数学B(微分積分)(物質生命理工学科1クラス)・数学IN(化学科)講義日記



4/14

理工学部新体制の授業の初回。 新理工学部の「数学B(微分積分)」(物質生命理工学科1クラス)と、 従来の化学科の「数学IN」(再履修)との合併授業である。 120人規模の学科を2クラスに分けているが、 もう一方のクラスの担当の筱田先生とは、 大体は内容を合わせつつもそれぞれでやりましょう、 という打ち合せたんだか打ち合せたことになってないんだか、 てな感じでやることになっている。 昨年の化学科の「数学IN」も担当したので、 再履修生の多くはその時にあたしが落とした学生 (時間割の具合で登録していなかった学生もいるが) なので、嫌って向こうのクラスに行くか、幾らかでも様子の判るこちらに来るか、 どんなもんかと思っていたが、見たような顔がいて、 まぁこっちを選んでくれたかと思うと嬉しいね。

基本的には 昨年の化学科の「数学IN」と同じような予定で、 ただ去年は最後の1回で常微分方程式の話を紹介したけれど、 新カリキュラムでは秋期の選択科目に微分方程式の授業があるので、 それは今回は入れない。その1回分だけ余裕が出来る筈なので、 積分計算の辺りを少し丁寧に触れようという予定。

で、導入は去年と同様で「不等式の数学」をしましょう、と。 高校でも2次不等式を解いたりはしてるけど、 動作は等式(方程式)の場合と同じで特に不等式らしさはないよね、 というと何となく納得している様子。 自分が習ってきたものを見直すというのは意味がある。 で、去年と同じ題材から。

縦が大体20cm、横が大体30cmの長方形の紙がある。 従って、面積は大体20×30=600cm^2である。 さて、面積の誤差が1cm^2未満であると言うためには、 縦横の長さの誤差をどの程度に収めれば良いか。

どんな小さな許容誤差に対しても測定精度を上げれば大丈夫、 というのが lim_{x→20,y→30}xy=600 っていうことの実質的な意味内容だよ、 という所で初回は終了。 今回の所は何となく聴いているようだが、次回の演習でどうだろうか。

4/21

前回の復習から入る。復習はプロジェクタ資料で。 ここはノートを見返す所、ということを強調。 で、前回の話をもう少し詳しく見る為に、縦横を同じにして少し単純化した問題。

一辺が大体2cmの正方形(従って面積は大体4cm^2)で、 面積の誤差を0.1cm^2未満にしたければ、 一辺の誤差をどの程度に収めれば良いか。

これを数学的に書くと以下のような話、ってことで答案提出形式の演習問題。 出席を取るのも兼ねてます、というか、出席を取る代わりくらいの感じ。 相談・質問あり。

関数 f(x)=x^2 において、 x を 2 に近付けると f(x) は 4 に近付くが、その誤差について、

  1. |f(x)-4|<0.1 となるためには、x をどの程度 2 に近付ければ良いか (つまり、|x-2|<δ なら大丈夫と言えるためには、 δの値をどれくらいにすれば良いか)。 (ヒント: x=2+h と置くと計算し易い。)
  2. |f(x)-4|<0.0001=1/10000 となるためには ?
  3. 一般に、εを任意の正の数として、|f(x)-4|<εとなるためには、 δの値をどれくらいにすれば良いか。 (ヒント: 同じ要領の評価を変数εのまま行なえば良い。)

(注: ぎりぎりの限界を精密に求める必要はないが、 桁くらいは正しいことが望ましい。 また数学的に不正確なこと(不等号でなく≒を用いるなど)はしないこと。)

去年の様子を見て、注を付けました。 取り敢えず真似して書いていくと型稽古は出来る、という問題で、 見よう見真似で書いていく人あり、色々考えて質問して来る人あり。 手が遊んでる人はいないようなので良しとしましょう。 20〜30分くらい時間を取って落ち着いた辺りで、一旦引き取る。 どんな小さな許容誤差εに対しても測定誤差の上限δが取れるのが lim_{x→2}x^2=4 という訳で、 今年はここで所謂ε-δ式の収束の定式化を書いてみました。 数学科だったらここからお作法のお稽古が始まる訳ですが、 理系基礎教養としての数学の授業では、ここまで、ということで良いでしょう。

で、繰返し測定による誤差の話を少しだけして、 確率統計は2年次の「数学C(確率統計)」で扱う、と言って振り逃げし、 極限・近似の話から、Taylor展開の導入に向かい、 一般の関数を多項式の極限(冪級数)として表そうとすると、 というところで本日終了。

演習の答案を集めて読んでみると、ミスリードしたかなぁ、という所があった。 「δをほげほげ未満に取れば良い」を最後の結論というように 誘導してしまったのはいけなかった。 「δはほげほげ未満なら良いので、δ=ほげに取れば良い」 とすべきだった。そうでないと、誤差 h と誤差の上限δとの区別が付かない。 だから |h| をδで押えて置き換える意味が解らず、 h のままで評価を進めてしまう答案が見られた。これは来年への反省点。

4/28

Taylor展開の導入。 一般に関数 f(x) が冪級数に展開できたとしたら、 (そして項別微分とか色々都合良ければ、) その係数は a_n=f^{(n)}(0)/n! となる。 多項式の場合はTaylor展開と言ってもそのままだが、 それでもTaylor展開を見ると面白いこともある、 と言って二項定理の話。これは一般の実数冪の二項展開の前振り。 それから指数関数・三角関数なら高階微分が判るのでこれも簡単、 という訳で、cos x の展開を紹介したところで演習問題。 余り時間がなかったので、 提出は取り敢えず出来た人だけで、次回でも良いことに。

