2001統計力学II Q&A-5 (11/16回収分)
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注)読みやすいように文体を多少改変・統一してあります。
良問(?)には苗字を公開してありますが、困る人は申し出て下さい。
また、苦情や不満についてのコメントを公開する場合は必ず匿名としますので、
辛口のコメント もどしどしお願いします。
*できるだけ具体的に書いていただけると対応・補足できます。
例:「よくわからなかった」⇒「二重和の取り方で、なぜ束縛条件が外れるのかわからなかった」
Q's
- 原子中の電子は、クーロンエネルギーを無視できるくらいの、非常に大きな
フェルミエネルギーを持っているようですが、そもそも、電子が原子の中に
居るのは、クーロン相互作用によるのですから、矛盾しませんか?
(匿名)
- フェルミオンは、近くに存在する他のフェルミオンをどのようにして知って、
パウリ排他律を満たすのでしょうか。何か「場」のようなものを作るのでしょうか?(匿名)
- ヘルムホルツの自由エネルギーの複雑な式が、結局T→0で、F=E
, S =0になることに
感銘を受けた。 (赤坂)
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- ゾンマーフェルトの公式の途中の計算がわからなかった。
二次の留数の求め方がわからなかった。(多数)
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-
ゾンマーフェルトの公式の第三項以降はどうなるのか教えて下さい。
覚えるのは二項目までで良いのですか? (富沢)<<<TOP
- ヘルムホルツの自由エネルギーの温度変化の導出で、
積分状態密度とその積分を、
としたとき、どうして、
となるかわからない。(浅原)<<<TOP
- 化学ポテンシャルの温度変化Dmの原因がわかりやすくてよかったです。
kBT/eFは非常に小さいので、Dmもすごく微小になると思いました。(藤田)<<<TOP
- 平均値を求める際の積分範囲について
だったり、
だったりするのはなぜか。(梶田)<<<TOP
- 化学ポテンシャルの温度変化の説明のグラフがわかりにくかった。(三宅、野村、中村)<<<TOP
- 化学ポテンシャルの意味がいまいち良くわかりません。<<<TOP
- 有限温度におけるフェルミ分布関数の意味がわかりにくい。(長田、野村)
「フェルミエネルギーより上に少し染み出て、下には隙間が空く」とは?<<<TOP
- ゾンマーフェルトの近似式を適用出来る条件として、「エネルギーについて
なめらか」という条件の意味がわかりません。(野村)<<<TOP
- 今(今回、前回の講義で)、使っているのは、大正準分布ですか?
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- 状態密度の式が次元によって異なるのが、直感的にわかりずらい。(長田)<<<TOP
- 磁場がかかったときの図の説明がわかりやすくて良かった。(宮下)<<<TOP
- テストの日は授業が無いので、バイトの日でした。授業日以外の日にテストを
するなら、もっと早くアナウンスするか、授業中に多数決をとってから決めて下さい。
その他、他の授業がある、という意見もありました。<<<TOP
A's
- 原子中の電子は、クーロンエネルギーを無視できるくらいの、非常に大きな
フェルミエネルギーを持っているようですが、そもそも、電子が原子の中に
居るのは、クーロン相互作用によるのですから、矛盾しませんか?
