『卒業論文・ゼミ論執筆のための手引』
新聞学科 演習2,3,4履修学生のために
2000/12/11作成
修正2009/09/21
* * 目 次 * *
【入 門 編】
§1 卒論執筆の準備 推薦図書/論文とは§2 テーマの設定 テーマを見つけるために ほか
【実 際 編】
§7 新聞学科卒論作成要領・細則 (別掲のHPを参照)
§8 執筆上の注意 (別掲のHPを参照)
この「手引き」は、いわば卒論執筆のためのマニュアルである。既に学科生は三好崇一元教授がまとめられた「論文とレポートの書き方」を読んだことと思うが、本マニュアルはさらにもう一度同書を引用しつつ、卒業論文執筆の心得を確認し、さらに実際に執筆するスタイルについて詳述することにより、学生諸君に水準(質)の高い論文の完成を目指してもらいたいために作られた。
ところで、ここでいう「論文」とは卒業論文のことにほかならない。後述するテーマの設定や研究の深まり、事実の検証も論文全体の質を高める重要なことだが、従来そのスタイルについては、あまり論じられてこなかった。しかしながら、誤字や脱字、目次と本文見出しが違っていたり、図表の出典(出所)が明示されていない、引用文献の書き方の粗雑さが目立てば、いかにいい内容、展開であっても、質の高い論文とは言えないのである。また、当世の風潮として、「卒論は書いて出せばいい」とか「就職が決まっているから、書けば出してくれる(卒業できる)」と考えている学生がいるのも困る。
論文執筆は、執筆者一人ひとりが、原稿を書く作家であるばかりでなく、どういうテーマでいつまでに何を書いてもらうかに始まるスケジュール管理・調整、資料の収集、執筆という作業、編集・完成原稿の校正、さらに製本までしなければならないという一連の作業である。すなわち発想から一冊の本を作り上げ店頭にならべて読み手の批評をもらうというところまで、全て自己生産(活動)しなければならない場なのである。
締め切りはむろん 12月中旬と決められているから、それに基づいた日程作り、執筆ができなければ、話にならない。「時間がなかったから」とか「興味のあることをまとめあげられてよかった」との発言は、前者は問題外で初めの構想を実現(具体化)できなかったことの言い訳に過ぎない。後者に関して、興味や関心のある領域をテーマに設定することは吝かではない。最近面接時にあるいは「あとがき」でしばしば聞かれる表現だが、その程度の自己満足感で書かれる論文、まとめられた論文などは決して質の高い内容と呼べるものは少なく、査読者が賞賛を与える内容とは言い難い。
付け加えると、「卒論」とは大学在籍の4年間に培ったことの集大成とも言うべきものなのである。しかしながら、現実には恐らく、3、4年生になっても専門テーマの材料をいかに集め、どのように料理するか−−調理の仕方や盛り付けが分からない学生が多いのではないか。それは、あたかも冷蔵庫に何も入っていない(中にはすでに材料=テーマや、調味料=方法論を入手した学生もいるが)ようなものだから、次のような状態と言える。
というように、だいぶ辛辣に書いたが、まず最初にいくつかアドバイスをしておこう。
(3)こまめに資料・文献収集をすること。
なお、このマニュアルの後半部【実際編】は原則的にワープロまたはパソコンソフトによる執筆を前提として作られている。また、鈴木研究室所属学生以外の卒論執筆者が本冊子を参考にする場合、指導教授のアドバイスが優先されることは言うまでもない。その他、文中で使用される記号については、以下のとおりである。
→ ファイル・文献類は7号館4階の新聞学科会議室「鈴木ゼミ」のコーナーに保管してある。 「ページ」は一部「頁」を使用している。
【入 門 編】
1.推薦図書
新聞学科では学生の卒論・レポート作成にあたって、次のような推薦図書を挙げている。
A.早稲田出版部(編)『卒論・ゼミ論の書き方』 早稲田大学出版部
B.林 太郎『新しい論文・レポート・作文の書き方』新星出版社 1985年
C.沢田昭夫『論文の書き方』 講談社(講談社学術文庫)
D.斎藤 孝『学術論文の技法』 日本エディタースクール出版部
