徒然物草付録


「感動は要らない、興奮が欲しい」或は「物語は要らない、競技が見たい」(2006-03-06)

オリンピックは最後に金メダル、終わり良ければってことにしましょう。 そしてその余韻も冷めやらぬ間にWBC(World Baseball Classic)。 その放送姿勢に苦言を。

まづは、記念すべき第1回大会の開幕戦たる韓国−台湾戦の放送なし。 (いいんですか、昼間から放送して夜の日本戦の前景気を煽らなくて、 やる気ないんか、ってのは別の問題として。) 更に、その日本の緒戦たる日本−中国戦の試合前の国家斉唱の場面で、 君が代は放送すれど、中国国歌の流れる場面は放送せず。 これは非常に礼を失することではないか。 そして3戦目の日韓戦。 李晋暎(今調べた。ネットは便利だ。)のファインプレイや、 イチローのレーザービーム(アウトにはならなかったが)なども出て、 手に汗握る好ゲーム。 ところが、ヒーローインタビューの時に、実況席が喋りかぶせて何も聞こえず。 全て参加チーム・相手チームへの礼(今風に言うとrespectですか)が無さ過ぎる。 これがどこから来るかと考えるに、 根本にあるべき「競技・ゲーム・プレイを伝える」という立脚点を 欠いているのではないか。 競技をより面白く見ようと思ったら、相手選手の情報も知りたい所だが、 そういう情報は殆ど伝えない。 じゃあ連中は何がしたいかというと、どうも 「日本代表が世界一を目指す物語」を伝えたがっているように感じる。

あたしゃそんなもんは見たかない。 競技を見せろ。ゲームを見せろ。プレイを見せろ。プレイする選手を見せろ。 競技の内容の奥深さが、シビレるようなゲームが、すげープレイが見たいんだ。

先日までのオリンピックでは、 期待の大きかった日本選手の多くがメダルに届かなかったので、 幸か不幸か却って競技観戦に集中できた。 (民放での中継を殆ど見なかったという理由もあるかもしれないが。) メダルラッシュだったら、選手の物語の奔流にうんざりしたかもしれん。 腰を据えてWBCを見られるのは、日本チームが敗退した後からですか。

補足。ゲームの世界では、対戦する自分側でないプレイヤーのことは、 opponent(相手)と言って、enemy(敵)とは決して言いません。 相手がいるから手を合わせられる。 昔からある普通の言葉だけど、良い言葉ですね。(2006-03-06)

追記:ボクシング亀田−ランダエタ戦に寄せて

少々遅れましたが、だから言わんこっちゃない、と。 5万件の苦情は自業自得でしょうな。

いきなりダウンを取られたり、最終2ラウンドはすっかりくたびれてたり、 多分あと2ラウンドくらいあれば点数上でも完全に優劣が付いていたと思うが、 今の採点法をちゃんと理解していたら、試合終了時点で、 どっちに転んでもおかしくない相当微妙な判定だったことは解ったと思うよ。

中継を偶々ずっと見ていたが、どちらに転んでも一方的かとも思った予想に反して、 お互いに打ち合いもらい合いながらそれでも止まらない熱戦であった。 双方決め手に欠けたとも言えるが、接戦で面白い試合だったんじゃないか。 競技観戦としては実に楽しんだ。

放送開始から試合開始まで1時間以上。 この時間は試合をより楽しむために充てられるべき時間だった。 で、「物語は要らない、競技が見たい」のである。 競技をより楽しむには何が必要か。 どちらが有利か、どうすれば勝ちか、どのように戦うべきか、 それを理解することですね。 KOすれば勝ちだから倒すべく戦う、それはそうだが、判定もある。 終盤で判定不利と思えば、多少危険でも倒しに行かなくてはいけない。 判定有利と思えば、その優位を保ちつつ、 危険を冒して倒しに来る相手の隙を突いて逆にKOをも狙う作戦もあるだろう。 競技を楽しんで見るとは、それを解った上で、じゃあどう動くのか予想し、 今の動きはどうなのか判断・評価して、手に汗を握るということだ。

とすれば、試合開始までの1時間に何を放送すべきだったか。 ルール(1ラウンド内の3ダウンでKOとか)を説明し、 現行の採点法(特に僅差でもラウンド毎に極力10-9と差を付けることなど) について紹介して、 ではみなさんも手元に採点表を用意して御観戦を、 これじゃないのか。 初回はダウンがあって10-8、その後は一進一退ながらも やや亀田が押し気味で10-9を取るラウンドが多そう、 最後2ラウンドはランダエタが10-9で取ってるかな。ほら微妙でしょ。 中盤に続いた僅差のラウンドがどう判断されているかがポイントで、 最後12ラウンド終了後の疲れ方で判断される訳じゃない。

そう言えば、WBCの日本−中国戦も、今回の亀田−ランダエタ戦も、 同じ放送局だった。 横浜ベイスターズを支えてくれているんで余り悪口は言いたくないが、 以前からこの局はスポーツ中継で何かと苦情が殺到している。 まぁこの局に限らず、一般に民放の多くでは、 スポーツ中継と芸能とが同じ括りになっているのが演出重視に陥る原因とか。 報道として放送してもらいたいんだがな。(2006-08-10)

参考記事

参照して頂いたので、こちらからもリンクを。rossoさんの 「酔歩伝(Random Walk on the Mathematical Way)」 内の 「数学的昨日今日」2006年8月18日の項。 そこで紹介されているNHKの刈屋アナウンサーのインタビュー記事 「オリンピックの女神はなぜ荒川静香に「キスを」したのか?」 は実に興味深い。必見。(2006-08-31)