新聞学科 1998年度提出卒業論文
映画の宣伝・広告活動を考える
鈴木 那美
はじめに
私が映画に夢中になったのは、大学生になってからである。それまでの、映画にはおよそ縁のない生活から一転して、文字通り寝食も忘れて映画館に通うようになった。映画館はまた、新作情報の宝庫でもある。1本の作品を見るたび、新しい映画のチラシを
今春公開された「ドーベルマン」という作品が、このチラシやポスターへの興味を大いにかきたててくれた。この作品は、フランスでCMなどを撮ってきたヤン・クーネン監督の初の長編作品で、スタイリッシュな映像と音楽で話題を呼んだバイオレンス映画である。昨年(97年)6月の横浜フランス映画祭、11月の東京国際ファンタスティック映画祭でも絶賛され、本国フランス、そして本国での大ヒットを受けての日本上陸ということで、単館系には珍しいほどの鳴り物入りで登場した。当然私も、早くからチラシは入手していたが、あまり興味は沸かなかった。失礼ながら、それほど面白い作品のようには思えなかったからである。
それがたまたま、公開直前に友人に試写会に誘われた。友人も「面白くないかもしれないけれど、暇だったらどう?」という調子で、あまり期待していなさそうだったが、その日は特別用事もなかったし、何より無料で映画を見られる好機とあって、足を運んだ。ところが、これが予想外に面白かったのである。プロモーションビデオを思わせる、CGを駆使した映像美は、さすがCM出身である。徹底的に「スタイリッシュ」にこだわったことで、暴力すら美しく感じる。「つまらなそう」という私の予想は、見事に外れたわけである。
友人や私は、広告を見て「つまらなそう」、つまりは好みに合わなそうだと考えた。実際に観た作品は、「予想外に面白かった」、つまりは想像していた内容とは違った。私も友人も、試写会に当選しなければ、まず観に行くことはなかっただろう。私はチラシを見て、「悪」の警察と、「善」の大泥棒の攻防戦、といったB級アクション映画を想像した。「スタイル」を追求した映像美は想像しなかった。ここに、宣伝する側と、それを見る側とのずれが見出せる。私の個人的な感想を述べれば、このチラシを見て映画館に行った人は、この作品を理解できないだろうし、本当にこの作品を面白いと思う人は、このチラシだけを見て観に行こうとは思わないだろうと思う。私はその後、映画ファンの友人幾人かに、この「ドーベルマン」のチラシについての感想を求めたが、作品をうまく表現していると答えた人は一人もいなかった。
一体、この作品は、どのような点を評価されてロードショーにかかることが決まったのか。どのような点が観客に受けると想定されたのだろうか。それは本当に観客の好みをついているのか。多くの疑問が浮かんだ。そこで本論では、映画の宣伝・広告について、製作者はどのような意図で宣伝を行い、そしてそれが実際はどのように受け止められているのかを考えてみたい。
まず第1章では、映画ビジネスの世界の構造、その中での宣伝・広告活動の実際を紹介し、そしてこれまでの映画の宣伝の流れを振り返る。続く第2章では、いくつかのサンプルとなる作品を挙げ、それらの宣伝がどのように行われ、それは成功を見たのか、その勝因・敗因は何だったのかを分析する。第3章では、受け手、つまり観客にとっての宣伝とはどのようなものなのかを考えたい。送り手、つまり宣伝する側との意識のズレがないか、あるならそれはなぜできるのか、どのようにして埋めていけばいいのかを考察する。
目次
はじめに
おわりに
参考文献
巻末資料 (ヒアリング調査用紙サンプル/データ一覧)
参考文献一覧
【協力】東宝宣伝部、東映宣伝部、ワーナー映画宣伝部