オーストラリア・NZのマス・メディアの概観 

ーストラリア   1998/99   
ニュージーランド 1998/99
オーストラリア   1999/2000
ニュージーランド 1999/2000

オーストラリア・ニュージーランド2000/2001


オーストラリア   1998/99>   

 オーストラリアのメディア市場は1986/87年にルパート・マードックが巻き起こしたヘラルド・アンド・ウィークリー・タイムズ・グループ買収に始まった再編成が落ち着いた1990年代半ばまでに、現在の勢力図が整えられた。

  『ジ・オーストラリアン』(131,000部、土曜日版は319,000部)を旗艦とするマードック(News Corporation Ltd.)は全国・大都市日刊紙市場の12紙(242万部)中7紙・67.6%、日曜紙市場(10紙、348万部)では7紙・75.6%を占め、37地方日刊紙(56万部)では5紙・2割とやや少ないものの、フリーペーパーが多い郊外紙サバーバン・ペーパー(138紙・646万部)になると紙数、部数ともに5割近くを傘下におさめている。他方、News Interactiveでは傘下各紙からのニュース、分野別広告が一覧できるようにして、着々とデジタル社会への対応を進めている。しかし、前年比14%増のニューズ・コープの1998年度の売上高189億豪ドルのうち、オーストラレイシアからの収入は10%に満たず、7割以上がアメリカからである。

 新聞市場はマードックに譲るものの、常に長者番付1位のケリー・パッカー(PBL, Publishing & Broadcasting Ltd.)は三大ネットワークのキー局のひとつで最も人気の高いチャンネル・ナインを筆頭に、雑誌部門で上位30誌のうち12誌、発行部数で4割をもつ大メディア・オーナーである。書籍出版部門の売上高上位20位のうち、純粋なオーストラリア系出版社はわずか2社しかないように、また後述するように総じてメディアの外国籍支配が目立つオーストラリアのなかでは人気が高い。パッカーはタイム・ワーナーやマイクロソフトとの提携を狙ったり、PBL Onlineなどに積極的だが、有料TVのフォックステルでは両者が組んだりと、この二人の競争が熾烈であればある程、オーストラリアのメディア界が動く。

 マードック、パッカーに続くのは、『シドニー・モーニング・ヘラルド』(233,500部)、メルボルンの高級紙『ジ・エイジ』(196,000部)などを発行するフェアファックス社(John Fairfax Holdings Ltd.)。既にフェアファックス家から離れ、英『テレグラフ』紙などをもつC.ブラックを経て、いまはニュージーランドの投資家R.ブライエリーの所有下にある(彼は取締役など一切表には出ていないが、彼の持ち株会社Brierley Investments Ltd.が24% をもつ最大株主である)。同社は、全国・大都市日刊紙3紙・21%、日曜紙2紙・23%、地方日刊紙3紙・15%、郊外紙21紙14%のシェアをもつ。

 また、地方日刊紙のうち11紙・30%、郊外紙で15%の発行部数をもつオーストラリア地方新聞社(Australian Provincial Newspapers holdings Ltd.)はアイルランド、英国などで新聞を所有するT.オライリー家が事実上のオーナーであることも見逃せない。APNはまた市場第2位のラジオネットワークをもつ。

 このメディア市場の寡占化を眺めてみると、いくつかの特徴がある。
 第一にマードック台風の余波で1990年初めまでのわずか数年の間に大都市の夕刊紙、旧来の日曜紙が次から次へと消え、その数は10紙以上にのぼった。その結果、全国紙を除けば、競争する朝刊紙をもつ都市がシドニーとメルボルン以外消滅し、大都市の夕刊紙も一掃されてしまった。

 第二に日曜紙の創刊、土曜日版の充実―例えば、全国経済紙『オーストラリア・フィナンシャル・レビュー』(フェアファックス社、91,000部)は97年9月から土曜日版『ウィークエンド・フィナンシャル・レビュー』を出している―など、新たな読者市場の拡大が生じた。総発行部数で見ると、平日の全国・日刊紙市場240万部に対し、土曜日のそれは319万部と1.3倍、また日曜はその1.1倍ある。

 第三に古参のフェアファックス社は既に発行元に名前だけが残るのみとなったが、末裔のひとりJ.B.フェアファックスがもつルーラル・プレス社は昨年、首都の『キャンベラ・タイムズ』(41,000部)を買収獲得し、地方日刊紙(7紙・14.9%)をもつほか、多彩な雑誌発行者として再出発を図っている。

 第四に「放送法」や「クロス・メディア法」により新聞、テレビなどの兼営所有が制限されてはいるものの、ニュープレイヤーの進出は一部にとどまり、結局オールドプレイヤーの肥大化が目立ち、いずれも息子らへのバトンタッチを進めている。

