図6)
。
気道は外気の出入りする道で、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支から成り、次第に細くなって肺胞に続きます。
気道の働きは吸い込んだ空気を体温に温め、加湿をし、空気中に含まれるちりやほこりを除去することです。
気道内にちりやほこりが入ると、それらを排出するために咳やくしゃみが起こります。
肺は、空気の通り道となっている管状構造をした気道(気管支)と、酸素の取り込みや二酸化炭素の排出を行うガス交換の場である肺胞から成り立っています。
肺胞は細気管支の先にぶどうの房のようについています。その数は約3億個といわれています。
ですから、表面積は大変広く、そこで十分なガス交換が行えるようになっています。
呼吸運動とは肺を伸び縮みさせて、その中の空気を入れ換える運動のことです。
呼吸運動は肺が運動するのではなく、これを包む胸郭の拡大・収縮によって行われます。
胸郭の伸び縮みは肋間筋と横隔膜(この2つを合わせて「呼吸筋」という)の協調運動によって行われます(図7)
。
呼吸が絶え間なく行われるのは、延髄から橋にある呼吸中枢からの刺激が、絶えず呼吸筋に達するためです。
呼吸型には3つの型があります。
胸郭の運動による呼吸を「胸式呼吸」といい、女性に多くみられます。
胸が突き出て肩の上がる形の呼吸です。
横隔膜の運動による呼吸を「腹式呼吸」といいます。
吸気の際に腹部が膨隆する形の呼吸で、新生児にみられます。
胸郭・横隔膜が同時に動く呼吸を「腹胸式呼吸」といいます。
一般に男性に多くみられます。
胸郭を広げる能力は、腹式呼吸よりも胸式呼吸のほうがはるかに大きいので、呼吸促進の必要に迫られたときは、呼吸の型は必ず胸式になります。
呼吸数を測るときは、手を相手の胸またはお腹の上に軽く置いて、1分間その動きを数えます。
または胸腹部の上下運動を数えます。
上下運動は、真正面からみるよりは、やや斜めか側面からみたほうがよくわかります。
いずれにしても、いつ測ったか当人にはわからないようにするのがコッです。
呼吸は意識的に変えることができますし、いざ呼吸を測るといわれると、意識してしまう場合もあるからです。
脈をとったあと、そのままの姿勢で呼吸数も測るとよいでしょう(図8)
。
夜間眠っている人や呼吸が微弱な人は、寝具をかけたままでは胸腹部の上下運動がわかりにくいものです。
このような場合は、小鼻の動きをみたり、ティッシュペーパーのような薄い紙をちぎって鼻の入り口にかざし、その揺れ具合で知ることができます。
呼吸を測るときの1分間は、案外と長く感じるものです。
脈を測るときは15秒間測って4倍することもありますが、呼吸数は数が少ないので、そのようにすると誤差が大きくなるので、必ず1分間測るようにしてください。
呼吸は、安静時には静かに規則正しく、ある一定の深さと長さをもって行われています。
普通は吸息(息を吸引が約1秒、続いて呼息(息を吐く)が約1.5秒かかり、その後約1秒くらいの休止期があります。
1呼吸が大体3~5秒です(図9)
。
呼吸数は年齢によって違います。
安静時における呼吸数は新生児で40~50、乳児では30、5歳児では25、成人で15~20、そしてお年寄りは14~16くらいで、年をとるにつれてゆっくりとした呼吸になります。
新生児で呼吸数が多いのは、肺胞の数が成人の6分の1くらいしかないためです。
呼吸は年齢のほかに、運動、入浴、興奮、睡眠、体温、気温などの原因によって変動します。
運動や入浴の後、怒ったときなどに呼吸が促進するのはみなさんも体験されているでしょう。
また、睡眠中は呼吸数は少なくなります。
呼吸を観察する目的は、その人がよい呼吸をしているかどうかを知ることです。
よい呼吸とは、身体に必要な酸素を十分吸い込むことができ、また、身体にできた炭酸ガスなどの不必要なガスを身体の外に排出できていることを意味します。
普通の病気のときは、呼吸状態はあまり問題ありませんが、脳血管の障害(脳卒中など)や呼吸器・心臓の病気のある人の場合は、呼吸状態をよく観察する習慣を身につけてください。
呼吸を観察するときは、いきなり呼吸数を数えるのではなく、まず楽に呼吸をしているか、苦しそうな呼吸(努力呼吸)をしていないかをしっかりとみてください。
