　　　　メディア企業の国際支配を考える

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　鈴　木　雄　雅（『マス・コミュニケーション研究』No.56号掲載）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2000/7/15修正加筆

一　はじめに
 二　複合企業から多国籍企業化への歩み
 三　メディア多国籍企業化の一例
 四　考　察
 五　おわりに
 参考文献

 一　はじめに

　一九九九年夏、バイアコムのＣＢＳ買収や銀行、生保の大型合併が次々と発表され、国内外ともに大型企業の誕生は二十一世紀への生き残りをかけてのことと言われる。その一方でフランス・ルノーの資本が入った日産自動車の大幅な経営合理化による解雇者の数が話題を呼んだ。「メディア王マードックが巨人軍を買収」という発想も斬新ではないものの（１）、言い得て妙である。かたやベルテルスマンが角川書店に資本参加、婦人画報社にはアシェット・フィルパッキ（ＨＦＭ）といったように日本のマス・メディア市場にもドイツ、フランスが目だった参入を始めている。
　
　バイアコムのＣＢＳ買収額は三百四十五億ドル（約三兆八千八百五十億円）とメディア史上最大であり、両社の株式時価総額は約八百億ドル。数年前の夏、まるで花火の導火線に火がついたかのように、ＡＢＣ＝ウォルト・ディズニー、ＣＢＳ＝ウェスチングハウス）と、アッという間に経営者が交替したことは記憶に新しい。実はそれより十年前にもＡＢＣ＝キャピタル・シティーズ、ＣＢＳ＝ローズ・コープ（ホテル・映画館経営）、ＮＢＣ＝ＧＥという激変期があったことも思い出して欲しい。
　
　そして米国最大の新聞グループ、ガネット社は全額出資の子会社ガネットＵＫが六月、英国の地方新聞発行社であるニューズクエスト（ＮＱ）社を買収獲得した。ＮＱ社は英国で第三位の地方新聞発行社で、日刊紙十一紙（四十六万部）、週刊紙など百八十以上の新聞（七百五十万部）を発行している。また、その地方紙グループの最大手、トリニティ新聞社（３）が全国紙グループとしては第二位にあるミラー・グループを合併することが発表された。その結果、全国紙、地方紙を併せて週三千四百万部を発行することになり、これまで君臨していたマードックのニューズ・インタナショナル（同三千二百万部）を抜き、英国第一の新聞グループになる。
　
　合併の形ではあるが、実質的にはトリニティがミラー・グループを吸収する。小が大を飲み込む形をみせた。英国では過去三年間に千七百七十紙の半分にあたる九百紙以上が上位二十社に集中してきた。ピアソン、トムソン、リードなどの老舗が地方紙分野から撤退した代わりに、新顔が台頭。一九六九年から八六年までの間に英国では九つの多国籍企業が二百以上の新聞と雑誌を買収し、買収時点で四千六百万の発行部数になったという（カラン、一九九五）。
　
　一方、ドイツのアクセル・シュプリンガー社（本社・ハンブルグ）は海外への事業展開や出版事業への進出を活発化させている。東欧をはじめとして、英語圏への出版ビジネス、英国・米国の電子メディアのプロジェクトにも積極的だ。また『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥンク』（ＦＡＺ、四十一万部）の英語版がドイツ国内で発行される『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』（ＩＨＴ）に挟み込みされることになった。
　
　一九九九年の企業の買収合併（Ｍ＆Ａ）の巨額買収トップ・テンをみると、いかにＩＴ（情報通信産業）やメディアが入っているか分かる（表１）。バグディキアン（Bagdikian,1997:xii）によれば、米国社会のマスコミ産業における支配的地位を占める企業が版を重ねるごとに数が減っているという。すなわち一九八四年は五十社、一九八七年は二十六社、一九九〇年は二十三社、三年後には二十社となり、九六年には十の国際、マルチナショナルな企業＝タイム・ワーナー、ディズニー、バイアコム、ニューズ・コーポレーション（マードック）、ソニー、テレ・コミュニケーションズ、シーグラム（シーグラムは2000年６月フランスのヴィヴェンディ社に買収されることになった）、ウェスチングハウス、ガネット、ＧＥ＝に支配されていることを指摘している。ジョンストン（Johnston,1999 ）はウェスチングハウス、ガネットを入れていない。またアルガー（Alger, 1999)は上位の二グループを一位タイとして、ソニー、シーグラムを除き、マイクロソフト（ビル・ゲイツ）、マトラ＝アシェット・フィルパッキを追加し「支配的な一ダース」に掲げている（表２）。次席に十一企業、さらに通信企業四社をあげていることは興味深い。
　
　しかし、その多くは米国内での巨大化であり、米系資本の多国籍企業化が及ぼす影響についてはＨ・シラー（Schiller, 1969）、タンストール（Tunstall,1977)らが先鞭をつけ、多くの議論があることから、本論では欧州市場に焦点をあてつつ、マス・メディア産業の複合企業化、多国籍化、国際化の問題を考察する（４）。

