2001統計力学II
Q&A-3 (10/19)
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注)読みやすいように文体を多少改変・統一してあります。
良問(?)には苗字を公開してありますが、困る人は申し出て下さい。
また、苦情や不満についてのコメントを公開する場合は必ず匿名としますので、
辛口のコメント もどしどしお願いします。
*できるだけ具体的に書いていただけると対応・補足できます。
例:「よくわからなかった」⇒「二重和の取り方で、なぜ束縛条件が外れるのかわからなかった」
Q's
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A's
- 数式の羅列が多く、要を得ない教科書のようである。 <<<TOP
辛口のご意見ありがとう。計算の途中もフォローしようとして、ついつい、式
だけになってしまうことが多いと思います。式の意味は、口頭ではかなり説
明している「つもり」なのですが、板書の量が多くて、口頭のコメントを聞い
ているひまがないと、確かに、式の羅列になってしまうと思います。
単純な計算は各自で確かめるようにおまかせして、内容の説明をもっと重
点的に行うように努めることにします。
- レポートの先着制は止めて欲しい
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まず、確認ですが、レポートを出さなくとも、欠席がいくら多くとも、試験の点
数を減点するようなことはありませんので、安心して下さい
(レポート及び
出席点は基本的に、試験の点数が足りない人に加点を行います)。
また、たとえ、人数オーバーしても試問の上、受け取ることにしました。
レポートの講評のところを見て下さい。
- 私(後藤)の持っているメモは何か? <<<TOP
当日の講義予定内容や計算を、およそ10ページ程度にまとめたものです。
統計力学の担当は今年度初めてですので、大体、1〜2週間かけて準備
します。これを公開することも考えたのですが、講義はしっかり手でメモを
取る(これは講義だけでなく、将来、学会や研究会などに出たときも同様)
習慣をつけて欲しいのと、特に初版はタイプミスがかなりあるので、今の
ところ一般公開は予定していません。
代わりと言っては何ですが、講義担当が今年度で終了した解析力学につ
いて、最終版のノートを限定公開しておきます。 ノートの例(解析力学/pdf)
- 統計力学などでよく出てくる
Ä
という記号がよくわからない <<<TOP
はて、統計力学では出てこないと思いますが、「直積」を表すのに良く使われ
ますね。たとえば、三次元のベクトルは、一次元座標三つの直積です。
- 自由な粒子についての全粒子数の表式
N=Si
<ni>=
1/[exp(b (0-m))-1]
+6/[exp(b
(e1-m))-1]
+12/[exp(b
(e2-m))-1]+...
に出てくる6とか12はどこから出るの?
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大変良い質問なのでレポートNo.3にしました。
- クーロンエネルギーを無視できるほど、パウリの排他律による斥力が
大きいのは意外な感じがしました。
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そうでしょう。ほんとに不思議ですね。このパウリ排他律による斥力は
中性子星や白色矮星など、超高密度の星が重力に耐えている源にも
なっています。
- Fermi波数のイメージがつかめません。Bose波数というのもあるのですか?
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大きな階段教室での講義をイメージして下さい。静かな状態(≡絶対零度)では、
前方の低い位置の座席から順番に埋まって行き、最後の人(一番エネルギーが高い)
が座った位置がフェルミ波数です。
念のため、Fermiエネルギー、Fermi波数、Fermi波長、Fermi温度、Fermi速度などは
全て、単に単位を変えて表しただけのものです。
教室が、騒がしくなると(≡高温)、必ずしも、最前列から埋まるのではなく、
とびとびに間を空けて着席したり、わざわざ、後ろの席に座ったりします。
ボソンは、一つの椅子に何人も座れますから、Fermi波数に対応するような
ものはありません。但し、絶対零度での最大波数という定義を強いて
使うのであれば、絶対零度では全粒子がボースアインシュタイン凝縮して
いますから、Bose波数=0 です。
- 状態と波数ベクトルの間にはどんな関係があるのですか?
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もしスピンが無ければ、一つの波数ベクトルを指定すると一つの状態が決まります。
もし、スピンSがあれば、一つの波数ベクトルを指定すると、2S+1個の状態が
対応します。
ちなみに、一つのエネルギーを指定すると、そのエネルギーでの「状態密度」個の
状態が決まります。
- 1/(1-x) = 1 +
x + x^2 +...が成り立つのは|
x |<<1のときだと思うのですが、
Bosonのときは、どうしてexp(-b(e-m))
<<1と言えるのですか? <<<TOP
ボソンの場合、m<0なので、基底状態のエネルギーをe=0ととれば、常に
exp(-b(e-m))
<1です。
もし、<<1
にこだわるのであれば、数学を復習してみてください。上記の
展開式の収束条件は、| x |<1です。
途中の項で和を止めても大体良い近似であるという条件が|
x |<<1です。
- 粒子がお互いに触れ合わないケース(古典統計が使える場合)とは、
現実の世界ではどういう現象なのですか?
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固体の場合に限定しますと、
1)古典統計が使えるのは、
内殻の局在電子(1s,2s,2p...)、4f
軌道の電子、そして、He以外の原子核
などです。
2)古典統計が使えないのは、
最外殻のs電子など(これが自由電子)
He(3He, 4He)の原子核
(軽いので、極低温下で加圧して固化させても、
零点振動のために、意外と動き回る)
などです。なお、
格子振動やスピンの動きを粒子として捉えた現象(マグノンやフォノン)
も、固体内で動き回りますから、量子統計で扱う必要があります。
3)微妙なのは、
3d軌道の電子です。これは、遍歴電子とも呼ばれ、それほど自由でもなく、
といって、局在しているわけでもなく、固体の中を動き回っています。
なお、「どの統計を使うべきか」、ということ自体が大問題です。詳しくは、
固体物理I、II、実験学(磁気共鳴)、実験学(低温)
などの講義で。
- Fermi粒子は一つの準位に↓や↑のスピンを持つ粒子がペアでなくて
片方だけ入る場合もあるのですか?
