2001統計力学II Q&A-8 (12/14回収分)
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注)読みやすいように文体を多少改変・統一してあります。
良問(?)には苗字を公開してありますが、困る人は申し出て下さい。
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例:「よくわからなかった」⇒「二重和の取り方で、なぜ束縛条件が外れるのかわからなかった」
Q's
- photon
(=光の粒子)は納得したのですが、格子振動をphonon(=音波の粒子)と
呼ぶのはなぜですか? 格子振動と音と関係あるのですか?(久保、東) <<<TOP
- 光子のような粒子数不定のものを統計力学で扱ってよいのですか?(S野村)<<<TOP
- 溶鉱炉の研究から、プランクの輻射式が導かれたとの話でしたが、具体的に
どのような研究が行われていたのでしょうか?(乙黒)<<<TOP
- ウィーンの偏移則(
T ∝nmax
)と星の色(低温〜赤、高温〜青)の話がわかりにく
かったのでもう少し詳しく教えて欲しい(東)<<<TOP
- ウィーンの偏移則(
T ∝nmax
)を導くときに出てきた超越方程式はどうやって
解いたのか?(三宅)<<<TOP
- 光子の集団のエネルギーを導く際に出てきた「金属箱」は具体的に何の目的
で出てきたのか判らなかった。箱に閉じ込められた自由粒子の話はたびたび
聞くが、今回はなぜ、金属箱なのか?(三宅)<<<TOP
- 光子のモード数が、2S+1=3ではなく、質量ゼロのために自由度が一つ減るのは
なぜですか?(松井)<<<TOP
- 化学ポテンシャルの温度変化を議論したときに、温度が下がると粒子数が
減って困るので、μを増やす、という話でしたが、なぜ、μを一定にしたり
増やしたりできるのですか?(K野村)<<<TOP
- 光子の場合は、μ一定とのことですが、この場合は粒子数が変わっても
OKなのですか?(K野村)<<<TOP
- 光子の場合、μ一定となる理由がわからない。(戸田、大久保)<<<TOP
- フォノンやマグノンなどの粒子もどきが固体の中に居るとみなすというのは、
統計力学的に解析するためだけのものなのですか?(藤波)<<<TOP
- (デュロンプティの法則の説明で、)比熱の大きな物質を作るには磁気比熱か潜熱
を利用するほか手が無い、と言われましたが、磁気比熱を利用すると大きな比熱
の物質が作れるのですか? また、潜熱というと、過冷却を起こすものということ
で良いのですか?(石川)<<<TOP
- デバイモデルのDebyeさんは、X線デバイ写真のデバイと同じ人ですか?(濱崎)<<<TOP
- ツェータ関数(Σn-4)の計算で、複素解析に比べてフーリエ展開の方がわかり
にくかったです(橋本)。<<<TOP
- 高温近似でμを計算したとき、ボソンとフェルミオンがごちゃごちゃに
なってわかりにくかった。他、同類コメントあり(三宅、加藤)<<<TOP
- 今日の板書がみづらかったです(村越)。<<<TOP
- (だいぶ前の)パウリ磁化の計算で、積分を、∫D
(e )
[ f (e↑)-f
(e↓)
] de に
しても、∫[D (e↑
)-D
(e↓
) ] f (e
) de
にしても同じになるとのことでしたが、
符号が逆なのでは?(藤田)<<<TOP
- ボースアインシュタイン凝縮のところで出てきたk-空間ってなんですか?(永山)<<<TOP
- (光子の集団の話で)、平均エネルギー<E>は、どうして粒子数が変わっても
不変なんですか?(中村)<<<TOP
─後藤
注)不変ではありません。講義でも<E>不変とは言ってないと思いますが。
- 有限温度のときのボース粒子の占有数を求めるとき、D(e=0)=0のはずなのに、
凝縮した際にe=0の状態にたくさんの粒子があるのはなぜか?(長田)<<<TOP
- 何で光子のスピンは1なんですか?それでは調和振動子のスピンは?