努力呼吸ならば、苦しそうな顔をしていたり、顔色も悪く、特に唇の色が紫色を帯びていたりすることがあります。
また、上着を脱いでもらうと、首の付け根の左右のくぼみや肋骨の間が、息を吸うたびにくぼんだりします。
ゼーゼーという呼吸音が聞かれることもありますし、呼吸が苦しいと自然に座位をとります。
このようなときは、すぐに医師や看護師に報告します。
次に呼吸が浅いか深いかを見届けながら、呼吸数を数えます。
そして、数を数えながら呼吸が規則的に行われているかどうかも観察します。
呼吸状態を観察した後は、忘れないうちに記録します。
身体に何らかの異常が起こると、呼吸や体温などのバイタルサインはお互い関連し合いながら微妙な変化をしていきます。
体温表に呼吸状態も書き込めるようにしておくと、診断に大変役立ちます。
熱が出たときは、体内で多くの酸素を消費するので、呼吸数は増えますが、熱が下がると呼吸数も元に戻ります。
発熱やヒステリー性過呼吸症候群(深い呼吸が頻繁に続くと炭酸ガスが欠乏し、呼吸中枢が刺激されなくなって失神する。
若い人に多い)以外の呼吸の異常は、一般に病気が重いことを示します。
特にパ夕ーンの変化は要注意です。
呼吸の数や深さ、パ夕ーンに現れる変化には、次のようなものがあります。
①深さは変わりないが、呼吸数が多い、または少ない。
②呼吸数が変わりないが深い、または浅い。
③級数が多く、かつ深い。
④呼吸数が少なく、かつ浅い。
⑤息が止まったかと思うと浅い呼吸が始まり、段々大きくなり、やがて小さくなって止まってしまうパターンの繰り返し。
⑥大きな息が止まり、しばらくするとまた始まるパターンの繰り返し。
⑦非常に大きな呼吸が続く。
これらの呼吸異常を見つけたときは、すみやかに医師に報告します。
また、死が間近いことを示す呼吸は「あえぎ呼吸」といい、呼吸数は10以下でリズムは不規則となり、呼吸ごとに顎が上がったり下がったりします。
深い吸息と速い呼息が数回続いた後、無呼吸になり、次第に無呼吸の時間が延びていき、呼吸が停止します。
睡眠薬や鎮痛剤、麻薬を使っている人は、薬の影響で呼吸の数が少なくなります。
呼吸器の病気の人や寝たきりのお年寄りをお世話するとき、清浄な空気を呼吸させることはとても大切です。
室内の換気と湿度に十分気をつけてください。
室内は人の呼吸によって空気が汚染します。
同室者の人数や部屋の広さにより、空気の汚染の程度は異なりますが、常に換気を心がけてください。
特に石油・ガスのファンヒーターを使っているときは、1時間おきの換気が必要です。
もちろん、病人の前での喫煙は禁止です。
タバコの煙の中にはニコチン、一酸化炭素などのほかに、発がん物質も含まれています。
また、喫煙は肺がんなどの原因となりますし、換気障害を強めるので、呼吸器の病気をもっている方には禁忌です。
そのほか、生活の場は衣類や寝具などのほこりが溜まりやすく、細かなはこりなどは上気道の深部に吸入され、気管を刺激します。
部屋の掃除をするときは、病人を別室に移すか、掃除機でほこりを吸い取り、ほこりを吸わせないようにしてください。
湿度の調整も必要です。
暖房は室内を乾燥させるので、気道の乾燥感を増し、咳を誘発します。
また、痰の出る患者さんでは、痰の粘調度が増して咳が出にくくなり、スムーズな呼吸を妨げます。
このようなときは、痰をうまく喀出させる工夫が必要です。
横向きにさせて、背中を叩くことは痰の喀出を助けますし(図10)
、低いベッドのふちに座らせて、両手を床について上半身を下げると、肺の下に溜まった痰は出やすくなります。
また、痰を軟らかくするためには水分を与えますが、寝たきりのお年寄りの場合、氷片をなめさせるとむせることもなく、痰喀出の手助けができます。
脈拍は、体温や呼吸とともに、お年寄りの身体の状態を知る上で重要なサインとなります。
脈拍は心臓の拍動を表すもので、脈拍に触れると、脈拍数だけでなく、脈のリズム、大きさ、緊張度がわかり、病気を発見する手がかりとなります。
また、脈拍測定は用具も必要なく、とても手軽に行うことができます。
この節では、初めに心臓の構造と働きについて説明をします。
それから、脈拍の測り方、脈拍の観察方法について述べます。
