オーストラリア・メディア最前線(1) 

 

 目前に控えたオリンピックのせいだろうか、ここシドニーに住むと、1980年代には見られなかったような人々の活況が感じられる。その一つは情報、ハイテク部門の株価の高騰にある。マードックが統括するニューズコープはことし3月はじめ、1株あたり26jに達し、昨年9月時の倍額、一族の資産は何とオーストラリアのGNPの4%にあたるほどになった。タイムズ=ワーナーとAOLの合併などを横目にみながら、ボーダフォンあるいはビヴェンディと提携、でなければヤフーか、と連日ニュースになっている。マードックはタイム・ワーナーとAOLとの合併に、インターネット会社を探しているか、というような質問に「とんでもない」と答えてはいるものの、彼のしたたかさを読み違えてはいけない。

 他方、オーストラリアの億万長者ケリー・パッカーも勢いがよく、これまた株価は二倍近く跳ね上がっている。そのほか、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の老舗OzEmailが新興のEisaに買収され、オーストラリアのISPも、テルストラ(Telstra)、ビッグポンド(Bigpond)の強大化(強者)対新興勢力(弱者)が生き残りをかけて熾烈な争いを繰り広げる戦国時代に突入した。そして、イギリスのグラナダ・テレビジョン(Granada)がチャンネル・セブン(Kerry Stokes)の10.8%株(1億4,100万j)を買収し、オーストラリアのメディア市場は外国勢力に現在の15%制限をいかにするか、再び議論されている。

 海外から見たサイバースペースの日本語新聞

 さて、そのインターネットを介しての新聞、ニュースが海外からみた場合どうなのだろうか。今回当地の日本人向けISPに入り、いまではあまり言われなくなってしまった「ネットサーフィン」を楽しみながらも日本語メデイアを海外から眺めてみた。

 オーストラリアではまだ一般的には家庭へのISDN回線は普及していない一方、数年前から始まったペイチャンネル(有料ケーブルテレビのこと)に加入すれば、その回線を使ってインターネットサービスを受けられる。市内での電話は40k(日本円で30円足らず)でかけ放題であるにしても、オプタスだとそれが20kで提供される。

 このペイチャンネルは開始された1995年当時は五社だったが、現在はオースター(Austarフォクステル(FOXTEL)オプタス(Optus Television)の三大社がオペレーターとして市場を占有している。昨年にはマードックのフォクステルがはパッカーのPBLに所有株の半分を売却し、テルストラ(Telstra50%)、マードックとパッカーが25%ずつとなり、両者が対等になった。三社の概観は別表のとおり。

 ペイチャンネルで外国語放送が最も充実しているのはオプタスである。、日本のNHKが見られるため、これに加入する永住日本人が少なくない。外務省数値ではシドニーで約5,000人であるからそう多くはないが、オプタスはギリシャ語3チャンネル、アラビア語、中国語、広東語、レバノン語、イタリア語など合計9チャンネルをもち、オースター0、フォクステル2と比べて明らかにこの分野の視聴者層をターゲットにしていると言える。この外国語放送の番組供給はアンテナ・パシフィックいう会社が一手に行っている。日本語放送で言えば、多言語放送局SBSが月曜を除く毎朝五時半から前日夜七時のNHKニュースをそのまま流しているので、こちらを録画している日本人もいる。

 ところで、ISPが日本語ソフトをカバーしているところに個人でインターネット・PPP接続ができれば、日本と同じ環境でサイバー上の日本語新聞が読めることになる。ウィンドウズ95以降地元ISPも多言語に対応し始めたのも幸いである。それでもなお大学や公共機関などは大容量のホストコンピュータとの関係もあるから、どの端末でもインターネットができるからといって、即日本語ブラウザが見られるわけではない。例えば、州立のニューサウスウェールズ図書館では無料でインターネット端末が使えるが、日本語に切り替えても半分以上は文字化けしてしまう。これがネットスケープのせいであり、IEなら大丈夫かどうかは確認していないが、いずれにしてもいかに英語がこの世界での共通言語かということであろう。