(匿名)<<<TOP
「原子の中に閉じ込められた電子」は、内殻電子と呼ばれ、1sとか2s,
2pなど、
内側の軌道に居ますが、これらはフェルミ統計には従いません。
フェルミ統計に従うのは、原子から離れて、動き回っている自由電子だけです。
- フェルミオンは、近くに存在する他のフェルミオンをどのようにして知って、
パウリ排他律を満たすのでしょうか。何か「場」のようなものを作るのでしょうか?(匿名)<<<TOP
まず、動き回らないで止まっている電子は、他の電子の存在を知りません。
よって、古典統計が適用されます。
量子統計が適用される電子は、物質の全体積中を動き回り、周りのポテンシャルを
肌で感じ取り、フェルミ分布関数で決められた自分のエネルギー準位に落ち着きます。
これに要する時間は有限で、t =V/(plF2uF)
となります。意味は単純で、電子が
動き回る体積(円柱)で、物質の体積を割っただけです。イメージとしては、カエルの
ひも状の卵がからまっているようすと思い浮かべると良いでしょう。
この式に入っているのは、フェルミ波数とフェルミ速度だけですから、クーロンでも
磁場でもありません。「同一粒子の波動関数」が、近くに居るかどうかを感じ取って
いるのです。
参考文献 J. Phys. Soc. Jpn., vol.61, 1992年, p.762-764
なお、その「感じ取る」ということを、何か、相互作用で表せないか、という質問
であれば、教科書によっては、パウリ排他律による擬ポテンシャルを具体的に
求めているものもあります。
参考:グライナー物理テキストシリーズ「熱力学・統計力学」p
296(第11章例11.2)
(出版元 シュプリンガー・フェアラーク東京)
- ヘルムホルツの自由エネルギーの複雑な式が、結局T→0で、F=E
, S =0になることに
感銘を受けた。 (赤坂)
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古典統計では発散してしまいますので、気持ちが悪かったですね。
なお、絶対零度での振る舞いをきちんと記述できる原因は、量子統計を使ったこと
ではなく、量子力学によるエネルギー準位の離散化です。
- ゾンマーフェルトの公式の途中の計算がわからなかった。
二次の留数の求め方がわからなかった。(多数)
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留数定理は、周回定積分=2pi×留数
で、
一次の留数は、
二次の留数は、
と微分が必要です。落ち着いて微分してみて下さい。
なお、留数を使わないで和Σ1/n2を求める方法は、いろいろ
ありますが、最も物理屋にわかりやすいのはフーリエ級数の方法でしょう。
簡単な説明を記しておきます。
-
ゾンマーフェルトの公式の第三項以降はどうなるのか教えて下さい。
覚えるのは二項目までで良いのですか? (富沢)
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レポートにしましょうか。Σ1/n4が計算できれば、後は同じだと思います。
なお、第三項は対称性から消え、第四項(温度の4次)が、次に現れる項です。
通常、二項目までで良いと思います。というのは、普通の金属ではkBT/eF<<1
だからです。第三項目が必要になる温度では、計算の前に、その金属が
溶解してしまう、というわけです。
逆に、半導体など、フェルミエネルギーが極端に低い場合は、ボルツマン近似
(古典近似)で行けてしまいます。
問題集(久保)などには、化学ポテンシャルの温度変化を温度の4次まで計算せよ、
という練習問題が出ています。
- ヘルムホルツの自由エネルギーの温度変化の導出で、
積分状態密度とその積分を、
としたとき、どうして、
となるかわからない。(浅原)<<<TOP
粒子数Nと積分状態密度N(eF)とはあくまで別物であることに注意して下さい。
状態密度をスピン別にした場合は、
です。
- 化学ポテンシャルの温度変化Dmの原因がわかりやすくてよかったです。
kBT/eFは非常に小さいので、Dmもすごく微小になると思いました。(藤田)<<<TOP
その通りです。金属が溶けてしまうような数千度の高温でも、まだ、kBT/eF
は十分小さいのです。
ただ、半導体や、低次元系などでは、フェルミエネルギーが低い場合もある
ので注意はして下さい。(高次の項がいつでも不必要というわけではない)
- 平均値を求める際の積分範囲について
だったり、
だったりするのはなぜか。(梶田)<<<TOP
こういう注意深いフォローは大事だと思います。
結論から言うと、両者は等しいです。
というのは、e <
0では状態密度はゼロだからです。
注)
もう少し詳しく言うと、最低エネルギーを0としているので、e
< 0の状態は
存在しません。しかし、計算上、積分範囲を−∞まで伸ばした方が便利なので、
負の領域では、状態密度=0と決めて、無理やり伸ばしているのです。
- 化学ポテンシャルの温度変化の説明のグラフがわかりにくかった。(三宅、野村、中村)<<<TOP