脈拍の観察方法をしっかりと理解することによって、異常の早期発見の手助けをします。
心臓は1分間に大体60~80回くらいのリズムで収縮と拡張を繰り返しています。
心臓が1回収縮すると、約60~80mlの血液が大動脈から全身に送り出されます。
この血液によって動脈の壁はぐっと押し広げられ、ふくれますが、次の瞬間、心臓の拡張によって、元の状態に戻ります(図11)
。
この血管壁の周期的なふくらみは、波のように末梢の動脈に伝わっていきます。
心臓から遠い部位でも、動脈の上に指を置いてみると、心臓の拍動(収縮)と一致して指が持ち上げられるような振動を感じ取ることができます。
これが脈拍です。
脈拍数を数えることによって、心臓の収縮数、つまり心拍数を知ることができます。
脈拍について理解するためには、心臓の構造と働きを知ることが必要となります。
心臓から全身の組織の隅々まで血液を送り込み、同時に集めて心臓まで戻す(循環させる)装置が循環器で、その大もとが心臓です。
組織が生きていくためには、肺から吸収した酸素と、消化器から吸収した栄養素と、内分泌からのホルモンが必要であり、その一方で、組織の中に生じた老廃物(不要になったもの)を体外に排出する必要があります。
これらの物質を溶かして運ぶのが血液で、その血液を動かすのが循環器です。
心臓が主にポンプの働きをして、血液を循環させます。
心臓から各組織へ血液を送り届ける血管を動脈といい、送り出す血管を静脈といいます。
そして、この動静脈の間にあって両者をつなぎ、組織中の酸素や栄養素を細胞に与え、老廃物を運び出すことに携わっている細かい管を毛細血管といいます。
心臓は胸の中央より少し左寄りにあり、大きさはその人の握りこぶし大です。
主に筋肉でできており、この心筋の収縮によって血液が動脈に押し出され、拡張によって静脈から心臓に流れ込みます。
心臓は4つの部屋に仕切られ、2つの心房と2つの心室があります。
それぞれ左心房・左心室・右心房・右心室と呼ばれています。
左右の心室の入口と出口には弁が備わっています。
いずれも一方にしか開かないようにできており、血液の逆流を防いでいます(図12)
。
心臓は規則的に拍動しています。
右心房の上のほうに洞結節というところがありますが、ここが規則正しいリズム取りをしています(心臓の拍動は自動的に起こります)。
そして、この命令が、房室結節・ヒス束といったような経路を通って心室に伝わり、心室が収縮して血液が出ていきます。
それが絶え間なく繰り返されています。
このシステムを心臓の刺激伝導系といいます。
心臓の拍動は、心臓を支配する神経の働きや、いろいろな反射によっで調整されています。
脈拍を測る時は、秒針つきの時計、またはストップウォッチを準備します(介護をするときは、秒針つきの腕時計が便利です)。
そして、心身を安静にさせた後で測ります。
たとえば、お年寄りがトイレから部屋に戻った直後はしばらく休ませます。
次に脈拍の触れる部位を探します。
自分の腕を眺めてみて下さい。
青紫色の血管が見えますが、これは静脈です。
動脈は静脈と違って身体の深部を走っているので、身体の表面からは特定の場所でしか触れることが出ません。
脈拍の触れる部位を図13
に示します。
これらの部位の中で、脈拍を測るのに最もよく用いられているのは橈骨動脈です。
橈骨動脈は手首の親指側と覚えておくとよいでしょう。
脈拍は普通、人差し指・中指・薬指の3本の指をそろえて、指の腹を橈骨動脈に当てて測ります(図14)
。
このときは、指先に力を入れ過ぎないようにします。
あまり指先に力を入れ過ぎると、自分自身の指先の脈拍を感じることがあるからです。
また、脈拍を測るとき、親指を用いないのは、親指の動脈が比較的太く、この拍動が、相手の脈拍の拍動と紛らわしいことがあるためです。
幾人かの脈拍を測ってみると、人によって脈拍の触れやすい人と触れにくい人がいることがわかると思います。
女性より男性のほうが触れやすいことが多く、また太っている人よりやせている人のほうが脈拍がわかりやすくなります。
太っている人の脈拍が触れにくいときは、指先に少し力を加えてみてください。
また、脈拍が非常に弱く触れにくいときは、手を握ったり広げたりする動作を10~15回ほど繰り返させ、その後で測ります。