自由粒子と光子のスピンの違いは?(梅田)<<<TOP
- (光子あるいは格子振動の話で、)λ→0の場合、E→∞となりそうなのですが
ならないのですか?(増岡)<<<TOP
A's
- photon
(=光の粒子)は納得したのですが、格子振動をphonon(=音波の粒子)と
呼ぶのはなぜですか? 格子振動と音と関係あるのですか?(久保、東)<<<TOP
大いに関係があります。固体中を音波が伝わるのは、フォノン(格子振動)のためです。
- 光子のような粒子数不定のものを統計力学で扱ってよいのですか?(S野村)<<<TOP
粒子数が不定で良いので、分配関数Zの和を、あるN
についてではなく、
全てのN
について和をとることになります。すると、m=0のボース分布関数が
現れます。
- 溶鉱炉の研究から、プランクの輻射式が導かれたとの話でしたが、具体的に
どのような研究が行われていたのでしょうか?(乙黒)<<<TOP
製鉄は、当時新興国であったプロシア(今のドイツ)の重要産業なので、
良質の鉄を大量生産するために、炉の温度を精密に制御する必要がありました。
そこで、炉の温度と色の関係が詳しく調べられ、どのような関係があるか、
物理学者が理論的に解明しようとして、当時開発中であった、量子力学と
統計力学の二つを組み合わせると、うまく説明出来ることがわかったのです。
- ウィーンの偏移則(
T ∝nmax
)と星の色(低温〜赤、高温〜青)の話がわかりにく
かったのでもう少し詳しく教えて欲しい(東)<<<TOP
温度=
T ∝nmax=最も多くのエネルギーを与える振動数
ですから、目で見た際には、「大体」その振動数に対応した色、として映ります。
光の振動数は、赤<黄<青の順番に高くなっていきますから、星の温度が
上がれば、色もそのように変わるのです。
ただし、星の放出する光は、一つの色だけでなく、プランクの熱輻射式で表される
ように、広い幅の振動数を持っています。ですから、目に映る色も、nmaxだけでは
なく、広い幅のnに対応したいくつかの色の平均となります。高温の星が、青色
でなく、青白であるのは、この平均の効果で、白っぽくなっているのです。
- ウィーンの偏移則(
T ∝nmax
)を導くときに出てきた超越方程式はどうやって
解いたのか?(三宅)<<<TOP
ウィーンの偏移則は、
より、
という超越方程式を解けば、
と、求められます。
この式は、解析的には解けません。数値的な近似計算を行って解きます。
近似計算は、ニュートン法や、二分法など、高校数学のレベルの話なので
自分で出来るはず。
なお、一番、確実に手っ取り早く解を求めるには、左辺=y
のグラフと 右辺=y の
グラフを重ねて書いて、その交点を求めればよいと思います。
- 光子の集団のエネルギーを導く際に出てきた「金属箱」は具体的に何の目的
で出てきたのか判らなかった。箱に閉じ込められた自由粒子の話はたびたび
聞くが、今回はなぜ、金属箱なのか?(三宅)<<<TOP
光を金属箱に閉じ込めると、ちょうど、導波管内の電磁波のように定在波が
立つので扱いやすい(=計算しやすい)のです。
ただの箱ではなく、金属箱、としたのは、長い波長の電磁波は、金属の箱で
無いと、外へ漏れて出て行ってしまうからです。
ですから、自由粒子の場合でも、粒子が外へ漏れないような箱であれば、
何でもOKです。
- 光子のモード数が、2S+1=3ではなく、質量ゼロのために自由度が一つ減るのは
なぜですか?(松井)<<<TOP
質量ゼロで縦波が無くて、というのが古典的な説明ですが、量子力学的に
説明しようとすると、相対論を含んだ量子力学が必要です。
詳しくは、多くの量子力学の教科書(メシア、猪木などの量子力学)の下巻
の最後の方の「電磁場の量子化」という章や、ランダウの相対論的
量子力学の上巻を見て下さい。
- 化学ポテンシャルの温度変化を議論したときに、温度が下がると粒子数が
減って困るので、μを増やす、という話でしたが、なぜ、μを一定にしたり
増やしたりできるのですか?(K野村)<<<TOP
箱に閉じ込められた自由粒子の場合の化学ポテンシャルは、外から人為的に
決められるものではなく、粒子の詰め込み具合で自動的に決まってしまう
ものなのです。
フェルミオンの場合は、詰め込むと、パウリ排他律で同じ状態に入れないので、
μはどんどん大きくなります。
- 光子の場合は、μ一定とのことですが、この場合は粒子数が変わっても
OKなのですか?(K野村)<<<TOP
まず、光子の場合、μ一定ではなく、μ=ゼロです。
光子は、物体から放出されたり、物体に吸収されたりして数は不定なのです。
- 光子の場合、μ一定となる理由がわからない。(戸田、大久保)<<<TOP
粒子数が不定なので、分配関数Zの和を、あるN
についてではなく、
全てのN
について和をとることになります。すると、m=0のボース分布関数が
現れます。