一度に二つのことを言おうとしたので混乱を招いたようですね。
化学ポテンシャルの温度変化の原因は、
1) フェルミ分布関数の非対称性(eの左右で関数の形が微妙に異なるということ)
2) 状態密度の非対称性
の二つがあります。このうち、1)は、全ての次元で効きますが、2)は、二次元では
効きません。なぜなら、演習でやったように、二次元の状態密度は一定だからです。
よって、三次元系では、1)と2)の両方が効くので、化学ポテンシャルの温度変化
が二次元系に比べてかなり大きいのです。
- 化学ポテンシャルの意味がいまいち良くわかりません。<<<TOP
ただそこに粒子が居るだけで存在するポテンシャル、ですから、古代ローマの
「人頭税」
(ちょっと前に、英国でもこれを課税しようとして暴動が起きましたが)
みたいなものでしょうか、、、。
なお、繰り返しますが、mはあくまで、単なるポテンシャルの一つですから、
重力とか、電場とかもある場合は、それらとの単純和になります。
- 有限温度におけるフェルミ分布関数の意味がわかりにくい。(長田、野村)<<<TOP
「フェルミエネルギーより上に少し染み出て、下には隙間が空く」とは?<<<TOP
有限温度では、一部の粒子は熱エネルギーから、運動エネルギーを貰って、
運動を始めます。するとその粒子のエネルギーは増えることになります(ものす
ごくあたりまえのことですね)から、
分布関数で言うと、今まで居たところを空にして、上の方に移るわけです。
- ゾンマーフェルトの近似式を適用出来る条件として、「エネルギーについて
なめらか」という条件の意味がわかりません。(野村)<<<TOP
関数に、ステップ(段)とか、鋭い山が入って居てはいけないということです。
実際、 g(e)=
粒子数を求めるとき
⇒ D(e)
エネルギーを求めるとき ⇒ eD(e)
ヘルムホルツの自由
エネルギーを求めるとき ⇒ N(e) (積分状態密度)
という具合に、どれも、g(e)はなめらかな関数でした。
- 今(今回、前回の講義で)、使っているのは、大正準分布ですか?<<<TOP
そうです。動き回る粒子を扱う際は、古典統計+ギブスの補正(1/N
! ) か、
量子統計(数表示)+大正準分布 となります。
量子統計を、カノニカル分布や、ミクロカノニカルで計算するのは、原理的に
出来ないことは無いのですが、非常に難しくて、事実上不可能です。
具体的には、フェルミ粒子に対するカノニカルの分配関数は、大分配関数を
逆ラプラス変換することで得られます。
- 状態密度の式が次元によって異なるのが、直感的にわかりずらい。(長田)<<<TOP
積分状態密度N(e)で考えると良いかも知れません。
三次元では球ですから、N(e)
~ k3
二次元では円ですから、N(e)
~ k2
一次元では線ですから、N(e)
~ k1
と言う具合です。
- 磁場がかかったときの図の説明がわかりやすくて良かった。(宮下)<<<TOP
比熱と大体同じイメージですね。ただ、どの電子が寄与するかという問題
では、比熱では、幅〜kBT程度、ですが、磁化では、幅〜mBH程度です。
(余談) ある偉い先生の説明で、パウリ則は、フェルミ面近傍の幅〜kBT程度
に入る電子のみが、キュリー則に従うことによる、という記事をどこかで
読んだのですが、確かに、一定にはなりますが、磁化に寄与しているのは、
あくまで幅〜mBH程度の電子なので、私には納得が行きません。
- テストの日は授業が無いので、バイトの日でした。授業日以外の日にテストを
するなら、もっと早くアナウンスするか、授業中に多数決をとってから決めて下さい。
最近、こういう誤解が多いので、ちょっと「辛口な回答」ですが、理解していただくため
に書いておきます。
1)
大学の講義は、講義時間に出席しているだけで単位が取れるものではありません。
レポートをはじめ、テスト、小テストなど、多くの「束縛」を受けて初めて単位が取れて、
上智大学卒業の称号が得られます。この点、カルチャースクールなどの習い事とは異
なります。
それから、統計力学は学科の必修科目で、量子力学と並んで最も重要な科目の
一つで、卒業に不可欠なものす。物理学科を卒業するのを目標としているのであれば、
他の選択科目と同列に考えるのは大きな間違いです。
2)
各講義は、基本的に、担当教員が責任を持って講義、試験を行い単位を出しています。
内容や進め方に対する「要望」はもちろん、どんどん受け付けますが、講義を受ける側の
多数決で物事が決定されることは絶対にありません。この点、小学校のホームルームとは
異なります。
将来、会社に行ったり、自分で起業したりすることを考えて見て下さい。物事を決定する
のは最終的に責任を取る人であって、「みんな」ではありません。
なお、念のため繰り返しますが、「要望」はどんどん受け付けます。
なお、他の授業等と重なっている場合は、「学科の必修科目」の試験があるという今回の
事情をその授業の先生に申し出て、休ませて貰ってください。私の証明書が必要であれ
ば、お渡しいたします。
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