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タツノオトシゴの育児嚢の形成メカニズム

タツノオトシゴの育児嚢

タツノオトシゴはオスが子育てするための袋をもっています。この袋のことを育児嚢といいます。オスはメスから卵を受け取ると、育児嚢の中で卵を守り、その後出産します。メスは体全体が硬い鱗板で覆われているのに対し、オスは一部鱗板で覆われていないやわらかい部分があり、この部分が育児嚢です(図1)。

育児嚢の形成過程
図1:タツノオトシゴのオスとメス。

タツノオトシゴの成長過程を通した育児嚢の観察

このような育児嚢は成熟したオスには見られますが、未成熟なオスには見られません(図2A)。出生後1ヶ月程度からタツノオトシゴの成長過程を通して腹側尾部を観察すると、育児嚢が以下のように形成されることがわかりました。まず、尻びれの腹側尾部に真皮が2本の隆起線を形成することで育児嚢の原基が生じます(図2B)。真皮層は正中線に向かってさらに隆起し、やがて正中線で尾側から頭側に向かって融合していき(図2C,D,F)、開口部を残して袋状の育児嚢が形成されます(図2E,G)。その後、成長と共に育児嚢が膨らんでいきます(図2H)。

育児嚢の形成過程
図2:育児嚢の成長過程。(A)育児嚢形成前の正面写真、(B)育児嚢の原基の正面写真、(C)真皮が隆起途中の正面写真、(D)真皮の隆起線が正中線付近まできたところの正面写真、(E)袋状になったばかり、(F)真皮が隆起途中を横から見た図、(G)袋状になったばかりの頃を横から見た図、(H)成熟した育児嚢を横から見た図。白い矢じりは隆起している真皮の先端部分。Kawaguchi et al. 2017より改変。

育児嚢の組織観察

次に、育児嚢を構成する組織の形成過程を調べるために、様々な発達段階の育児嚢の組織観察を行いました(図3)。その結果、形成初期の育児嚢は1層の真皮層のみからなる構造をしていました。その後、真皮層が2層(緻密層と海綿層)に分かれ、真皮層に平滑筋が観察されるようになります。また、育児嚢の内腔をおおうように胎盤様構造と呼ばれる組織が徐々に形成されていきました。

組織観察
図3:育児嚢の組織観察。Kawaguchi et al. 2017より改変。

育児嚢の形成過程

上述した観察結果を得て、育児嚢の形成過程を主に3つのステージに分けました(図4)。(1)形成初期:育児嚢の原基形成から袋状の育児嚢が形成されるまでで、この時期の育児嚢は1層の真皮層のみからなっています。(2)形成中期:育児嚢を構成する組織が分化する時期で、胎盤様構造の形成が背側頭部から始まり、真皮層が2層に分かれる時期です。2層の真皮層の間には平滑筋が形成され始め、その後、胎盤様構造は育児嚢の腹側尾部まで覆うようになり、育児嚢の内腔全体が胎盤様構造で覆われた形態になります。(3)形成後期:卵を保育することができる成熟した育児嚢となる時期です。胎盤様構造がひだ状になり、より発達して血管が多数観察されます。メスから卵を受け取ると、卵は胎盤様構造で包み込まれます。卵の周辺には血管が発達し、老廃物の除去などを行っていると考えられています(Laksanawimol et al., 2006)。今後は、遺伝子レベルで育児嚢の形成メカニズムを明らかにしたいと考えています。

育児嚢の形成過程
図4:育児嚢の形成過程の概略図。Kawaguchi et al. 2017より改変。

掲載論文

Mari Kawaguchi, Ryohei Okubo, Akari Harada, Kazuki Miyasaka, Kensuke Takada, Junya Hiroi, and Shigeki Yasumasu (2017) Morphology of brood pouch formation in the pot-bellied seahorse Hippocampus abdominalis. Zoological Letters, 3: 19.
DOI: 10.1186/s40851-017-0080-9