二　複合企業から多国籍企業化への歩み
　
　二・一　垂直的結合による複合企業化
　マス・メディア産業の複合企業化（conglomeratization) 、多国籍企業化（multinational enterprise, world enterprise）、国際化（trans-nationalization ）はいまに始まったことではない。そうは呼ばれなくとも、十九世紀後半の三大通信社によるニュースの植民地化（世界の三大分割）（５）はある意味で、国際支配の先駆的役割をみせつけたものであろう。
　二〇世紀初頭の英国のノースクリフの企業買収、成長と続くプレス・バロン（ロード）の活躍（６）、米国のハースト、Ｅ・Ｗ・スクリップスなどの新聞チェーン、ドイツにおける新聞のトラスト化傾向は、国際的とは言えないまでも、複合企業としてマス・メディア事業社が発展するひとつの成功戦略として歴史に刻まれている。ノースクリフが『タイムズ』を買収獲得しまさに爵位にふさわしい地位を占めたものの、その後売却しているように、メディア企業の買収合併（Ｍ＆Ａ）はいまに始まったことではなく、他産業と同様成長の段階で生じることであることを早くも示していた。その多くは垂直的な結合のコングロマリット化であり、同業種の結合であったにしても、メディアミックスの走りとも言える。日本においても昭和期初頭、大手出版社と新聞社の資本提携がみられた。例外的には、一九二二年フランスの『フィガロ』が化粧品のメーカー、コティに買収されたことがあるが、新聞経営に疎く手を引いた。
　マス・メディア産業の多国籍企業化、国際支配に至るまではいくつかの段階を経ている。まず、右記に示したとおり、主として新聞・出版事業が成長するにつれて、他紙を買収したり、製紙、印刷、配送会社などを傘下におくような国内の垂直的な企業の買収の段階である。続いて、それは市場における寡占化を進行させ、少数の企業が市場をコントロールしてしまうような段階に入るであろう（７）。テレビ放送の登場期において既存メディアの参入といった事例は各国においてみられるが、創業時における資本参加はもとより、人的派遣（出向）、関連事業者の指定、取り込みなど、表面上の定款や約款にみられるだけではない形で進む。
　例えば、英国の全国紙市場は一九四七年から八九年までに三つの筆頭グループが三分の二以上のシェアを、また日曜紙市場も半分以上のシェアを占めるに至った。ローカルのレベルでも同時期五大発行社はシェアを三倍に伸ばし、地域を越えての、いわゆるブロック紙に成長するとともに、週刊、日刊を問わず同一グループによるローカル紙の寡占化が顕著となった。また、広告収入源としてフリーシートの登場も、このチェーン化に巻き込まれたのである（Curran & Seaton, 1997:77-81)。

