解析力学 2000年度 Q&A Takayuki Goto email: gotoo-t@sophia.ac.jp <<戻る>>
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1. 変分法
Q1-1) パラメータの微分が変分?
To: gotoo-t@sophia.ac.jp
Subject: 解析力学の質問
Date: Sun, 28 May 2000 10:43:24 JST
(レポート問題の)B−5)のところで、Sを極小とする値を求めるのに、Sをnとkで偏微分して、それが0となる値がSを極小とするnとkとなることは分かるんですが、それが、変分法に相当するということが分かりません。高校までの知識で、極小値を取るためには微分してそれが0となる時で、今回は変数がnとkと2つあるために、偏微分をしました。確かにそれを行なう、と答えは、n=2、k=1となりました。
もしこの問題が変分法だとすると、Eulerの微分方程式を使って解けるんでしょうか?今回はラグランジアンの中にn、kそれぞれのtの1階微分に対する項がないので、Sを極小とするためには、Lをn、kそれぞれで、偏微分して0となるのが答えなのでしょうか?これを計算しましたが答えは出ませんでした。これが出来ないのは、B−4)の注で、積分範囲を0〜1に固定したことと関係があるんでしょうか?
そもそも、変分法をどういう時に使うのかがよく分かりません。何かの極小を求める時だけに使うものなのでしょうか?
A1-1)
後藤@解析力学担当です。
>>Sを極小とする値を求めるのに、Sをnとkで偏微分して、それが0となる値がSを
>>極小とするnとkとなることは分かるんですが、それが、変分法に相当することが分かりません。
変分法は、値ではなく関数を求めるのが目的です。今の場合、x(t)が、t^2なのか、tなのか、はたまたsin(t)か、log(t)か、を探すのが目的です。この探索を、全く仮定なしに、ばっちりと決めてしまうのが、ホントの変分法です。
レポート問題では、x(t)をtのべき関数t^nと仮定して、tかt^2か、t^1.5、か、t^1.234、t^0.3333、、etc.のどれなのかを決めてもらおうとしました。これはつまり、nの値を決めればよいのですから、偏微分のテクニックが使えるわけです。(nの値が決まれば、x(t)の関数形が決まります)。
>>もしこの問題が変分法だとすると、Eulerの微分方程式を使って解けるんでしょうか?
レポートの問題にホントの変分法を適用するには、x(t)->x(t)+δx(t)とずらして、δS=0の条件を適用(Sが極小)すればよく、結果は、講義で一般論でやったようにオイラーの微分方程式が得られ、今の場合、それはニュートンの運動方程式と一致することがわかります。
>>そもそも、変分法をどういう時に使うのかがよく分かりません。
一般的には、積分値が最小になるような関数を探す場合に使います。(今の場合は、Sを最小にするには、Lにどのような関数x(t)を入れればよいかということです)。
他にも例えば量子力学では、一番安定な(エネルギーが低い状態)波動関数を探すために、E=∫dx
Φ*(x)HΦ(x)を極小とするようなΦ(x)を変分法で求めたりします。この場合は、今回レポートでやったように、たとえばΦ(x)=exp(-x^n/a)と仮定して、nとaを色々変えて、どれがEを極小にするかを探す場合が多いと思います。
Q1-2) ラグランジュの未定定数法
Date: Wed, 19 Jul 2000 16:57:42 +0900 (JST)
一番最初のレポートの問題で、未定乗数法を用いて、、、というのがありましたが、未定乗数法の意味がいまいちわからないので、教えてください。
A1-2) Date: Wed, 19 Jul 2000 17:44:59 +0900 (JST)
第一回目の講義ノートを見て下さい。
正確には、「ラグランジュの未定乗数法」と言います。
これは、束縛条件があるときの関数の極値を求める簡便で有用な方法です。たとえば、x,y,z
の間に、x+y+z-1=0
などという関係があるときに、関数x^2+y^2+z^2の最大値を求める、という場合に使います。
方法は、束縛条件をg(x,y,z)=0とし、関数をf(xyz)とすると、もう一つ新しい変数λを導入して、新しい関数hを、
h(x,y,z,λ)=f-g・λ
のように定義し、このhについて、4変数x,y,z,λが独立であるとして偏微分で極値を求めれば良い、というものです。
注) 講義でも触れましたが、ラグランジュの未定定数法とオイラーラグランジュの方程式は関係ありませんので注意してください。
2. 最小作用の原理
Q2-1) 具体的な運動で作用積分を計算してみる
Date: Sat, 8 Jul 2000 14:06:58 +0900
試験予想問題の2番なんですが、問題の意味がいまいち掴めないです。
「現実の運動とそうでない運動とで作用積分の大きさを比較して、現実の運動の方が小さくなることを確かめよ」ということですが、これは例えば、放物線と、その始点、頂点、終点を結ぶ折れ線との違いということですか?もしそうなら、なぜ現実の運動のほうが小さくなるのですか?