橈骨動脈が走っていると思われる部位を触れても、さっぱり脈拍を感じないときもあります。
人によっては、橈骨動脈が普通の場所になく、橈骨の外側に抜けて手背側に走っていることがあるからです。
この場合は、注意深く橈骨動脈の拍動を探してください。
脈拍を測るとき、相手の腕を疲れさせないように、測定者の手で相手の腕を支えたり、相手の腕をテーブルなどの上に乗せて測ります。
脈拍数は1分間の数です。
脈拍を測るときは、脈拍数のほかに、リズムや強さを観察します。
初めにリズムや強さをみてから、数を数える習慣をつけるとよいでしょう。
脈拍数は普通、15秒間の脈拍数を数えて4倍するか、または30秒間数えてその値を2倍します。
ただし、脈が不規則な場合や心臓病の場合には、正確に1分間の脈拍数を測ることが必要です。
健康な大人の脈拍数は1分間で60~80ですが、赤ちゃんや子どもはもっと多くなります(表6-2 table6-2(別ウィンドウで開く))。
一般に女性は、同年の男性より少し多いとされています。
脈拍数は、その人の身体の状態が同じであればほとんど変化しませんが、表6-3 table6-3(別ウィンドウで開く)のような場合は健康な人でも脈拍数は増えます。
脈拍が1分間に100以上ある場合を頻脈と呼びます。
脈拍数が増える場合の病的なものとしてよくみられるのは、熱が出たときです。
40℃ぐらいまでは、0.5℃上がるごとに1分間10の割合で脈拍数が増えます。
甲状腺機能亢進症や貧血がひどいときなどにも頻脈がみられます。
脈拍が1分間に60以下の場合を徐脈と呼びます。
スポーツマンは1回に心臓から送り出される血液量が多いので、脈拍数が40ぐらいの人もいますが、一般に健康な人では、脈拍数が少なくなることはありません。
心臓や脳神経の病気では徐脈がみられます。
本人は気がつかず、元気がなくグッタリしているお年寄りの脈拍数を測ったら、徐脈であったなどという例もみられます。
このような場合は、すみやかに医師に報告します。
心臓の病気をもっている人の場合、飲んでいる薬によっては脈拍数に注意します。
正常な脈拍ぱトン・トン・トン”という規則正しいリズムをもっています。
脈に触れてみて、“トン・トトン”という感じや、“トン・トン・━━━・トン”と脈が欠けるなど、リズムが乱れる場合を不整脈といいます。
脈拍が1回欠けたように触知する場合を結滞といいますが、結滞のみられる人は意外と多いものです。
なかには無害のものもあるので、気がついたら医師に報告をして、心配ないものかどうか調べてもらいましょう。
医師に報告するとき、脈拍の特徴を自分なりの言葉、「トン・トン・トトン」というように言語化して覚え、伝えてください。
また、不整脈が起こったときの状況(たとえば、突然起こった、持続的に起こっている、静かにしているときに起こったなど)と、そのほかの症状(動悸・めまい・息切れなど)があったら、それらも伝えると、診断の手助けとなります。
心筋梗塞などの心臓病があって不整脈がみられるときは、すみやかに医師に報告します。
脈拍の強さの程度は、比較の問題であって、なかなか客観的には表現しにくいものです。
脈拍測定の体験を多く積んで、その中から学びとっていきます。
健康な人では、激しい運動をした後に脈拍を触れると、強い脈拍を感じ取ることができます。
病的なものは、熱が出たときや、高血圧の人、心臓の大動脈弁に異常のある人などにみられます。
心臓が衰弱すると脈拍は微弱になります。
最近、スーパーマーケットや薬局で血圧計が販売されているのをよくみかけます。
今日では、血圧の測定は、体重や体温を測ることと同様に、一般家庭でも広く行われるようになってきました。
この節では、血圧とは何か、血圧計の種類、血圧の測り方、血圧の正常値、血圧の異常について述べます。
正しい測定技術を習得して定期的に血圧を測ることは、日頃の健康管理に大変役に立ちます。
また、血圧値を記録しておくと、いざというとき診断の手助けとなります。
血圧は、血液が血管壁に作用する内圧で、普通は動脈の内圧を指します。
これは、血液が必要な身体各部への血流を維持するための物理的な現象であるともいえます。
動脈の内圧を実験的に直接測ることはできますが、日常で測ることはできないので、普通は、血管内から血管壁組織に直角に作用している圧力(側圧)を血圧といいます。