 というのは、数年前から海外へ交換留学へ行く学生がひと月もしないうちにEメールのアドレスでメールをよこし始め、またマイクロソフトが先鞭をつけた無料のホットメールなどが昨年から増えたにしても、海外ではそうたやすく日本語環境でメールや日本語のHPを送受信、閲覧できるのは先進国間のみであって、そうはなかなか日本と同じ環境にはいかないのが実情だ。ローマ字で送ってくるときは大文字、小文字にしてくれないと読みづらいと言っていたのは過去のことかと思えば、いやはやそうでもないのである。

 ここオーストラリアでは、ニフティがシドニーはじめ主要都市にアクセスポイントを持っているので、そこに接続できればいいのだが、一か月150時間3,000円などという定額金とは別に海外だと1分15円別料金が課金されるので、これまた通信速度が遅い回線だとそれだけ課金されることになり、インターネットへの接続もできない。それでもローミングをすればインターネット環境にはなるのだが、またまた課金が増えてしまう。まして大都市以外に済んでいれば、40kかけ放題というわけでもない。そうなると、AOLやMSNの方が有利になるかもしれないが、これまたアクセスポイントがカギとなる。

 ここまでできたら、通常の方法で日本の新聞にアクセスすれば言い訳だが、それでは従来の活字の日本語新聞とHPを読むのとではどちらがいいのだろうか、とも思う。というのは、シドニー大学図書館の日本・アジア関係図書室で数日前の朝日新聞が読めるが、シドニー市内で日本人客が泊まるホテルを別にすれば、日本語新聞が買えるところが激減した。別にインターネットの影響とも思えないが、書店などでも日本語の新聞は置かなくなってきている。その代わりに雑誌やマンガ類が確実に増えているも、海外へでてゆく人たちの傾向を醸し出している。特に1990年代以降だろうか。むしろ邦字紙の『日豪プレス』(月刊、二万一千部)などに代表される刊行物のほうが、よりコンパクトに日本の情報を知らせてくれる。

 少し横道にそれるが、ここシドニーでの外国紙(ethnic press)はようやく各種メディア統計にも載るようになり、現在120紙以上。10,000部以上の部数比でいうと、やはりイタリア語(2.3%)、ギリシャ語(1.6%)あたりだが、中国語系(1.7%)が数としては急上昇している。日本と違って、ニュースエージェントに置いてある新聞の種類でそこの住民が分かるというのはフランスと同じであるが、ロンドンでもかつて筆者が済んだフラットの1階にニュースエージェントがあり、衛星版が置いてあった。従って、シドニーでの日本語新聞が消えてゆく様は興味深い。

 中でも、今回最も感心したのはウィンドウズ98から組み込まれたストリーミング機能である。これは読売新聞ほか、日本のラジオ、テレビ局のサイトをライブまたはオンデマンドで呼び込むことができるものである。従って、日本にいてもオーストラリアやアメリカのラジオ局が聞けたりするわけで、こうなると、これまでの短波放送の役割もずいぶん変わってくるのではないだろうか。多少サーバとの接続が切れることがあるにしても、ネットサーフィンを楽しみながら、音声で日本のニュースを聞ける。なかでも読売新聞ニュースがもっとも充実しており、毎朝先述のNHKニュースと一緒に接すれば、かつてのように、時間に合わせて短波受信機をとりだし、アンテナの方向や角度を気にするといったこともなく、日本の事情を知ることができる。

  
Austar Foxtel Optus Television
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34ch. 37ch. 35ch.
 契約者数1) 370,000  570,000
視聴世帯数2) 210万世帯 250万世帯

 放送サービス開始           
 衛星開始              1999.3
 稼動人員             500人(常勤)
                  100200

1)契約者数(1999.12) 2)推定視聴者世帯(199910)