A2-1) Date: Sat, 08 Jul 2000 19:25:47 +0900
後藤@解析力学担当です。
>>たとえば、放物線と、折線のことですか
一様重力下での運動ではその通りです。放物線が現実の運動で、そうでない運動は、折線とか、放物線以外の曲線とか、全く任意です。現実の運動で、作用積分が最小になるというのが、「最小作用の原理」です。初回の講義でやったとおり、「現実の運動は安定なはずだから、何らかの量が極小値を取るだろう」と仮定して、変分法を使うと、実はその何らかの量とは、ラグランジアンを積分した作用積分であり、そのラグランジアンはオイラーラグランジュ方程式を満たす、というわけでした。
さらにラグランジアンの中身を知るには空間や時間に対する対称性を考察することが必要で、それを行うと L =[運動エネルギ] - [ポテンシャルエネルギ] であるということがわかりました。
なお、講義では、作用積分が極値を取ることは示しましたが、それが極小値であることまではやりませんでした。計算は少し大変ですが、二階微分(二階変分)を計算することで示すことが出来ます。
Q2-2) 作用積分の極小値
Date: Sun, 16 Jul 2000 21:09:44 JST
質問です。最小作用の原理についてなんですけど、現実の運動とそうでない運動の作用積分を計算し、現実の運動のほうが小さくなっていることを確かめる。とありますが、これは例えば質点の運動を
x=vt^n…@
とすると現実の運動は
n=1のx=vt…A
となります。この場合、極小値をとることを示すにはどうしたらいいんですか?
考えたのは、作用積分S=∫LdsのLはxを@のときとして計算し、得られたSをnで微分してS´が0となるとき、すなわちn=1のときにSが極小を取ることを示せばいいんでしょうか。こんな切羽詰った状態で質問してすいません。ぜひおねがいします。
A2-2)
その通りです。
ただ、「質点の運動をx=vt^nとすると、現実の運動はx=vt」と言うのは、あくまで、自由な質点の場合に限った話であることに注意して下さい。
3. 規準振動、規準座標
Q3-1) 規準振動を求める行列で固有値がゼロ?
To: gotoo-t@sophia.ac.jp
Subject: 解析力学の質問
Date: Mon, 12 Jun 2000 22:17:37 JST
1つ目はレポートの課題の質問です。
バネで繋がれた3質点の運動について、自由端の場合と、リング状の場合を解いてみたんですが、固有値が0になるものが出てくるため、基準振動数も0になってしまうんですが、これは振動していないんですか?
それとも解き方を間違えてるんでしょうか?
2つ目は、講義の内容で、Nが大きい時のリング状のところです。
この時に exp(-ikaN)=1とexp(-2πiM)=1を比較してるところがあるんですが、どうして急にこれが出てきたんですか?先の方は,前の式から出て来るのが解るんですけど、2つ目の式の方がいまいち解りません。ここで比較することによって、N個の固有値Kが出てくるので、そのために考えたものなのでしょうか?
あと、講義ノートにK=2π/a*1/N、 2π/a*2/N、……、2π/a*(N-1)/N
となっているんですが,これだと、KはN-1個しかないような気がするんですけど。何でなんでしょうか?
A3-1) Date: Mon, 12 Jun 2000 23:50:45 +0900
From: Takayuki Goto <gotoo-t@sophia.ac.jp>
Subject: answer
後藤@解析力学担当です。
1)
それで正解だと思います。固有値ゼロは、何に対応しているかというと、振動でなしにくるくる回る場合(リング状)と、並進運動(自由端)です。
2) kは波数=2π/λとして導入したものですから、リングを一周回ると波長の整数倍になるという条件は、Mλ=Na で、これから、k=2π/λ=2π/(Na/M)=2πM/Na
よって、kaN=2πM が得られます。
2')
固有値が一つ足りないように見えるのは、ゼロのせいです。並進運動に対応するk=0を加えればN個となります。なお、リング状の場合や、固体結晶中の原子振動はk=0は回転や並進運動がk=0に対応するのでこれでOKなのですが、固定端の弦の場合は少し困りものです。両端が固定されていますから、並進運動は出来ません。
講義では、最初はリング状と言っていたくせに、最後の方では、弦の振動の説明になっていたではないか、と文句を言いたくなることでしょう。その言い訳が、「Nの大きな極限でのリング」なのです。Nが非常に大きいので、N=1の振動は、ほとんど、k=0と近いだろう、というわけです。
Q3-2) 規準座標の物理的意味
Date: Thu, 15 Jun 2000 10:11:26 +0900 (JST)
Subject: 質問
規準座標の物理的意味は何ですか?