二・二　　水平統合化に進む
　国内的に進んだ同業種の垂直的結合がメディアの複合企業化の始まりだが、一九七〇年代のニューメディア・フィーバー、あるいはその後のメディアの多様化と放送・通信といった古典的な領域分野の境目が不鮮明になるにつれて、古典的なメディア産業の拡大、異業種の参入が顕著になった。すなわち、水平的な結合への成長である。換言すれば、旧態の崩壊へのスタートでもあった。なかでも、通信産業、メディアのハードメーカー、日本的な総合商社（従来からコングロマリットではあったが）、鉄道・運輸業など、多彩なポートフォリオがメディア産業からコミュニケーション産業への転換を迫ったのである。
　一九六〇、七〇年代頃から、先進各国でも異業種によるメディア資本参入が顕著になった。英国がもっとも早く国際化の波にさらわれた[Jenkins,1986]。一九六〇年代までに、カナダの新聞王トムソンが地方紙『スコッツマン』を買収して、ついにはフリートストリートの雄、『ザ・タイムズ』を所有することになる。続いてオーストラリアのマードック［鈴木、一九九九］が大衆紙から橋頭堡を築き、『タイムズ』などを獲得、フリートストリートの多国籍化を加速させた。彼に幾度と苦渋の汁を飲まされたロバート・マクスウェルが『デーリー・ミラー』を旗艦とするミラー・グループ（ＭＧＮ）をようやく手に入れたのは一九八〇年代半ばである。またトムソン同様、カナダ出身のコンラッド・ブラック（８）が『デーリー・テレグラフ』といった具合に、かつての新聞街、フリートストリートの終焉と呼応するように、英国新聞界は国際資本の波にさらされた。
　四半世紀も経ないうちに、グローバライゼーションがあらゆるところで叫ばれる今日、それはますます拡張、肥大化しつつあるように思える。当初は基幹メディアである新聞の不振、衰退から旧所有主自らの身売りに、同・異業種、大手企業が参入することが始まった。その理由は新聞は儲からないが、社会的地位のある新聞（多くは歴史があり、エスタブリッシュなメディアが経営難に陥った）を持つことで、新聞の赤字経営は他の部門で取り返せばいいであったという考えであったから、所有することに意味があった。名門を金で買収取得するような荒技でもあった。第二次大戦後と同じく、結局は休刊して史上から消えるか、買収合併されてもその歴史を残し続けるか。経営主には二者択一の道しかなかったである。
　一九七〇年代斜陽化経済のなかで、イタリア新聞産業は深刻な危機を迎え、国営の石油化学会社、石油・砂糖事業家、車メーカー、化学工業などの外部資本が新聞経営に乗り出した。一転して経済好況の波にのった八〇年代には、名門『コリエレ・デラ・セラ』（一八七三年創刊）を買収した大手のリッツオーリ出版社がフィアット社系、オリベッティ系の大手出版社モンダドーリ・グループというような二分化が進んだ。新聞の危機を回復するために施行された「一九八一年新聞法」（９）の効果があったが、一方で八〇年代のヨーロッパ・メディア市場緩和の流れを受け、モダンドーリ＝エスプレッソ（デベネデッティ）、ＲＣＳ＝フィアット（アグネリ）、さらに実業家シルビオ・ベルスコーニ（不動産業、当時フィニンベスト、現在はメディアセット）いうメディア・モガルを生んでしまった。とくに従来の新聞・出版業を主要メディアとした時代から、他の欧州諸国よりひと早く商業放送が導入されたイタリアでは、ベルルスコーニのような新興勢力がメディアの垂直統合に走った。しかしながら、舞台は既に多国籍企業の時代にはいり、こと欧州にもアメリカ系大衆文化が衛星メディアとともに押し寄せ始めていた。
　フランスにおいては、Ｊ・プルーヴォ、Ｅ・アモリら旧来の勢力が衰退するなかで、戦後のニュープレーヤーとなったひとりにロベール・エルサン（Robert Hersant,1920-86）がいる。「パピボール（紙食い）」と言われながらも地方紙の買収を進め、七五年買収獲得した高級全国紙『フィガロ』（一八五四年創刊）を核として、パリの主要日刊紙の大半を手にし、一大マスコミ企業グループを作り上げた。
　ところが、彼の政治力に不安を抱いたミッテラン社会党政権は「新聞企業の集中を制限し、その財政の透明性と存在の多元性を確保するための法律」の制定に動き、いわゆる「アンチ・エルサン法」（一九八四年十月月新聞基本法）（10）を施行したことから、国内市場の規制傾向が強まるなか、エルサン・グループは国外での事業拡大＝国際化路線へ戦略をシフトしたのである。『フィガロ・ジャポン』に代表される雑誌、放送メディアを中心に世界市場への進出を試みる。
　こうして、八〇年代の欧州メディア市場は、放送分野の規制緩和、衛星放送の進出といった背景もあり、旧来の大手マスコミ企業からメディア・モガルの成長に拍車がかかった。それは国内から欧州、国際市場への拡張であり、同時に垂直統合から水平統合へと、メディア間の融合化傾向にテイクオフする状況にあった。
　例えば、名門の出版大手であるアシェット社（一八二六年創立）はフィリパッキと合併したが、同グループの後ろには軍需、エレクトロニクス産業の一大コンツェルン、マトラ社がいた。八一年から続いたマトラ＝アシェットの関係は九四年にその親会社ラギャルディール社の一部門（同社全体の一九九七年度売上高はトップのベルテルスマンに続く百十三億・だが、メディアからは三分の一のため欧州では第四位）となった。同社は書籍（Hachette Livre) 、プレス（Hachette Filipacci Medias, HFM）、流通、ラジオ、映画・ＴＶ制作（Europe 1 Communication) 、マルチメディア（百科事典で有名なグローリア）からなるメディアとハイテクを事業の核としている。なかでも、ＨＦＭは四十八タイトルの雑誌を国内で発行しているほか、国外三十二カ国で『エル』『プリミエール』など百三十二タイトルを発行している多国籍企業である。昨年は日本ばかりか英国にも触手をのばし、名門カッセル出版社（Cassell 一八四八年創立）を買収獲得している。
　また欧州市場において近年新興勢力として注目を浴びているのが、水道事業などの公共事業体が母体であるビブェンディ（Vivendi 　一八五三年創設、従業員二十六万人、売上高三百十七億ユーロ。2000年６月、ユニバーサル映画などをもつカナダのシーグラム社の買収を発表、タイムワーナー・ＡＯＬに次ぐ世界第2位のメディア企業となる)である。同社は数年前フランス最大のメディア企業アバス・グループを買収獲得、コミュニケーション部門の売り上げは二割と決して高くはないが出版・マルチメディア関係をほぼアバスから引き継ぎ、有料ＴＶ放送のカナル＋（欧州市場で十一か国、一千二百万人、ＢスカイＢの二五％株を保有）やデジタル放送、通信事業とくに移動電話Cegetel が市場の四〇％を占める。ベルテルスマンに次いで、欧州市場第二位のメディア企業に一躍踊りでた。昨年七月、ソフトバンク社と組み、欧州市場への米国インターネット事業の導入、展開を支援するため＠Visa S.A.Sを創立した。
　世界では九九年の九か月間で総額二兆七十九億ユーロのＭ＆Ａがあったが、うち三六％が欧州市場で発生しており、前年度の二一％を大きく上回ったている（Champion) 。
　こうしてメディア先進国において異業種の参入が次々と始まった。八〇年代に入り、衛星を使ってのメッセージ（ソフト）の授受が現実化するにつれて、従来その範疇にあった国内市場のみばかりでなく、よりグローバルな展開が可能となったのである。七〇年代からの流通部門での革命が大きな意味合いをもったことは言うまでもない。オイルショックによる物流コストの上昇に対応するために、情報パッケージ化が進み、コスト削減の方策として衛星を使うことに目を付けたからだ。ＣＡＴＶや現地印刷の広がりである。いずれも国内から国際的な勢力に進出した。
　一転して「メディアは儲かる」という意識が生まれ、より一層エンターテイメント傾向に比重が強まり始める。「マクペーパー」と揶揄されながらも『ＵＳＡトゥデー』（一九八一年創刊)、そして「ニュースの垂れ流し」と言われたＣＮＮ（一九八〇年開始、現タイム・ワーナーの一部、ＴＢＳ）が成功を収めている。北米市場が一部カナダのメディア・モガルを除けば、ほぼ米国制覇で終わった後、舞台は欧州に移ったのだ。　しかしながら、新しいメディアの創業時においては、様々な規制により、ある程度メディア産業の過度の集中化を防いだにしても、次の成長段階になると、彼らが国内的（政治的）に「脅威」と見なされると、言論の多様性などさまざまな理由はともあれ、少数の手による集中化を防ぐ規制（政治的意味合いが強く、ターゲットにされる）が必要という風潮が生まれる。例えば、七〇年代のドイツのシュプリンガー・グループの成長や（11）、前述のように八〇年代フランスにおけるエルサン・グループへの社会的動きがそれであった。英国やオーストラリアでも反マードックの動きがあった（門奈、鈴木一九九一）。