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あります。たとえば、磁場をかけた場合や、強磁性体では、片方だけ
入ります(だから、強磁性体になっているのです!)
それ以外では、大抵は、エネルギーがスピンに関して縮退していますから、
同確率で占有されます。あくまで確率が等しいのであって、必ずペアで
入っているという保証はありません。
たとえば、スピン1/2の場合(例えば電子)、全粒子数が奇数か偶数か
によって、最上位、すなわちフェルミ波数の準位に入る粒子が、一つ
(奇数の場合)か、二つ(偶数の場合)のケースが有り得ます。もし、最上位
の粒子数が1つだと、スピンの持つ磁性がキャンセルされず、残ること
になり、磁性に大きな違いが出ます。これは実際、直径数百Åの金属超
微粒子では、顕著に見られます。
- 古典とBosonの違いの説明のところで、T
®0
にしたとき、古典でもBoson
でも、散らばっている確率がありましたが、これは絶対零度でも基底状態
にならない、ということですか?
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違います。
まず、お尋ねの説明とは、「三つの状態に三つの粒子が入る場合」の
説明のことですね。
あれは、十分低温な場合、ということで、絶対零度ではありません。
絶対零度ではもちろん、全部基底状態に落ちます。
参考) 「統計力学入門」高橋・講談社、p262
- 箱の中の自由粒子を考える際に、周期的境界条件を考えた場合と、
高さ∞のポテンシャル井戸を考えた場合とで、違いはありますか?
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大事な質問です。おっしゃるように、C
を定数として、
周期的境界条件では、j
(x)~exp(iC 2pn),
n=0, ±1, ±2,...
井戸型ポテンシャルでは、j
(x)~sin(iC pn),
n=1, 2, 3,...
です。周期的境界条件の方が、波数の間隔が2倍になっていますが、
これは、nの負号が正負ありますから、結局、トータルでは同じ状態数
となります。
もう一つ、原点のゼロは、周期的境界条件の方にのみ現れますが、
これも、状態数としては「1つ」なので、エネルギーの原点をそこ(=零点振動
のエネルギー)に取れば同じことです。
ただ、井戸型ポテンシャルでは、波数が良い量子数にならない
(∵行ったり来たりしている定在波なので運動量の固有状態ではない)
ので、周期的境界条件で考えた方がわかりやすいと思います。
注)
メモを見返すと、井戸型ポテンシャルで説明したときにもsin関数
の中身の係数を2pとしてしまっているようですね。次回、訂正することにします。
- 比熱を計算(レポートNo.1)するとき、kBやN
でスケールする意味がわかりません。
また、どういう場合に古典統計と一致するのですか? <<<TOP
これも大事な質問だと思います。
まず、古典理想気体の一粒子あたりの比熱は、密度や温度、圧力等に
よらず、C = kB/2
(1次元の場合)
でした。実は、レポートNo.1では、エネルギー準位間隔Dの値によらず、
中程度の温度域 ( D<< kBT
<< nmax2D
/ kBT )において、C
≒ kB/2
となる
のです。
一般に、比熱は「ある量」の物質の「温度」を変えたときに吸収・放出する「熱量」
と言う定義ですから、「ある量」、「温度」、「熱量」の単位によって、値が
変わります。ですから、
"単位系はいつでもSI"と言う新入生的考えは捨てて、臨機応変に単位を
変えて式を作り直してみることで、式の意味がわかりやすくなる場合があります。
たとえば、
「ある量」=1モル、1g、1cc、1粒子、etc.
「温度」=1K、1kBK、etc.
「熱量(エネルギー)」=1J、1dyne、1cal、etc.
などですが、今回のレポートの場合、「ある量」を1粒子、「温度の単位」を1kBK
「熱量の単位」を1Jにとると、判りやすいという話でした。
余談)他にもエネルギーの単位として、たとえば、E=mc2から、1(g×c2)を使う
などということも有り得ますし、1粒子の持つエネルギーに限定すれば、
磁場(mBH)、速さ(mv2/2)、波数(hbar2k2/2m)、波長(h2l-2/2m)、周波数(hn)、
角周波数(hbarw)、温度(kBT)、電圧(eV)などもエネルギーの単位として使えます。
- 自由粒子のエネルギー(レポートNo.1)の表式は、e=D・n2
ですが、
どうして D=1
としてしまっているのですか?
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こういう穴(悩み)に陥るケースは意外と多くあるものです。気が付いて
しまえば何と言うことはないのですが、、、。 スケール(scale)という大事な
概念も含んでいるので是非、慣れていただきたいと思います。
今の場合、一言で言えば、エネルギーの単位をDにしているということです。
(e /
D を求めたのと同じ)
もちろん、エネルギーの表式は、
なので、プランク定数、フェルミオンの質量、円周率、箱の大きさなどの
量を含んでいますが、これらは全て定数ですからまとめてしまって、D=1
の場合について調べた、と思ってもOKです。
このように、式全体にかかっている定数をまとめてしまって、それを単位
にして計算することを、「スケールする」と言います。
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