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おさかな周期表

おさかな周期表
図1:おさかな周期表。

概要

魚類は脊椎動物の半数以上を占める多様なグループで、その系統関係は複雑です。そこで多くの人にとってなじみのある元素周期表に魚類の分類・系統を当てはめ、魚類の系統関係と多様性に少しでも親しんでもらえるように「おさかな周期表」を考案しました。全体像から魚類の系統関係と多様性が概観できるように、元素周期表の族(縦の並び)を魚類の分類群、周期(横の並び)を魚類の系統とみなし、それぞれの数が大きくなるに従って分岐年代が新しくなるように配置しています。つまり、大まかに左上が分岐の古い魚類、右下が分岐の新しい魚類です。各分類群の中から魚種の名前と関連する元素をあてています。「おさかな周期表」での魚類の分類群の扱いは、主としてNelson et al. (2016)に基づいています。系統枠は、Miya and Nishida(2014)による近年の分子系統学的研究によって明らかにされた最新の知見に沿うようにしてあります。

どのように魚類の系統を元素周期表の族に当てはめたのか?

おさかな周期表
図2:魚類の系統関係。

1族(軟骨魚類Chondrichthyes・肉鰭類Sarcopterygii・下位条鰭類Basal Actinopterygii)

顎口類Gnathostomataは進化過程で、サメやエイなどの骨格が軟骨でできている軟骨魚類と、メダカやサケなどの骨格が硬骨でできている硬骨魚類に分かれました。軟骨魚類が千種ほどなのに対して、硬骨魚類は3万3千種ほどが知られており、私たちが目にする魚の多くは硬骨魚類です。硬骨魚類はさらに肉鰭類Sarcopterygiiと条鰭類Actinopterygiiに分かれます。肉鰭類はわずかに8種が知られているのみで*1、条鰭類が硬骨魚類の大半を占めています。1族には下位条鰭類Basal Actinopterygiiまでをあて、残る条鰭類は2族以降にあてた。1族内の並びは、上から大まかに分岐の古い順に、軟骨魚類Chondrichthyes(第1周期:エイ)、肉鰭類Sarcopterygii(第2周期:シーラカンス、第3周期:ハイギョ)、下位条鰭類Basal Actinopterygii(第4周期以降:軟質類Chondrosteiチョウザメ、分岐鰭類Cladistiaポリプテルス、全骨類Holosteiアミア・ガー)をあてはめています。
*1ただし、この系統から約3万種を擁する四肢類(両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)が生じています。

2族(下位真骨類Basal Teleostei)

1族で紹介した下位条鰭類は、古代魚とも呼ばれ、条鰭類の中で分岐の古い魚類です。条鰭類の進化過程で古代魚の後に生じたグループが真骨類Teleosteiです。真骨類は約3万2千種が知られ、硬骨魚類の大半を占める大きなグループです。2族には真骨類の中で分岐の古い下位真骨類(アロワナ類Osteoglossomorphaとカライワシ類Elopomorpha)をあてはめています。上から分岐が古い順に、アロワナ目(第2周期)、イセゴイ目(第3周期)、ウナギ目・フウセンウナギ目(第4周期以降)です。

3族以降(ニシン・骨鰾類Otocephalaと正真骨類Euteleostei)

真骨類は、2族で紹介したアロワナ類とカライワシ類が分岐した後、ニシン・骨鰾類Otocephala(約1万1千種)と正真骨類Euteleostei(約2万種)に2分されます。このパターンは、元素周期表で欄外にランタノイドとアクチノイド(「おさかな周期表」では骨鰾類Ostariophysiの部分)が配置されている形とそっくりです。そこで、3族をニシン・骨鰾類、4族〜18族を正真骨類とすることで、周期表の全体の形から魚類の系統関係を概観できるようにしました。

ニシン・骨鰾類Otocephala

ニシン・骨鰾類は、ニシン類Clupeomorphaと骨鰾類Ostariophysiとに分岐しています。特に後者は、コイやナマズなどニシン・骨鰾類の95%を占める主要なグループです。

正真骨類Euteleostei

正真骨類は、魚類の中でも最も多様な分類群です。正真骨類の中で原始的なサケ・カワカマス目Salmoniformes・Esociformes(6、7族)が分岐した後、キュウリウオ目Osmeriformes(8族)、ワニトカゲギス目Stomiiformes(9族)が続きます。これらの分類群を「おさかな周期表」では下位正真骨類Basal Euteleosteiとしています。その後、新真骨類Neoteleosteiが生じ、ヒメ目Aulopiformes(11族6周期)、ハダカイワシ目Myctophiformes(10族6、7周期)、アカマンボウ目Lampriformes(5族)の順に分岐します。これらの分類群を下位新真骨類Basal Neoteleosteiとしています。その後、棘型類Acanthomorpha(4、10〜18族)が生じました。棘型類は正真骨類の93%を占める最大のグループです。

なお、クジラウオ目Stephanoberyciformes(4族)に関しては、形態学的には別の科と考えられてきたクジラウオ科(アカクジラウオ:104番元素Rf)とトクビレイワシ科(リボンイワシ:22番元素Ti、トクビレイワシ:72番元素Hf)、およびソコクジラウオ科が、それぞれ同じグループ(クジラウオ科)のメス、幼魚、オスであること、すなわち、「全部親子である(40番元素Zr)」ことが報告されています(Johnson et al., 2009)。

魚類の多様性

分類名 記載種数と比率 「おさかな周期表」内の種数と比率
軟骨魚類・肉鰭類・下位条鰭類 1252種 3.8% 7種 6.4%
下位真骨魚類 1232種 3.7% 6種 5.4%
ニシン・骨鰾類 11029種 33.0% 32種 29.1%
正真骨魚類 19861種 59.5% 65種 59.1%

上述した顎口類の4つのグループに属する記載種数の相対比率と「おさかな周期表」に登場する種数の相対比率はおおよそ一致しており、魚類の多様性についても「おさかな周期表」の構成から大まかに把握できるようになっています。

引用

  1. 川口眞理・西田睦 「おさかな周期表〜魚類の多様な系統と分類の理解をめざして〜」 第101回日本生物教育学会、東京、2017年1月
  2. Nelson JS, Grande, TC, Wilson MVH. 2016. Fishes of the World, 5th Edition. John Wiley & Sons, Inc.
  3. Johnson GD, Paxton JR, Sutton TT, Satoh TP, Sado T, Nishida M, Miya M. 2009. Deep-sea mystery solved: astonishing larval transformations and extreme sexual dimorphism unite three fish families. Biol Lett., 5: 235-239.
  4. Miya M, Nishida M. 2014. The mitogenomic contributions to molecular phylogenetics and evolution of fishes: a 15-year retrospect. Ichthyol Res, 62: 29-71.