共同研究趣旨

photo by Miki Takahashi

 この研究は、現代の人間社会を支える教育、医療、福祉などの「ケア」の現場における様々な問題に対して、哲学的な知がどのようにこたえうるのか、その可能性を理論的基盤と実践的方法の両面から探究する試みであり、上智大学における2011年度の学内共同研究として活動を始めました。

 哲学、倫理学の世界では「ケアの倫理」への注目が高まりをみせていますが、それらはいまだ現場の抱える困難を「後追い」的に分析、評価することにとどまり、その進んでゆくべき方向性を示すことはできていないように思われます。また、現場での実践においても、日々の業務の忙しさのなかで、ケアすることの意味や目的がたんなる「建前」「飾り文句」になってしまっている場合が少なくありません。重要なのは、哲学の世界と現場の実践が「それぞれの理屈をこねる」ことではなく、両者を「つなぐ」ための「言葉と場所」を作り出す努力ではないでしょうか。

 さしあたって私たちはそれを「<ケア>の臨床哲学」という名前で呼ぶことにしました。「臨床哲学」は従来の哲学のような、概念分析と理論構築による本質の探究とは違い、私たちの生の「現場」に立って耳を傾け、対話を重ねながら、知の枠組みを刷新し、それを世界へと還流させようとする、哲学の姿勢のことです。この方法論は、ケアの理論と現場の橋渡しにふさわしいものだといえますが、同時にわたしたちの念頭にあったのは、「臨床哲学」という方法の「根」であるものこそ、「ケア」なのではないか、という「見立て」です。

 臨床哲学的方法を「ケア」に結びつけてゆくことと同時に、ケアを論じることから「臨床哲学」という、これからの可能性に満ちた方法論を「受け取り直す」試みを、ここ東京からはじめたい、と考えています。