三　メディア多国籍企業化の一例

　三・一　ピアソン・グループ
　グローバルな経済紙として知られる『フィナンシャル・タイムズ』（ＦＴ、一八八八年創刊、一九四五年に『フィナシャル・ニューズ』と合併。ロンドンほか、世界九か所で現地印刷、発行）を核とするピアソン・グループ（S.Pearson and Sons plc）が同紙を買収獲得したのは一九五七年のことである（12）。
　ピアソンは五〇、六〇年代週刊、隔週刊紙市場にシェアを伸ばし、七〇年代初めまでに戦前の三倍近い九十七紙を傘下においた。その勢いで出版市場に参入し、六八年当時英国最大の出版社ロングマン(現在八八年に買収したアディソン・ウェスレーと併記してＡ・Ｗ・ロングマン社＝プレンティスホールなどを傘下にもつ）、そして七〇年にはペーパーブックのペンギン（一九三九年創立）を獲得した。その後レジャー産業に進出し、マダムタッソー館やロンドン・プラネタリウムなどを経営、一般的なコングロマリット化を進めた。
　八〇年代半ば以降のピアソン・グループの動きは表３のとおりであるが、ＴＶ放送、出版メディアの買収、売却を繰り返しながら、エレクトロニクス時代に対応する動きがうかがえる。なかでも、九八年バイアコムからサイモン＆シャスター出版社（一九九八年売上高一億二千万ポンド）を獲得したのは。ここ数年電子商取引（Ｅコマース）が急成長している分野であるからだろうが、書籍出版分野では、ハーパーコリンズをもつマードック・グループに次いで世界第二位の座を占める。
　一九九八年の総売上高は二十三億九千五百万ポンド、うち成長著しい教育部門（ピアアソン・エデュケーショナル）、ＦＴグループがともに三割、北米地域からの売り上げが五割半分以上というのが特徴だ。