A3-2) Date: Thu, 15 Jun 2000 16:33:31 +0900 (JST)
From: gotoo-t@sophia.ac.jp
Subject: Re: 質問
行列を対角化して得た固有ベクトルの意味するところは、各質点の振幅が固有ベクトルに比例た規準振動数の単振動になる、ということです。ですから、今の場合、
-----●------●------●------
─→ ──→ ─→
というような振動となります。ちなみに残りの二つは、
-----●------●------●------
─→ ←── ─→
と
-----●------●------●------
──→ 停止 ──→
です。
線型代数的に言えば、、、、
規準座標ベクトルをx'、元の座標ベクトルをxとすれば、
(縦棒|は括弧を表わします。絶対値ではありません)
|x'| |(1/2, √2/2,1/2)||x|
|y'|=|(1/2,-√2/2,1/2)||y|
|z'| |(1/√2, 0,1/√2)||z|
となりますが、この規準座標が、単振動をするので、
|x'| |A1cos(ω1・t+θ1)|
|y'|=|A2cos(ω2・t+θ2)|
|z'| |A3cos(ω3・t+θ3)|
です。加藤さんが提示されたベクトルに対応する規準振動は第一成分のA1cos(ω1・t+θ1)です。もし、この規準振動
だけが起こっているとすると、
|x'| |A1cos(ω1・t+θ1)|
|y'|=| 0 |
|z'| | 0 |
となります。これを逆に解けば(対角化するための行列は
直交行列であることを思い出して)、
|x| |1/2 * *||A1cos(ω1・t+θ1)|
|y|=|√2/2 * *||0 |
|z| |1/2 * *||0 |
です。(計算に不要な成分は*と書いて省略しました)。
よって、固有ベクトルは、対応する規準振動だけが起こっているときの各質点の振動の振幅を表わしていることになります。なお、符号がマイナスになる場合がありますが、これは、逆向きに動いていることを意味しています。
Q3-3) 規準座標でラグランジアンを書きなおす
Date: Tue, 20 Jun 2000 14:21:51 +0900 (JST)
To: gotoo-t@sophia.ac.jp
Subject: 質問
基準座標を用いてラグランジアンを書こうと試みたんですが、ポテンシャルエネルギーの表記法が分かりません。つまり、基準座標の場合x'というのはxとは当然違う位置なので、それをどうバネのポテンシャルエネルギーと結び付ければ良いのかが分からないのです。それともxを用いて書いたラグランジアンから変形を用いてx'で表されるようにもってくのでしょうか?
A3-3) Date: Tue, 20 Jun 2000 14:29:30 +0900 (JST)
From: gotoo-t@sophia.ac.jp
Subject: Re: 質問
後藤@解析力学担当です。
注意深く、大変良い質問です。規準座標への座標変換は、「変数変換」なのですから、式変形で、x'に変換すればよいのです。きっと、感動する結果が得られると思います。
もし、わかりにくければ、まずニつの質点の場合で試してみると良いでしょう。X=x+y, Y=x-yをL(x,y)に代入してX,Yで表わすようにしてみればよいのです。
Q3-4) 固定端と自由端
Date: Wed, 19 Jul 2000 16:44:15 +0900 (JST)
固定端のポテンシャルと自由端のポテンシャルの求めかたの違いが、わかりません。
A3-4)Date: Wed, 19 Jul 2000 17:40:29 +0900 (JST)
複数質点の振動の話のことだと思いますが、固定端は不動なのですから、バネ1のポテンシャルは、
質点側の座標だけで決まり、kx^2/2 です。
固定端--|||||---●---|||||---
バネ1 x バネ2
自由端は、何も繋がっていないのですから、
ゼロです(もちろん、バネ2のポテンシャルは存在します)。
--|||||---●---|||||---
バネ1 x バネ2
4. 正準変換
Q4-1) 点変換(座標変換)は正準変換か?