(氏名頭部のアルファベットは以下、引用図書名を示す)
→図書館作成「レポート・論文作成に関する文献目録」
※上記の中から、あるいはこれはと思うものを、一冊熟読して執筆に備えよ。
現在の推薦図書は 吉田健正『レポート・論文の書き方』(ナカニシヤ出版、1997年) 1,500円
2.論文とは
論 文……論点や問題点の提起がなされ、自己の創意から出た仮説を事実に
よって論述し結論を引き出すもの。
……一定の形式を備え、かなりの分量を有し、各方面からの批判を加
加味して書き上げられたもの。
……学術論文とは、自分の研究の結果を論理的な形で表現したもの。
……英語で分類すると、
■ treatise 多少とも体系的なもの。
■ dissertation 普通には、論文など意味に使う。
■ article 新聞・雑誌に出ているもの。
■ thesis 題目・論文等の意味。卒業・学位論文に使用。
■ essay 随筆や文芸上の詳論。試験論文にも使用。
■ theme 学校の課題に対して作った作文・論文。
研究論文の資格のないもの
■ 一冊の書物や一篇の論文を要約したものは、研究論文ではない。
■ 他人の説を無批判に繰り返したものは、研究論文ではない。
■ 引用を並べただけでは研究論文ではない。
■ 他人の業績を無断で使ったものは、“ひょうせつ”であって、研究論文ではない。
テーマを見つけるためには
自己の創意、すなわち誰のものでもない、自分だけが見いだした論点をもとにすること。創意のない論文は、本当の論文ではない。
《心構え》
(1)興味の対象を明確にする。
(2)問題点を探す。
■ 通説の誤りを見出だす。
■ 通説で欠けているところを見出だす。
■ 通説に何かを付加する。
■ 新しい解釈をする。
(3)焦点を絞る。 仮題から本題へ。 教授にぶつかろう。
2.「どういう事項」を「どんな風に」書くか
テーマは適当な幅と深さが必要
・テーマを選ぶことは論文の間口をどのくらいにするかを決めること。
・自分が資料や確かな意見を持っているものを選ぶべき。
・「好きこそものの上手なれ」
・他人のテーマを見てよく検討し、自分のテーマと比較してみること。
3.自分の扱う論文のトピックを確定する前に
(1)このトピックの研究に必要な材料があるか。
(2)自分の力で扱いきるか。
(3)新しい研究トピックであるか。
(4)自分は、このトピックに興味関心を持っているか。
(5)意義のある研究トピックか。
いったん確定したトピックでも研究・調査の過程で常に変形するという流動性をもっているから、最終的なトピックになるとは限らない。最初に選んだトピックにしがみつかずに、速やかに別のトピックに移る勇気も必要。
4.テーマは細かくしぼること。
自分がその研究のために、情熱を燃やすことの出来るテーマ、自分のエネルギーを注ぐに値するようなテーマを選ぶことが大切。
(1) 自分の関連する分野の学術雑誌に早くから親しんでおくこと。
(2) 教師の指導を受けること。
(3) 大学の卒業論文のテーマを過去にさかのぼって研究すること。 →ファイル「卒論資料・卒業論文一覧」『コミュニケーション研究』各号参照
(4)テーマを選んだ根拠をはっきりさせること。
1.「卒論作成」用にノートは必携。
まず、「卒論作成」用にノートを一冊、新調する。これには論文に関係のありそうな
事柄のすべてを随時記入していく。
・文献名を書きとめる。
・スクラップ・ブックをかねる。
・ひらめきをメモする。 [D.pp.30-49.]
2.自分のテーマに関係のありそうな文献名について一通りのリストを作ってみる。
・文献目録の作成……既成の文献目録をうまく活用せよ。
→別配布「資料1」参照
・文献の探索……資料の所在/図書館の利用 →別配布「資料2」参照
佃實夫『増補版 文献探索入門』(思想の科学社、1975)
・ノートの記載
3.レファレンスの利用
・参考書を利用……ある事柄の概要、大枠をつかむ。言葉の定義
人名辞典/百科辞典/専門事項別事典/資料集成/引用句・用語辞典
→図書館作成「ジャーナリズム」
4.文献カード・研究カードの作り方と利用の仕方 略 [C.pp.54-76.]