　三・二　ベルテルスマンＡＧ
　ピアソンの成長を、活字媒体を中心とした典型的なメディア・コングロマリット企業の拡張とみれば、かたや、今日同じヨーロッパ市場でコミュニケーション・コングロマリット企業として、メディア、エンターテイメント（レジャー）産業を核に他部門の買収獲得に資金を回し、巨大化する（diversification ）例がベルテルスマン・グループだろう。
　ベルテルスマン・グループの創設は一八三五年、カール・ベルテルスマンが宗教関係の印刷を始めたときに溯る。彼の義理の息子ヨハネス・モーンが後を継ぎ、現在はベルテルスマン財団が六八・八％、モーン家が二〇・五％、ツァイト財団が一〇・七％それぞれ所有している。グループ総収入の六割以上がドイツ国外からというのも、本論でとりあげる側面をあらわしている。
　ドイツでは今世紀初頭、シュール、モッセ、ウルシュタインといったトラストが新聞を中心に出来上がったが、第一次大戦後は、シュールを買収してアルフレッド・フーゲンベルク（クルップ元総帥）が全国、地方紙、通信社、広告、映画をまとめあげ、ウーファー（現在ベルテルスマン・グループの傘下）を作り出していた。
　ベルテルスマン（Bertelsmann AG）は戦後長い間ラインハルト・モーンが指揮をとり、書籍出版・レコード・ブッククラブからメディア界に参入。現在でも総売上の四分の一はこの分野からあがっている。北米本社はＢＭＧ・エンターテイメントが総括し、ダブルデイ・ブックス、ランダム・ハウス（一九二五年創立、九八年買収、傘下に二十以上の出版社などをもつ）そして世界最大のペーパーバック社となったバンタム・ブックスやブッククラブをもつ。
　なかでも雑誌発行社のグルナー＋ヤール（Ｇ＋Ｊ、七四・九％株を保有、ヤール家が残り二五・一％をもつ）は、ヨーロッパをはじめ、北米・南米、アジア・オセアニア、アフリカと世界中で事業展開を広げている。筆頭雑誌の『シュテルン』や『ゲオ』以外に、国際的には女性誌『ベスト』の各国版をもつ。一九九八年の総売上高は五三・六億ＤＭ（この十年で二倍）で、うちドイツ国内から四三％、北米が四分の一、残り三二％がその他地域からである。
　ベルテルスマンは新聞分野にも進出し、『ハンブルガー・モルゲンポスト』や新首都となるベルリンで『ベルリナー・ツァイトゥング』を創刊して、ドイツ・メディア界の牙城シュプリンガーに挑戦している。フランスの雑誌三大グループのひとつ、プリズマ・プレッセもこのＧ＋Ｊ社の傘下にある。　一九九〇年代初頭までに、ベルテルスマンはメガ・メデイアとしておしもおされぬ存在になった。ニューメディア、ＩＴ戦略が本格的になった今日、参加のひとつウーファー（Ufa Film und Fernseh Union）をとおして、全国放送のＲＴＬプラスを支配下に置いている（三八・九％株保有）。また、ドイツ最大のＣＡＴＶ会社（ＫＭＧ、五〇％株保有）をはじめとして、シュテルンＴＶ、ゲオ・フィルム、ウファー・フィルムといったテレビ・映画制作会社やラジオ・ニュースの配信社ＲＵＦＡを支配下にもつ。さらにフランスのカナルプリュスとも組み「プレミール」（キルヒが二五％、カナルとウーファーが三七・五％ずつ保有）、あるいは「ブンデスリーガ」（サッカリーグ）の放映権を獲得した。九七年にはルクセンブルクのＣＬＴとウファーが合併してＣＬＴ／Ｕｆａ（本社・ルクセンブルク）を創設し、欧州最大の商業局となった。むろんこれはケーブル－衛星－デジタルの流れを一本化する将来性を買ったものだろう。
　マルチメディアへの積極的な姿勢は今後も成長する気配を示す。欧州市場参入を目指すアメリカン・オンライン（ＡＯＬ、五〇％株を保有。2000年タイムワーナー・ＡＯＬの合併により、これを売却した）や米系のバーンズ＆ノーブル（同）などを傘下に置き、ＢＯＬ（ベルテルスマン・オン・ライン）は業界最大の「ドットコム・デーエー（Amazon.com.de ）」と競争関係にある。音楽産業界の大手ＲＣＡの親会社ＢＭＧはタイム・ワーナーに次いで世界第二位を誇るの。
　従業員五万七千人を抱えるベルテルスマンはモーン家主体ではあるものの、ラインハルト自身、マードックやベルルコーニのような際だったオーナー経営をする意思もオピニオンリーダーになるつもりはないため集中化しておらず、それぞれの子会社に分散経営を任せている。彼の死後はBertelsmann Vermogensverwaltung GmbH（モーン家）が引き継ぐとの見方が強い。またドイツのメディアが多かれ少なかれ保守党ＣＤＵとつながりがあるのとは異なり、シュプリンガーに見られるような政治的立場は明確にしていないのも特徴のひとつだろう。