Date: Sun, 16 Jul 2000 16:38:10 +0900
参考書で、「ポアソンの括弧式が点変換に関して不変である」ことを勉強してみましたが、「点変換」というものがよくわからずにいます。 「点変換」というものがよくわからずにいます。参考書の説明もよくわからないので、「点変換」とは何なのかおしえてください。
A4-1)
Date: Sun, 16 Jul 2000 19:48:17 +0900
Subject: Re: 「点変換」の質問です。
後藤@解析力学担当です。
「点変換」とは何ということはなく、座標変換のことです。
例:X=x+y, Y=x-y
例:X=y, Y=x
例:基準座標への変換も点変換です。
これだけなのです。「点変換」の名前の由来はよく知らないのですが、おそらく、ある座標の点を別の点に変換する、というところから来ていると思います。逆に、「点変換」でない変換とは、例えば、運動量まで含んだ変換です。
例:X=x+p, Y=x-p
このような変換でも、ポワソン括弧式は不変な場合があります。それが正準変換で、その場合には、正準方程式がそのまま成り立ちます。
Q4-2)正準変換の御利益
Date: Wed, 19 Jul 2000 16:38:47 +0900 (JST)
正準変換の文字がごちゃごちゃし過ぎて、イマイチ意味がつかめないのと、変換する”御利益”たるものが分かりません。例えば、物理現象ではどういった意味があるのか、わかりません。
A4-2) Date: Wed, 19 Jul 2000 17:28:42 +0900 (JST)
御利益は一言で言えば、ハミルトニアンが簡単になる、ということです。例題で示したハミルトニアンが、そもそも簡単なものだったので、あまり御利益を感じなかったかも知れませんが、調和振動子のハミルトニアンH=p^2/2+q^2/2
が、ポワンカレ変換p=sqrt(2P)cosQ, q=sqrt(2P)sinQ
を行うと、
H=P
という「とんでもなく簡単」な形になりました。
また、一昨年の試験では、ハミルトニアン
H=(p・cosθ-x・sinθ)^2 + α・(x・cosθ+p・sinθ)
を正準変換で簡単な形に直せ、という問題を出しました。(θとαは定数)
これはボゴリューボフ変換でH=P^2+α・xという形になります。
Q4-3) どうすればよいか、、、。
Date: Wed, 19 Jul 2000 16:42:09 +0900 (JST)
ハミルトニアンを正準変換するときには何をどうすればいいのか、ノートをみても参考書をみても、いまいち理解できないのですが、どうすればいいですか。
A4-4)Date: Wed, 19 Jul 2000 17:35:10 +0900 (JST)
正準変換はxとpを混ぜるような変数の変換です。
(例:X=x+p, Y=x-p)
方法は以下の三つのいずれでもOKです。
1) 正準方程式が同じ形になるように変換。
2) 母関数を先に求め(でっち上げ)て、変換。
3)
ポワッソンの括弧式が不変になるように変換。
但し、いずれも自分で新しい変換を見つけ出すのは「簡単」ではありません。(ポワンカレ変換、ボゴリューボフ変換など、発明者の名前が付くほど、有用な正準変換の発見は、大変なことなのです)。与えられた変換が、正準変換かどうかをチェックできれば良いでしょう。
初歩の練習問題としては、X=αxとしたとき(αは定数で、スケール変換と呼ばれます)、これが正準変換になるためには、pをどう変換すれば良いかを考えてみると良いでしょう。
5. 位相空間
Q5-1)なぜ位相空間の考え方が必要か
Subject: 位相空間について
Date: Mon, 14 Feb 2000 10:15:11 +0900
ノートの中で、3質点が3次元の中にある場合、位相空間を考えると3*3*2=18次元というのが良く分かりませんでした。また、参考書を見ても、「一般に多次元での位相空間上の運動は複雑なものなり、運動をr(t)の形で求めることは難しい。三体問題でさえ一般的には積分できないことが示されている」とありました。 位相空間を考えることによるメリットは何なのでしょうか?