5.雑誌、とくに学会が発行する学会雑誌や紀要、専門誌は十分に資料価値がある。
研究所や専門図書館を活用せよ。
→図書館作成「雑誌目録[和文編]」「雑誌目録[欧文編]」
〃 「図書館・資料館ガイド」
→ データベースの活用……ただしあくまでも基本資料として利用する。
6.文献の精読
(1) まず概説書に……「注」や「参考文献」に挙げられている文献に注目。
(2) 次に、専門書に当たれ
(3) 最後に、論文を読め
(4) 雑誌も馬鹿にはできぬ。
・必要な書物は自分で備え、必要に応じて種々の書込みをせよ。ただし、人から借りたものは絶対に汚すな。
・論文テーマの核となるような参考文献は必ず自費で購入すること。
長期借用して卒論を書くような不届きものになるな。
7.キーワードは何かをつかめ。多分野、多方面にわたって、
・テーマに関連するヒト、すなわち中心人物、周辺人物を追う。
・テーマに関連する論文を書いている執筆者を追う。
・コト、テーマに関する事柄を追う。
8.必ず原典に当たれ
9.資料の信頼性
・資料の出所を確かめること。
・論旨に飛躍はないか。
ここまで一息に読んでくれただろうか。もうテーマが決まったキミはいい。でもたいていの諸君はそこまでいっていないだろう。だからまだ決まらないアナタ、アセらなくてもいい。選択肢を広げてみよう。円の中心から、あるいは周辺からと、ものの見方はあるものだ。骨休めに、次の本を読んでみては−−
木下是雄『レポートの組み立て方』(ちくま学芸文庫、1994、780 円)
さて、次は、いよいよワープロに向かう番だ。
【実 際 編】
1.大切なのは、論文全体が分かりやすく書いてあり、構造的に組み立てられていること。
2.横道にそれて、なにが幹なのか分からなくなってはいけない。
3.話の道筋が明確でなければならない。
4.論文は主張や意見の明示されたものでなければならない。
5.冷静な表現でなくてはならない。理路整然と真面目な文章でなくてはならな い。
6.結論に至る経過が明らかでなくてはならない。
7.冗漫や過度の修飾語はいらない。
1.枚数の規定
1 400 字詰め○枚以上と規定された場合、おおよそ規定以上の分量を書く。
・50枚以上ならば、7〜80枚、80枚以上ならば、 100枚は必要。
2 新聞学科の規定は「 200字詰め原稿用紙 140枚以上」だから、 170〜180枚程度が執筆目安であり、 200枚前後が上限となる。枚数の多いことはとくに誇るべきことではない。むしろ限られた分量のなかで論文をまとめることが重要なのである。
2.一般的注意 (1)文字は辞書に当たれ。
(2)俗語、卑語をつかうな。
(3)「です」ではなく、「である」を。
(4)修飾語はなるべく使うな。
(5)みだりに線や傍点をつけるな。 [A.pp.126-130.]
3.論文の文章でつねに次のことを頭におけ。
(1) 読む人(読者)がいる。
(2) 自己の主張を明確に。一つでも、二つでもどこかに“独創性”の光を放て。
(3) 説得力のあるものを。 [B.pp.31-34.]
(4) できるだけ凝らないで、自然のままの文章を書く。
(5) 難解な言葉は出来るだけ少なくし、いま世の中で使われている言葉を使うようにする。
(6) できるだけ使える言葉の数を多くする。 [B.pp.135-139.]
(7) 文章のテンポ−−短く、書き方に工夫を凝らす。
(8) 山場はどこか ・結論が先か、結論があとか。
(9) 余韻を残す文章を。 [B.pp.141-145.]
1.もう一度カードやノートに目を通す。
2.章筋(論文のアウトライン)を立てる。
3.カード(収集した資料文献)を配列する。
4.ワープロ(原稿用紙)に向かう。
5.まず序(論)を書こう。問題意識、目的の再確認。
6.本論はまわりから。
7.注(引用)は草稿のとき、余白か本文のすぐ近くにかならずつけておこう。
その際、きちんと文献名、引用頁なども記入しておく。これは、初めに文献一覧リストを作っておくと、記号化ができて便利。最後の文献リストの作成にも使える。
8.結論(結び)をつける。
9.「おわりに」を書く。この部分と「はじめに」の前半が唯一、私的論述となるであろう。 [A .pp.96-124.]
1. 第1回草稿提出
チェック1 |
プリントアウト1 章ごとまたは全部 |
校正などのみ直し。大幅な書き直しが求められることもある。 |
|
2. 第2回草稿提出 チェック2 |
プリントアウト2 |
チェック1で直された1回目の草稿も添付すること。 |
|
3. 最終草稿 |
プリントアウト3 原則的にチェック2を通過したもの。 |
※ワープロ用紙、リボンなど消耗品を多めに購入しておくこと。
§7,8 省略
以上、長々と論文の書き方と諸注意を述べてきたが、実はこれらの事柄は多くの書籍と実のある論文に触れた人にはいささかくどいかもしれない。多くの良質の文献に当たれば当たるほど、それが分かってくるはずだからである。しかし、現実にはまだこれからそうしたことを体験し、身につける学生がほとんどだろう。
スタイルについては、文章の書き方についての参考書の中でもかなりバラエティがある。要は執筆論文の中で一貫した“統一性”をとることが大切。ただし、その場合に誤った手本を参考にしないよう、判断することも大事だ。いくら統一性があっても、もともとがよくない手本であれば、そうした努力はムダに終わってしまう。先輩の論文を過信するのも余り好ましいことではないこともある。
最後に一言。卒論執筆に限らず、レポート、原稿、記事を書く心得のひとつに「孫引きではなく、常に自己確認」、すなわち「ウラを取れ」というのがある。大切なことは自分の目で確認し、行動する−−そうしたことが、あなた方のこれからの社会生活にとっても重要なことなのだから。それでは、本マニュアルを使ったことにより、いい論文が完成したとの報告を期待している。
参考 慶応大学・ 関根政美研究室