四　考　察

　四・一
　メガ・メディア時代を迎えた今日までの発展から、「メディア・バロン」、「メディア・モガル」、「メディア・タイクーン」(Coleridge,1993; Bourne,1990; Tunstall and M.Palmer, 1991)と称された人々や企業を眺めると、種をまいたオールドプレーヤーが登場した第一期。その彼らが成長期にはいり、ニュープレーヤーとともに変革の時代となった第二期。そしてグローバルにコンピュータ技術が広まり、マス・メディア領域もその融合化の波にさらされ始め、オンライン・モガルらが登場する、次の第三期に突入したと思われる。いずれも両期にまたがる複数の特徴をもつ者が橋渡し役を演じているのと同時に、彼らはニューメディアの登場、技術革新といった社会的変革を迎えた移行期の「先駆的」な革新者となったことである。
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　先進メディア大国では社会的に彼らの集中化、寡占化傾向が懸念され、従来の独禁法や外資法のほかに、規制措置が講じられる。しかし、冷戦終結による資本義社会の進展は商業主義をより一層進展させ、グローバリズムの波となって、規制緩和政策による市場解放は様々なレベルでのメディアの複合企業化・多国籍企業化を進めた。
　クラウン・プリンスなどと称される旧、新メディア・モガルがニュープレーヤーとして台頭し、新興世代勢力は帝国の維持と拡大を進める一方、放送・映像メディアを主としたエレクトロニクス時代においてはメディア領域からコンピュータ、ハード、ソフト、通信、エンターテイメント領域などへ拡張あるいは融合することにより一大コミュニケーション産業へと成長する基礎を作り出す。それに伴い、コミュンケーション・チャンネルとして衛星放送がソフト（コンテンツ）の流通媒体として使われ始め、放映権などの囲い込みが始まった。
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　他方、ＡＯＬのスティーブ・ケースやＭＳＮのビル・ゲイツらのようにインターネット時代に世界中を張り巡らされたネットとメディアの融合を見越したサイバー・スペース上に登場した起業家が、旧来のメディア市場をサイバー上に取り込み、新たな飛躍を図る。

　四・二
　国内市場の集中（concentration of ownership）、寡占（oligopoly)を経て、国際市場への進出、支配を続ける彼らにはいくつかの共通する過程、戦略がみられる。
　クラウン・プリンス的な存在であるマードックの例にみられるように（全国紙『ジ・オーストラリアン』の創刊を別とすれば）、メディアの創業よりも既存の紙・誌・局を買収獲得し、その成功を元手にＭ＆Ａを進行させる方策が一般的である。オールドタイプと同様、当初は既存メディアの垂直統合によるグループ化、チェーン化ではあったが、それらの資本で、次の時代を見据えた投資を行う。ラジオやテレビガイド雑誌を創刊したり、放送局開局時に免許を取得した例ではシュプリンガー、マードック。変わったところではエルサンの自動車雑誌。放送で言えば、多チャンネル・多メディア時代の今日では数えきれない。
　第二に、他メディア市場への参入に積極的。ニューメディアへの対応能力が柔軟とも言えようが、まだ十分に経営資本が潤沢でない段階においては、成功をバックに資本の「自転車操業的」経営に終始し、生き残り策に懸命になる。ＴＯＢ（株式公開買い付け）を効果的に使う。負債額が大きいのもひとつの特徴であろう。
　しかし、オールド・タイプからの継承者はその庇護下に甘んじる傾向が強く、ドラマティックな展開に消極的であったのに比べ、第三に革新者は経営不振のメディアを格安で手に入れ、財政を立て直すことに力を注ぐ。その過程で「経営権」「編集権」「言論の多様性」につながる問題が内部的に必ず生じる。かつてのような一族・血縁関係者を経営陣に入れることはまだ残っているにしても、編集者の若返りと称する人事や著名な人物を（非常勤）役員に取り込み、経営の独立や透明さを強調するような〃まやかし〃が新戦略となっている。
　第四は、成功すれば帝国の拡大につながる一方、利益の上昇（下降）にかかわらず、次の目標のために、買収した企業を短期的に手放すこともある。
　第五に創業メディアが成功した新興モガルは、エスタブリッシュなメディアを買収するか、組みたがる。それによりいわゆる「権威づけ」を望むが、経営的に成功しなければ売却することを厭わない。メディアへの「熱い思い」はなく、「自由な市場原理に任せる」「消費者の利益促進」を原理原則に声高に叫ぶ傾向がいまだに続く。例：ノースクリフ、トムソン、マードックの『タイムズ』買収やニュープレーヤーたちの買収、売却劇など。
　第六に、かつては「力」をつけると彼らは政治性を発揮するようになったが、今日ではマードックと英国歴代政権との関係に代表されるように、巨大産業は「政治」と組むことにより、市場の拡大、勢力拡大に走る。ときに目先の利益以上に。この政治勢力、とくに将来の「法制度の規制」を見越しての、政治家とりわけトップレベルらとパーソナルな関係（主に電話を使うのがアナログ的でおもしろいが）を結ぶことを重要視する（Tanstall, 1996: 80-81, 87-88) 。
　この関係は自社の経営陣にも通用する。「ブッチホン」が意外な効果を醸し出しているとの見方は、あながち的を外してはいない。また見えにくい背景に銀行、投資会社の存在が大きいことを忘れてはならない。彼らは経営合理化、財政回復を第一に企業の買収を進め、そのためにコストカットを含め、強いコントロールをもつ。常に買収獲得した企業、資産を売却する用意があるからドラマテイックな展開を好み、失敗を恐れない。