このように、血圧とは血液が血管の壁を押している力なので、動脈にも静脈にもそれぞれ血圧はありますが、静脈の場合は静脈圧と呼んで区別しています。
私たちが日常“血圧”といっているものは、上腕動脈の血圧のことです。
血圧は、心臓の収縮期に最も高くなります。
このときの血圧を最高血圧、あるいは収縮期血圧と呼びます。
これに対し、心臓の拡張期に血圧は最低となるので、このときの血圧を最低血圧、あるいは拡張期血圧と呼びます。
血圧の維持に影響を及ぼしているものとして、①心臓の拍出力(ポンプの力)、②末梢血管の抵抗、③動脈血管系の血液量、④血液の粘稠度(ねばりけ)、⑤血管壁の弾力性、などがあります。
血圧計には、水銀式血圧計、アネロイド型血圧計、電子血圧計があります(図15)
。
病院などで最も広く用いられていたのが水銀式血圧計です。
聴診器で血管音を聴きながら、水銀柱の目盛りを読みます。
種類中、最も測定値が正確であるとされています。
しかし、最近では、病院などでも電子血圧計がよく用いられるようになりました。
アネロイド型血圧計は、水銀柱の圧力をスプリング圧力計の針で示すようにしたものなので、水銀式血圧計と同様の正確さがあり、かつ小型で軽いので携帯用に便利です。
聴診器で血管音を聴きながら、ダイヤルの目盛りを読みます。
電子血圧計は、水銀式血圧計などのように聴診器を使って自分の耳で血管音を聴く面倒はありませんが、いくつかの問題点があります。
電子血圧計には血管音をマイクロホンで自動的に聴き取る方法のものがありますが、この場合、雑音も拾ってしまいます。
したがって、測定中に腕を動かしたり、机に振動が加わったりしたときに発生する雑音のために、正しい血圧値が出ないことがあります。
また、動脈拍動にともなって出てくる振動をとらえて血圧値を決める方法の電子血圧計では、拍動の触れるところにきちんとセンサーが当たっていないと、値にバラつきがみられることがあります。
電子血圧計は慎重に用いることが必要です。
水銀式血圧計、アネロイド型血圧計は、聴力に障害のない方でしたら、練習をすれば誰にでも使えるようになります。
通常、自宅で水銀血圧計や電子血圧計を用いて自分や家族の血圧を測ることは、健康管理の面などから、推奨されています。
しかし施設などで、介護職として血圧を測る場合、「医師法第17条、歯科医師法第17条および保健師助産師看護師法第31条」の観点からは「医行為」であるため、介護職が行うとこれらの法律に反するという問題が生じます。
そこで、これらの解釈が検討された結果、厚生労働省から「自動血圧計で測定される血圧測定」については、介護職にも許されることとなりました(平成17年)。
自動血圧計を正確に使いこなすためには、血圧測定の基本的知識や技術を身に付ける必要があります。
これらについては、水銀血圧計の使い方が基本となっているので、ここでは、電子血圧計を正しく使う技術を体得する方法として、水銀血圧計の使い方とその意味を述べます。
これらの知識を用いることによって、自動血圧計での血圧測定技術を学んでください。
血圧は普通、上腕動脈で測ります。
これは測りやすいのと、心臓と同じ高さであるためです。
上腕動脈は腋窩の中央から、肘窩(肘の内側)の中央やや内側に向かって斜めに走っています。
血圧計の腕に巻く帯をマンシェットといい、この中には22cmくらいの空気を入れるゴムの袋が入っています(図16)
。
この中のゴムの袋が上腕動脈を囲むようにしてマンシェットを巻き、空気を送り込むと上腕は締めつけられ、ついには上腕動脈もペシヤンコにつぶれてしまいます。
次に、マンシェットの空気を少しずつ抜いて上腕動脈の圧迫を解いていくと、ある時点から再び血液が流れ始めます。
このときには血管はまだほんのわずかしか開いていないので、狭い血管を血液が無理に通るときに音が発生します。
この音は、血管の圧迫が取れて元の太さに戻る直前まで続きます。
この血管音は、発見者の名にちなんで「コロトコフ音」と呼びます。
コロトコフ音は、初めトントンという小さな音で、次にザーザーという雑音に、そしてまたトントンという大きな音となり、急に小さくトントンという音になって、音は消失します。