A5-1)Date: Sun, 16 Jul 2000 19:40:06 +0900
From: Takayuki Goto <gotoo-t@sophia.ac.jp>
後藤@解析力学担当です。位相空間は、全ての質点の座標と運動量を、時刻を媒介変数としてプロットしたものです。
>>三次元空間の三つの質点
ひとつの質点あたり、座標が(x,y,z)、運動量が(px,py,pz)と六つの変数がありますから、三質点で、18個の変数となります。
>>一般に多次元での位相空間上の運動は複雑なものとなり、運動をr(t)の形
>>で求めることは難しい。三体問題でさえ一般的には積分できないことが示されている
我々の知っている保存量は、エネルギー(スカラー)と運動量(ベクトル)と角運動量(ベクトル)ですから、合計で7つの式です。三体問題では、9個の座標x1,y1,z1,x2,y2,z2,x3,y3,z3の時間依存性を求めなければいけないのですが、7つしか保存量が無いのですから解けない(≡微分方程式である運動方程式を、積分できない)、というわけです。(注:一般には解けない、ということで、簡単な三体問題では解ける場合もあります)。
このように、それぞれの座標の時刻依存性を求めることが出来ないからと言って「ぜんぜんわからない」と、あきらめてしまうのは早計です。位相空間での運動の軌相空間で考えると、問題が解けなくとも直ちにわかることが一つあります。それは軌跡(x,y,z,...,px,py,pz,...)がどのような曲面の上を通るかということです。これは、
H(x,y,z,...,px,py,pz,...)=E
という一つの方程式(エネルギー保存則)から簡単にわかるのです。
例:一次元調和振動子であれば、p^2/2m + k・x^2/2 = E という曲線です。この曲線の上を軌跡がどのような速度で通過するか、は解が求まらないと判らないのですが、曲線自体はわかるのです。(軌跡の曲線が直ちにわかるのは一質点の一次元運動の場合のみです)
例:三次元のポテンシャル中の運動では、(px^2+py^2+pz^2)/2m + V(x,y,z)=Eであり、今度は6次元空間内の超曲面になります。軌跡はこの曲面上の曲線です。どういう曲線か、とか、どういう速度で通過するか、とかはわかりません。しかし、軌跡の乗っている面はわかるのです。
さて、軌跡の乗っている面がわかるとどういう御利益があるか、ということになろうかと思いますが、等重律の原理やリウビルの定理を元にして、10^23個程度の粒子の振舞いを来年、統計力学で習うことになります。
Q5-2)
位相空間上の一点を決めるとその後の運動がどうして決まるのか
Date: Wed, 19 Jul 2000 08:33:19 +0900 (JST)
7月7日の講義を受けられず、ノートを写させてもらって位相空間についていくつか分からない所があります。位相空間内で(p,q)の一点を与えれば、その後の運動は全てきまってしまうのは、何故ですか?
A5-2)
ある時刻tにおける(p,q)の値がわかれば、正準方程式から時間微分(p',
q')がわかります。すると直ちに、少し後の時刻t+Δtでの(p,q)の値がわかります。つまり、
p(t+Δt)=p(t)+p'・dΔt
q(t+Δt)=p(t)+q'・dΔt
というわけです。このp(t+Δt)とq(t+Δt)の値を正準方程式に代入して、時刻t+Δtでの時間微分を求め、、、と、繰り返して行けば、時刻t+2Δt、時刻t+3Δtでの(p,q)の値が次々とわかります。
Q5-3) 位相空間の特異点
Date: Wed, 19 Jul 2000 17:20:45 +0900 (JST)
位相空間における特異点とは具体的にどういったものなのですか?
A5-3) Date: Wed, 19 Jul 2000 17:47:17 +0900 (JST)
例えば、山の上で静止した質点とか、剛体振り子が、倒立して静止している状態、などです。両方とも、左右どちらへ動くかわからないので、軌跡が交差しているのです。
6. その他
Q6-1) 勉強の仕方
Date: Thu, 13 Jul 2000 08:31:15 +0900 (JST)
To: gotoo-t@sophia.ac.jp
Subject: 勉強の仕方。
おはようございます。
質問とは違うのですが、試験勉強のやり方をもっと詳しく教えて頂けないでしょうか。ノートを見てもいまいち理解できません。何かお勧めの問題集のようなものがあれば、知りたいのですが・・・。特に、具体的な問題の解き方が分かりません。
A5-1) Date: Thu, 13 Jul 2000 13:16:37 +0900 (JST)
From: gotoo-t@sophia.ac.jp
Subject: Re: 勉強の仕方。
後藤@解析力学担当です。
>>試験勉強
一番単純には、習った概念(例えば位相空間とか、最小作用の原理とか、ハミルトニアンとラグランジアンとか)を、良く知っている系(調和振動子とか、等加速度運動とか、円運動)に適用してみることです。
>>お勧めの問題集
新しい概念を理解して、統計力学や量子力学に立ち向かう準備をするのが目的なので、力学の問題を解くこと自体は二の次です。(ですから、上で述べたように、「良く知っている系」に適用してみるだけで十分なのです。)
思い付くものとしては、
高橋康「量子力学を学ぶための解析力学入門」講談社
宮下精二「解析力学」裳華房
小出昭一郎「物理入門コース 解析力学」岩波
戸田盛和「一般力学30講」朝倉書店
ランダウ・リフシツ「力学」東京図書
などが演習問題も含んでおり、どれも「薄くて」読みやすいと思います。