五　おわりに

　それまでに全くなかったわけでもないのに、一九七六年のマードックによるテレビ朝日株の買収騒動は、マスコミ界のみならず日本社会にも、メディアの国際資本化が押し寄せ始めたことを認知させた。その前年、『ニューズウィーク』の表紙に二度目の登場を果たした彼は一部に知られていたとはいえ、わずか一年ほど日本の家庭にまで入り込むことになるとは、そう多くの人が予見したことではなかったろう。
　それがＴＶという、今日家庭のお茶の間で、かつ最も人々が情報媒体として有効的と考えるメディアを舞台にしたからなおさらインパクトが強かった。この種の出来事は、一九六八年の日米間のインテルサット中継がケネディ大統領の暗殺事件、一九七六年の月面着陸中継、一九八九年の天安門事件、一九八二年の湾岸戦争のＣＮＮの威力など、いくつかの例はみられる。三大ネットワークに続くものと囃立てられたＴ・ターナーのＣＮＮは湾岸報道で名を挙げながら、いつの間にやらマードックのＦＯＸにその座を譲り渡している。時代は次に進み、コンピュータを介したディスプレーがもてはやされている。
　いずれにしても、マス・メディアの集中化は言論の多様性を狭め、ひいては西洋民主主義国家の基盤をつくる人々の声を減じるという構図は誰しもが訴える。江藤らが分類した国家外の六主体（14）では、マス・メディアが「国家内部の集団」として位置付けされているが、既にここで論じているメディアの現実は「脱国家的集団」であり、それはまた「超国家的機構」にまで影響が及ぶ。例えばＥＵのメディアに関する指令はリージョナルな問題を融合ではなく「統合」（unification ）していくことではないかとも考えられよう（花田、一九九八）。
　欧州に限らず、そもそも国際電気通信連合（ＩＴＵ）の発足とその歴史、あるいは二〇世紀初頭プレスの国際会議が頻繁に開かれたのもしかりである。ＧＩＩとＥコマースにおぼれるアメリカ経済は、メディア＝ニュースと娯楽＝がキーセグメントになってしまった。それもまた今世紀初頭に始まるＴ型フォードのオートメーション化と同じではないだろうか。二つのＣ（cocentration, consumption ）はますます増長するであろう。世界は一九九六年テレコミュニケーション法を境に、その波が加速されたのではないか。
　メディアの所有主が変わろうとも集中化支配が進めば、表面上の多様性よりもメディアの同質性が進行し、多様性に欠ける製品生産に導かれるとともに、コンテンツが形式化される。自由な競争や市場原理への安易な盲従の行く手にある集中化、寡占は競争性の喪失につながり、少数のマルチプル・メディア・オーナーが好む「利益」に奉仕するような同質性のメディア・コンテンツを導くとも言える。多様性の喪失、社会的マイノリティへの態度変容、社会的エリートとの結託、社会問題の軽視、娯楽、ヒューマンインタレト記事の増加など、顕著な例が高級紙に限らず「タブロイダイゼーション」（林、一九九八）の進行が、そして売れる「エンターテイメント」がメガ・メディア産業の核になりつつあるからだ。シナジー効果とともに、それが「マクドナルド化する社会」（リッツア、一九九九）であろうことは目に見えて明らかである。
　こうした問題は国内の規制のみで解決出来ず、国際機関の機能的役割に期待する声もあがっているが、ＷＴＯなどの動きをみても、国家の利益を優先する傾向が強く、新たなるナショナリズムを生む危うさもある。グローバルに広がるとしても、根本的な問題は一向に変わらないのかも知れない。
　以上、ルパート・マードックの台頭を述べているようにも思われるだろう。事実彼にあてはまることがいかに多いかを再認識するところでもある。本来、このテーマでマードックに触れないことをいぶかしる読者もあろうが、拙論（一九九九）にて彼のメディア戦略を発表しているので、そちらを参考にしていただきたい。