この音を聴診器で聴いて、音が聴こえ始めたときの目盛りが最高血圧、音が消えたときの目盛りが最低血圧です。
図17
~25に示します。図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
たとえば、最高血圧が128、最低血圧が84の場合は「128/84」と書きます。
血圧の単位はmmHg(ミリメートル水銀柱)です。体温表などのグラフに体温や脈拍と一緒に書いておくと、診断の手助けになります。
血圧の基準値は、以前、WHOでは最高血圧160mmHg以上、最低血圧95mmHg以上を高血圧、最高血圧140~160mmHg未満、最低血圧90~95mmHg未満を境界域高血圧としていました。
しかし、その後各国でその値を下げたほうがよいという研究成果からいくつかの学術団体で基準値が検討されました。
現在では適切な血圧(至適血圧)として120/80mmHgが勧められています(表6-4 table6-4(別ウィンドウで開く))。
病院などで測ると、心理的緊張のためにいつもより高く出る人が多いものです。
健診などで高いといわれたら、家庭でリラックスした状態で測ったり、日や時間を変えて何回か測ったりして、かかりつけの医師に指示をもらってください。
日常生活の中でも、血圧が上がるような要因はたくさんあります。
少々の血圧の上昇は様子をみても大丈夫です。
そのためには、ふだんの自分の血圧値を知っておく必要があります。
また、定期的に自分の血圧を測り、記録しておいて、受診のときに持参しましょう。
動脈硬化がある程度進んでいる人や降圧剤(血圧を下げる薬)で治療中の人は、どの程度血圧に変動があったら連絡したほうがよいかを、主治医に前もって聞いておきます。
よく血圧が低いと心配している人がいますが、血圧値が低くても普通に生活できれば心配ありません。
一応、最高血圧が100以下の場合を低血圧と呼びますが、90~100前後の人は割合多いものです
特に降圧剤を服用している人で効き過ぎている場合には、血圧が低下することがあります。
仮に測定値が130や140であっても正常としないで、ふだんよりどのくらい下がっているかを考えて、医師に報告してください。
最近多くなっている心筋梗塞(心臓を養う血管である冠状動脈が詰まって、心臓の組織が壊死に陥る病気)のときも、血圧は急激に下がります。
突然気分が悪くなったり冷汗がみられたりしたときは、すぐに血圧を測り、ふだんと比べてあまりに低いときは、緊急に医師に連絡します。
そのためにも、ふだんの血圧を知っておくことはとても大切です。
血圧を測る腕は右か左かと聞かれることがありますが、どちらでもかまいません。
健康な人では左右の差はほとんどなく、あっても2~10mmHg程度の差です。
定期的に測る場合には、左右どちらかに決めておいたほうがよいでしょう。
体質で左右差のある人もいますが、そのような人は医師から指示された側で測ります。
また、血圧を測る時間は特に決まっていませんが、定期的に測定して自分の健康管理に役立てる場合は、時間を決めておいたほうがよいでしょう。
血圧はできるだけ心身ともに安定したときに測ります。図26
のような状態のときは血圧は変動します。
自分で血圧を測定することは、健康管理の一つとして大切です。
電子血圧計は素人でも簡単に測定できるように開発されており、家庭用として普及しました。
また最近では、誰でも気軽に測れるように、クリニックの待合室や公共施設にも設置されています。
血圧値は健康情報として大変有用なので、正しい測定の方法をマスターすることが大切です。
電子血圧計を用いるときの留意点を述べます。
説明書をよく読み、指示された方法で測定しましょう。
そして、その指示が何のためなのかを、本文の「血圧の測定の仕方」と照らし合わせてください。
腕帯の巻き方の説明は、上腕動脈の音や拍動の振動をきちんと捉えるために、わかりやすい言葉で説明がされていることがわかると思います。
電子血圧計は騒音や振動のある場所での測定は困難です。
特に他人の血圧を測定するときには、測定者が音や振動を発生させないように気配りをして測定することが大切です。
クリニックなどに設置されている電子血圧計での血圧測定は、椅子に座って腕帯に手をとおしスイッチに押せばすぐに測定できます。
