発展途上国の諸都市に行くと日常的に次のような光景を目にするであろう。 通りに所狭しと並んでいる露天商や飯屋そして自転車修理業のような路上の 自営業者、縫製やサンダル,ブラシ,手工芸品等をつくるなど「内職」に近い家 内工業従事者、家政婦や門番などの家事労働者、人力車夫などの小規模経営 交通機関の従事者、ずだ袋を背負ったりリヤカーを引いた廃品回収業者、ま たゴミ集積所に住み込み、そこから再生資源を探し出して生計をたてている 人達などである。彼、彼女等の大多数は、会社としてきちんと届け出し、税 金を払っているわけでもなく、とにかく生き延びるために、自分一人とか、 家族で事業をやっている。このような人々の世界を、開発関係の人達は、よ く都市『インフォーマルセクター』と呼ぶ。なぜ、こんな人達が多くいるか。 日本にあるような会社、企業に雇われない人、日本で言うならば失業者がも のすごい割合でいる。でも社会保障制度がないので、何もしないと生きてい けない。生き延びるために何か活動をしている。(なまけものだというイメー ジが時々あるが、彼らと一緒に住むと早朝から深夜まで働いていることが分 かる。)
各国別資料より
City 1970s 1980s Dhaka, Bangladesh 57 64 Calcutta, India 40-50 54 Bombay, India 50 - Madras, India 50-70 60 New Delhi, India 54 - Jakarta,Indoneshia 69 - Karachi,Pakistan 41 65 Manila,Philippines 43 50 Bangkok,Thailand 43 49
インフォーマルセクターとは、きちんとした定義がない。人によって、
関心によっていろいろな使われ方をしている。非合法な操業や、税金を払っ
ていないことを基準に定義したり、途上国における10人未満の小規模事業所をすべてインフォーマルセクターと定義する人(例えばILO)もいる。または、近代的な雇用形態で雇用されても最低賃金以下ならインフォーマルセクターという人やスラム地域での事業をすべてインフォーマルセクターと呼んでいる人もいる。従って注意が必要。しかし、いずれにしても途上国の都市でよく見られるスライドの光景をインフォーマルセクターという。
経済学的に考えると、近大産業部門においては、その企業の利益は、
労働か資本かに分配される。労働への分配は賃金という形で行われ、賃
金率×労働量である。資本への分配は、利子所得なり株式収益なり、い
ずれにしても利子率×資本量である。ところが、このインフォーマルセ
クターにおいては、一般に自営業という形態をとっているので、その収
入は、資本による所得なのか、労働による所得なのか分けることができ
ない。つまり、その自営業者の所得は、労働市場によっては決まらない。
そのようなセクターをインフォーマルセクターと呼ぶのが妥当でないか。
当初は私自身、発展途上国のフォーマルセクターとインフォーマルセクターに 対して上述のような認識、言い換えると光と影のイメージを持っていた。多く の途上国、特にアジア各国は、政府や国際機関の開発政策によって、徐々に経 済発展を実現しつつあるように見えた。そのほとんどの政策は、フォーマルセ クターを中心としたものであった。そして、その発展の動きから取り残された 人々がスラムなりインフォーマルセクターに取り残されて(または、それらを 新たに形成し)、そこでは、人々は劣悪な環境の中で、生存レベルぎりぎりの 生活を強いられている。すなわち、インフォーマルセクターは、フォーマルセ クターの影の部分であるという認識だったのである。
ところが、実際に、途上国のいろいろな都市のインフォーマルセクターを何 度も訪れるに従って、その認識は次第に変化してきた。つまり、インフォーマ ルセクターの中で多くの人々は、生きていくために、個々人で様々な事業を行っ たり、コミュニティーや何らかの組織を作って劣悪な生活環境と戦い、また生 活を少しでも向上させようとしていた。そしてそれらの試みの多くは、創意工 夫と意欲、活力に満ちていた。これらを知ることによって、インフォーマルセ クターが単に発展から取り残された人々の世界で、将来の発展に対して価値の ないものではなく、自分達のベースとなる文化を引き継ぎながら、かつ新しい 未来を開いていくような可能性、今の先進国の発展の道筋とは違った代替的な 発展の可能性と潜在力を秘めた場なのではないかと考えるようになってきたの である。そこに私たちの学ぶものがあるのではないか。
@インフォーマルセクターを排除しようとする政策の影響としてのODAによる強制立退きの現場。つまり影としてのインフォーマルセクター。
Aインフォーマルセクターでの小規模事業発展の阻害要因とそれを乗り越える創意工夫ある試み。つまりインフォーマルセクターの可能性。
以上の2つを中心に紹介する。