［注］
（１）國保徳丸『マスコミ　ビッグバン』（木本書店、一九九九年）、八－二一頁。
（２）ちなみに、松下電器のＭＣＡ買収額は七十六・六憶ドル（一九九〇年）、当時史上最大の買収といわれたタイムのワーナー買収はその二倍ドルだった。その後本文中にあるように、総合電機メーカー、映画・娯楽産業により三大ネットをはじめとしたメディア再編を生み出す。（表１参照）
（３）百五十年近くの歴史をもつ同グループは一九九六年それまで君臨していたトムソン・リージョナル・ニュースペーパーズ社を買収獲得して、一躍英国地方紙界の雄に躍り出た。九五年までの年総売上高一億六千万ポンドから一挙に二倍となった。有料・無代紙を含め八百三十万部を発行する。アイルランドの新聞も所有している。ちなみに一九八八年と九八年の英国地方紙の発行上位十社をみると、ノースクリフを除き九社が入れ替わっている。cf B.McNair(1999). pp.15-16.
（４）いくつかの除くといずれも国際資本の波にさらされてはいるものの、確かに米国系のメディアの欧州、アジア市場への進出は九〇年代以降顕著で、とくに衛星を使った放送や番組などコンテンツであるが、新聞、雑誌部門なども勢力を浸透させている。本誌『マス・コミュニケーション研究』第五〇号（一九九七年一月）で、久保川悌二郎「メディア産業論３　技術」（六四－七一頁）が通信分野（キャリア）について触れているので、ここでは省略する。
（５）小糸忠吾「ニュースの植民地時代、一八七〇－一九三四」『コミュニケーション研究』第七号（一九七三年）、二五－五九頁。
（６）ノースクリフ（Alfred C.W.Harmsworth, 1865-1922) についてはR.Bourne(1990)などを参照。
（７）Nixon, R.B.and Hahn, T.(1971) "Concentration of the Press Ownership: a Comparison of 32 Countries,"　Journalism Quarterly, Vol.18, Spring 1971, pp.5-16.Ｒ・ニクソンらの調査によれば、上位四社でみた集中度が高い国として、先進国ではアイルランド、オーストラリア、ニュージランドについで日本があげられている。オーストラリアの寡占化については鈴木（一九八八）参照。（８）Ｃ・ブラックについては、拙稿（一九九三）参照。
（９）一九八一年新聞法（出版業の規律および出版者に対する助成に関する法律）については第八次新聞法制研究会（編）（一九八六）参照。 cf. Euromedia Research Group(1997).
（10）一九八六年、シラク保守党政権下ではエルサン・グループの現状を認める新・新聞法が制定され、結果的にエルサン帝国は存続した。
（11）ギュンター委員会報告（一九六八年）。 cf. Euromedia Research Group(1997)、江尻進ほか（一九八三年）などを参照。
（12)グループの創業者サミュエル・ピアソンは建設業で財を成した人物で、続いて石油で成功した勢いをかって一九二〇年代『ウェストミンスター・ガゼット』買収に動いた。これは結局失敗に終わったが、そういう意味で、三代コードレー卿がようやく祖父の悲願を達成したと言えよう。
（13)ドイツにはほかにシュプリンガー（Axel Springer Verlag、一九四五年創立）、バウアー（Heinrich-Bauer Verlag 、一八七五年）、ホルツブリンク（Holtzblinck Konzern 、一九四九年）、ＷＡＺ（Westdeutsche Allgemine Zeitung Gruppe 、一九四八年）、ブルダ（Burda GmbH、一九二七年）そして躍進著しいレオン・キルヒ（Beta und Taurus Gruppe）がある。このキルヒはドイツにおいて初めて旧来のメディア、すなわち出版業からではなく、映画部門から身を起こしたメディア・モガルである。ベルルスコーニ、マードックらとつかず離れず、今後注目される存在である。

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