しかし測定前には、必ず深呼吸を10回くらいして、息を整えた状態で測定してください。
そうしないと、運動直後の血圧を測定したこととなります。
普段の血圧(安静時)を知ることが大切です。
意識の障害は、主に脳卒中や糖尿病、心筋梗塞などのときにみられますが、健康な人でも一時的に意識障害を来すことがあります。
たとえば、脳貧血を起こしたときなどです。
この節では、意識障害とはどのような状態なのか、意識障害を起こす病気、意識障害の観察の仕方、いざというときの応急手当について述べます。
お年寄りの安全を守るために、チャンスを活かして救急法の訓練を受けることも必要です。
意識とは、自分自身と周囲の状況に気づいている状態といわれています。
これは、自分自身が置かれた状況(時間・場所・周囲の人々)を正しく認知し、自分の体内に生じた刺激(痛みや膀胱膨満など)や外からの刺激(問いかけや音など)に対して的確に反応できる状態です。
この状態のいずれかでも欠けていれば、意識障害です。
意識は脳幹網様体賦活系によって保たれていると考えられており、脳幹や視床下部、広い範囲の大脳皮質に障害があると、意識障害が起こります(図27)
。
失神も意識障害の一つです。脳の血液循環が障害されることによって、一時的に意識障害を起こす場合を指します。
失神を含めて意識障害をみたときは、隠された病気を知ることと、意識障害の程度を知ることが大切です。
意識障害を来す病気はいろいろありますが、急に起こるものには次の病気があります。
脳卒中
糖尿病
一酸化炭素中毒
心筋梗塞
てんかん
ヒステリー
これらの病気のほかに、健康な人でも一時的に意識障害を来すことがあります。
満員電車の中で長時間立っているときや、抜歯などで強い痛みを感じたときに、気分が悪くなって意識を消失することがあります。
これは「血管迷走神経性失神」といいますが、静かに寝かせておけば自然に回復します。
意識障害は、少しぼんやりしている程度の軽いものから、痛みにも反応しないほど重度なものまであります。
その強さの程度によって、一般に表6-5 table6-5(別ウィンドウで開く)のように分類されます。
意識障害をみる場合は、刺激を与えてそれらに反応する様子を観察します。
普通用いられるのは、呼びかけ刺激と痛み刺激で、弱い刺激から始めていきます。
まず名前を呼んでみます。
「○○さん」と普通の声で呼びかけ、返事がない場合はさらに大きな声で呼んでみます。
「ハイ」とか「何ですか」と言葉で返事があれば、反応はよいと考え、別の呼びかけをします。
言葉による返事がない場合は、ほかの方法、たとえば口を動かす、目をこちらに向ける、手を動かすというような動作で返事をしようとしているかどうかを確かめます。
これは、見逃してはならない反応です。
言葉で反応できるときは、呼びかけてから答えるまでの時間や、答える言葉の正確さを観察します。
生年月日や今日の年月日、住所など、客観的に判断できる質問をするとよいでしょう。
言葉で答えるけれども、遅がったり不十分だったりするときは、つつくなど、軽い痛み刺激を加えながら呼びかけてみます。
呼びかけて応答がない場合は、痛み刺激を与え、それに反応する動作(顔をしかめる、手足を動かす、払いのけようとするなど)を観察していきます。
痛み刺激には、上体を軽く叩く、また、強いものでは上腕や太腿の内側を強くつまむ方法などがあります。
このような手順で、意識障害の程度を調べていきます。
まず、「どうしたんですか?」とか「○○さん、どうしたの?」とそばに寄って声をかけ、意識があるかどうかを確認します。
このとき、口がきけるようなら一安心です。
口がきけるということは、呼吸ができてある程度の意識があることを示しているからです。
もし口がきけない、肩をやさしく叩いても反応しない場合は、すぐに大声で助けを呼びます。
助けを読んだらまず、気道の確保、呼吸の確認をします。
まず下顎を上げ、喉を伸ばした姿勢をとらせます(図28)
。
これは、舌が喉の奥に落ち込んで気道を塞ぐことを防ぐためです。
口の中に吐いたものが溜まっているときは、顔を横に向かせ、指でかき出します(図29)
。
呼吸の確認は、胸の動きをみたり、本人の顔に手をかぎして口や鼻から吐き出される空気の有無を確かめたりします。