- フォノンやマグノンなどの粒子もどきが固体の中に居るとみなすというのは、
統計力学的に解析するためだけのものなのですか?(藤波)<<<TOP
その通りです。
- (デュロンプティの法則の説明で、)比熱の大きな物質を作るには磁気比熱か潜熱
を利用するほか手が無い、と言われましたが、磁気比熱を利用すると大きな比熱
の物質が作れるのですか? また、潜熱というと、過冷却を起こすものということ
で良いのですか?(石川)<<<TOP
その通りです。最近の冷凍機の中には、蓄冷材として、大きな磁気モーメント
を持った希土類元素を用いたものがあります。
また、潜熱と過冷却は、一次相転移に固有なもので、ランダウの現象論によれば、
自由エネルギーが秩序パラメタ変数(水の場合は、例えば、原子の配列乱雑さ、
液体でゼロ、氷で1とする)の6次関数になっているとして説明されます。
詳しくは、来年度の固体物理IIで。
- デバイモデルのDebyeさんは、デバイ写真のデバイと同じ人ですか?(濱崎)<<<TOP
同じ人です。P. J. W. Debye
電磁波の回折、固体の比熱、X線回折(デバイシェーラー法)、X線散乱理論、
などで、1936年にノーベル化学賞を受賞しています。
- ツェータ関数(Σn-4)の計算で、複素解析に比べてフーリエ展開の方がわかり
にくかったです(橋本)。<<<TOP
フーリエ展開の方は、「たまたま」うまい関数(x2-π2)2を持ってきたら、Σn-4が
出てきたので、判りにくかったかもしれません。どちらの方法でもOKですが、
フーリエ変換(フーリエ級数)、留数定理(詳しい証明なんかは不要)
の二つは理論でも実験でも、とても大事で、将来もよく使うと思います。
- 高温近似でμを計算したとき、ボソンとフェルミオンがごちゃごちゃに
なってわかりにくかった。他、同類コメントあり(三宅、加藤)<<<TOP
先週、自分で説明していてわかりにくいだろうと感じましたので、今日再度、
D(e)=A√e
として説明しました。いかがでしたでしょうか?
- 今日の板書がみづらかったです(村越)。<<<TOP
すみません。今日だけ特別なのでしょうか、いつもでしょうか。
それから、内容的(書く順番とか、式変形の省略度)なものなのか、
字がきれいでないことによるものなのか、すみませんが、もう少し詳しく指摘
してくれると大変嬉しいです。
- (だいぶ前の)パウリ磁化の計算で、積分を、∫D
(e )
[ f (e↑)-f
(e↓)
] de に
しても、∫[D (e↑
)-D
(e↓
) ] f (e
) de
にしても同じになるとのことでしたが、
符号が逆なのでは?(藤田)<<<TOP
今、式を見返しています。
- ボースアインシュタイン凝縮のところで出てきたk-空間ってなんですか?(永山)<<<TOP
粒子の運動量分布をヒストグラムにしたものをk-空間と言います。
ちなみに、粒子がどこに居るのか、居場所の空間分布を、実空間と言います。
- (光子の集団の話で)、平均エネルギー<E>は、どうして粒子数が変わっても
不変なんですか?(中村)<<<TOP
不変ではありません。講義でも<E>不変とは言っていません。
実際、温度が上がって、平均エネルギーが増えて行くと、粒子数は増えて行きます。
これは、高温に熱せられた物質が明るく光る(光子が沢山居る)ことを意味して
います。
- 有限温度のときのボース粒子の占有数を求めるとき、D(e=0)=0のはずなのに、
凝縮した際にe=0の状態にたくさんの粒子があるのはなぜか?(長田)<<<TOP
レポート3を参照してください。ミクロに見ると、D(e=0)=0ではないのです。
- 何で光子のスピンは1なんですか?それでは調和振動子のスピンは?
自由粒子と光子のスピンの違いは?(梅田)<<<TOP
まず、光子は、ボソンですから、全角運動量は整数値で、ゼロだと、波動関数は
球対称になってしまい、横波になりえません(ランダウ、第一章P22)。
詳しくは相対論的量子力学で説明されます。
調和振動子や自由粒子のスピンに関しては、どの粒子を調和振動子として
みなしているか、によって決まっています。ご承知だと思いますが、
「調和振動子」という素粒子があるわけではありません。電子を調和振動子
として扱えば、スピン1/2ですし、ヘリウム4原子であれば、スピンゼロという
わけです。
- (光子あるいは格子振動の話で、)λ→0の場合、E→∞となりそうなのですが
ならないのですか?(増岡)<<<TOP
もう少し詳しく書いてくれないと、どういう質問かわからないのですが、少なくとも、
光子の場合は、E→∞になります。しかし、格子振動の場合は波長をどんどん短く
して行って、λ=2aまで来ると、λ=0と同じ、すなわち、E=0に逆戻りしてしまいます。
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