  1. f(x)=sin x のTaylor展開を求めよ。
  2. これを利用して、
    1. 極限 lim_{x→0}((sin x-x)/x^3) を求めよ。
    2. sin 1 の近似値を小数第4位まで求めよ。

sin 1 の 1 とは勿論 1 rad のことだが、ちょっと見馴れない。 度数法で書くと角度だと思うけど、弧度法は三角関数の引数だったり、 角度を表す時も見掛けるのは専らπの有理数倍だしね。 実際 1°と勘違いして「こんな値になる筈ないと思うんですけど」 と授業後に言ってきた人がいた。 良いですね。ただ計算して結果らしきものが出たらおしまい、じゃなくて、 それが真っ当な結果らしいか、自分が知っている限りの知識で検討して、 妙な点があったら「おかしいぞ」と思う。素晴らしい。 勿論「この 1 は 1°じゃなくて 1 rad だよ」と言ったら即納得でしたが、 その後もまた偉い。関数電卓か何かで確かめていたようだ。素晴らしい。

問題に取り組んでもらってる間に、前回の答案返却。 今年の1年生から学生番号がランダム(名前の順と独立で、連番ですらない)なので、 「はい、次から何百番台の人」と言って呼ぶしかなさそうだ。 その後で答案についてのコメントを少々。 とにかく「読める答案を書け」と。答案は小論文である。 「となる」と「とする」とを区別せよ。 デフォルトは「となる」なので「とする」「と置く」は省略不可、など。 終わり間際になってしまったので、内容についてのコメントは出来ず。

5/12

先週は「こどもの日」で休みだったので、1週空いて2週間振りの授業。 前回の演習でTaylor展開の使い方を見たので、 今回からはTaylor展開の裏付けとなる理論へ。 Taylor 展開の利点・欠点・課題点のまとめ。 課題点の第一として収束性から。 無限級数の収束・発散の例。 Σ_{n=1}^∞ (-1)^{n-1}/n を色々いじって奇怪な現象を観察。 正の項だけ・負の項だけの和が発散する所に原因があるので、 分けて考えよう、という辺りまで。絶対収束の説明までは進めず。 予定より若干押し目。

5/19

前回の復習から。 Σ_{n=1}^∞ (-1)^{n-1}/n=log 2 となることを補足。 こういう所謂「区分求積法」の話題は高校の「数学III」の範囲だけど、 どれだけちゃんと扱ってるのかなぁ。入試で出たら「難しい積分の問題」だよね。 絶対収束・条件収束の違いの話。 単調増加数列の収束性の話で、上界・上に有界などの説明。 ε-N 式の書き方を少しだけ。 「単調増加数列が上に有界なら収束し、最小上界(上限)が存在して、それが極限値」 というのは、上限の存在を仮定すれば証明を書くのも難しくはないが、 そこまでは深入りせず。 上限の存在は実数論なので、もしそういうことを踏み込んで聴きたい人は、 全学共通科目の「現代数学B」(秋期)へどうぞ、と。

比較判定法に進んで、標準的な比較対象として等比級数を挙げて、これが基本、と。 公比<1かどうかで分かれる。 そうでない場合も「ほぼ公比」の1との比較で判定できる場合が多いってんで、 d'Alembertの比テストとCauchyのn乗根テストとを紹介する予定だったが、 時間切れでその寸前まで。演習問題を用意していったが来週に先送り。 どこかでうまく時間を稼がないとまづいなぁ。

5/26

中間試験(6/16実施)の予告。 d'Alembertの比テストとCauchyのn乗根テストとを紹介して、 先週出来なかった演習問題へ。

次の級数が絶対収束するような $x$ の範囲は?

  1. Σ_{n=0}^∞ x^n/n!
  2. Σ_{n=1}^∞ x^n/(n 2^n)
  3. Σ_{n=0}^∞ n 3^n x^n
  4. Σ_{n=0}^∞ n! x^n
  5. Σ_{n=0}^∞ n^n/n! x^n

(2)は軽く解説。 今までずっとこの順番に並べてきたが、 (2)(3)を始めに持っていって、(1)をその後にした方が良さそうだ。 25分ほど時間を取って、質問があればその都度答える。 質問のしかたや解り方が凄く気持ち良い学生がいた。数学に転向しませんか。 補足として、 「∀n:|a_{n+1}/a_n|<1」と「∃r<1:∀n:|a_{n+1}/a_n|<1」との 違いについて注意。 比テストやn乗根テストでは極限を取ってから1と較べるんだ、ということを強調。 これでxの範囲にnが残ることも防げるだろう。

r=1の時は微妙なので、本授業では「微妙」という判断までで充分で、 それ以上の判定は要求しないが、r=1となる例で既に知っているものもある。 調和級数Σ1/nは発散するが、Σ1/n^2は収束、ってんで、 Riemannζの話を余談として少々。 時間は押し目なのだが、理系の基礎教養に属する話として、 この話はしておきたいなぁ。

さて、収束半径の話は軽く済ませて、 形式的Taylor展開が収束したからと言って、 元の関数に戻っているかどうかは明らかではないよ(実際、反例もあるし)、 ということで、剰余項の評価にかんするTaylorの定理に向かう訳だが、 予告編までで終了。