確認には10秒以上かけないことが大切です。
胸の動きがなく、吐息を感じないときは「呼吸がない」と判断し、ただちに人工呼吸を開始します(図30)
。
人工呼吸ははじめに2回繰り返します。
2回の人工呼吸によって息を吹き返したかどうか確認します。
息をしていないときには、すぐに心臓マッサージ(15回)を開始し(図31)
、人工呼吸(2回)と心臓マッサージ(15回)を繰り返します。
脳出血などでは、動かさないほうがよいといわれることもありますが、どうしてもということではありません。
トイレなど狭い場所ではそのままにしておけませんし、人手があって動かせる状況なら、安静と保温の保てる場所に移したほうがよいでしょう。
移す場合には、特に頭がグラグラしないようにしっかり支えて、そっと静かに運んでください。
意識の状態や呼吸の状態も引き続き観察します。
たとえ息はしていても、段々不規則になったり、荒くなってくることもありますし、初めはちゃんと話ができたのに、そのうち意識がなくなっていくということもあります。
そのほか、全身の状態の観察も大切です。
顔色、目つき、冷汗をかいていないか、脈拍の強さと数、手足は冷たくないか、手足は動くか、尿や便の失禁はないかなどを観察します。
これらの情報は、病気の診断に大変役立ちます。
病人の名前と年齢、いつどこで何をしているときに倒れたか、倒れたときの症状(意識・呼吸・脈拍・その他の症状)を報告します。
意識障害の程度は、ありのままに表現します。
たとえば、「今まで元気だったのに突然倒れて、大声で呼んでも目を閉じたままです」というように伝えます。
救急車を呼ぶ場合
救急車は病人をいち早く病院に運んでくれますし、救急隊員は救急法を一通り心得ているので、緊急の際は非常に頼りになる存在です。
しかし、救急車にもその働きの限界があります。
まず救急車には治療を期待することはできません。
また、救急車は、呼ばれたら必ず医療機関に運ばなければならないと義務づけられているので、利用者が病院を指定しない限り、所轄の救急指定病院に病人を運びます。
この場合、自分の好みの医療が受けられるとは限らないので、そのつもりで行かなければなりません。
救急車がいくら早いとはいえ、救急の事態によっては、救急車を呼ぶことが必ずしもよいかどうかという問題もあります。
いろいろ考え合わせてみると、緊急の場合は、かかりつけの医師に電話をするのが最もよい方法だと思われます。
状況によっては往診してくれたり、救急車を呼ぶべきかどうか、そしてどこの病院に運んだらよいかということも相談できます。
緊急入院の場合も、病人の家族が個人的に病院と交渉するより、かかりつけの医師を通してなされるほうが、スムーズにいくことが多いようです。
119番で呼び出してから到着まで、大体数分ですが、家や目的地を探すのに時間がかかると到着が遅れます。
電話の際、できるだけ具体的に目印になるものを告げるようにしましょう。
119番に電話をすると、次の順序で尋ねられます。
火事ですか?
救急ですか?
「救急です。」
どうしました?
「父が突然倒れて意識不明なんです。」
お住まいとお名前は?
「O区OO町OO番地のOOです。」
今お使いの電話番号は?
「0000の0000です。」
近くに目標はありますか?
「OO小学校の横です。」
なお救急車を待つ間に、受診に必要なもの(健康保険証、印鑑、入院となった場合にとりあえず必要な寝衣や洗面道具)を用意します。
同行する人も決めておいてください。
急変時の状況を一番よくわかっている人が同行してください。
意識を失って倒れた人をみたとき、まずあわてずに病人の状態をよく観察してから、すみやかに医師または119番に連絡します。
また、その場では、病人のそばを離れないこと、一人がリーダーの役割を担って、全体の様子をみながら対応することが大切です。
2004年から一般市民にも除細動器(AED)の使用が認められました。
突然、意識を失って倒れる人のうち、その原因として比率が高いのは心臓に何らかの異常がある場合です。
なかでも「心室細動」と呼ばれるものは、早期に除細動を施すことで、元の心臓の動きを取り戻すことができます。
もし、身近にAEDがあれば、ただちに使用します。
使い方は簡単ですが、一度講習会などを受講しておきましょう。