 人口の約8割近くがブーメランコーストと呼ばれる大陸東海岸と州都ならびにその近辺に居住するという偏在性はそのまま新聞読者および発行者の偏在を生んできた。とくに地方日刊紙の発行部数をみると、ニューサウスウェールズ州ではフェアファック社とオライリーが強く、マードックはビクトリア州、クインズランド州ではマードックとオライリーが二分しているといった具合だ。郊外紙を見ても、シドニーはフェアファックスとマードックで8割、メルボルン、ブリスベンそしてアデレードではマードックが圧倒的なシェアを誇る。しかし、大都市日刊紙は1970年代の400万台をピークに、また地方日刊紙も80年代の60万台から読者を減らしている。

 このほか、移民社会を示すように、エスニック・プレス(約80紙、114万部)や多言語放送のSBSがあるが、近年ではギリシア語、アラビア語、イタリア語紙以上に中国語紙が紙数、部数とも増加していることが目立つ。

 APC(1997/98年)への苦情申立件数は9%増の434件。内容は不正確な報道、見出しの誤り・ミスリーディング、不公平な取り扱いが多く、苦情先は相変わらず大都市紙が半数を占めた。これに対しテレビ番組への苦情をみると(1998年10-12月期)、前年比2%減の165件、偏見/不正確、分類、差別の上位3項目で5割を超える。ラジオについては248件(1998年10−12月期)のうち、引き続き「トークバック・討論」番組への苦情が半分近くあった。


<ニュージーランド 1998/99>

 第二次大戦後進んだ新聞の買収合併、所有主の集中化の結果、ニュージーランドの新聞界は従来の一族所有、共同経営から、3つのグループ―ニュージーランド・ニューズ社、マードックが1960年代に傘下に収めたインディペンデント・ニューズ社(INL)、そして古豪のウイルソン・アンド・ホートン社―に集まり、1980年代半ばまでに日刊紙の総発行部数の4分の3を占めるに至った。90年代以降は後の2社の寡占状態にある。

 INLは10社以上の傘下をもつニュージーランド最大の新聞グループ。首都ウェリントンで『ドミニオン』(1907年創刊、6.8万部)、『イブニング・スター』(1865年創刊、6万部)が朝夕刊を独占するほか8日刊紙、2日曜紙、フリープレス、雑誌を発行する。オーストラリアのマードック系地方日刊紙3紙ももち、彼のアメリカ進出に呼応してテキサス、東海岸でフリープレスも発行していたが、1998年撤退している。
 
 もう一方の雄ウィルソン&ホートン社は、古参紙のひとつで同国最大の25万部を誇る『ニュージーランド・ヘラルド』(1863年創刊、オークランド)を発行する。1995年からアイルランドのインディペンデント社(上述のオライリー)が経営に入り、ウィルソン家アイルランドのインディペンデント社(上述のオライリー)が経営に入り、ウィルソン家は残っているものの、1998年事実上彼の100%所有となった。

 NPA(ニュージランド新聞発行者協会)によれば、10歳以上のニュージーランド人170万が日々新聞を読み、1週では18歳以上の100万人、凡そ男女半数比で新聞が読まれている。協会加盟社では約5,000人が雇用され、その半数は地方新聞である。新聞配達に従事しているのは約9,400人、うち4,400人が専従、残りが非常勤雇用である。日刊紙の総発行部数は85万部だが、日曜紙まで入れると週530万部の新聞が発行されている。新聞広告費には1996年度4億2,600万NZドルが消費され、これは前年比4%増であり、日刊・日曜紙が同国で最大の広告媒体であることを物語っている。


<オーストラリア 1999/2000>
 1999年下半期(7‐12月)のABC調査によれば、全国紙2紙を含む大都市日刊紙(12紙)の総発行部数は230万部強、同土曜日版は310万部、大都市日曜紙11紙は325万部で、全体としての減少傾向は続いている。

 全国・大都市紙のうち増加したのはフェアファックス傘下の全国紙『オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー』(AFR、平日9.2万部、土曜8.5万部)、メルボルンの『ジ・エイジ』(平日19.1万部、土曜32.4万部)そしてホバートの『マーキュリー』(マードック系、平日4.9万部、土曜6.4万部)の3紙のみ。

 経済専門紙AFRの読者について言えば、月−金の平日版がほぼ勤務先で読まれるのに対し、週末土曜日版『ウィークエンド・フィナンシャル・レビュー』は宅配あるいは立ち売りからの購入と、はっきりしている。とくに『ウィークエンド・マガジン』『オーストラリアン・マガジン』に代表される週末版に差し込まれるグラビア雑誌類は、一般に週単位のテレビ・ラジオ番組表のほか特集や生活情報誌として定着しているが、毎月最終金曜日い発行される『AFRマガジン』がAFRの成功を助けている。さらに雇用の上昇や住宅需要など、土曜日版ならではの読者層も増えているのも事実だ。
 
 この付録誌とも言える冊子は、日曜紙が部数減のなかで、読者数は増えているという現象にある。ある調査によれば、平日の場合、およそ7割が自宅で新聞を読むが、週末になると9割に上がる、また平日紙は1.8回読まれるが、週末紙では2.1回に増えるという結果からも裏付けられるだろう。ちなみに、日本と異なり、都市部の電車、バス内での新聞閲覧率は低い。

 もうひとつ週末に発行される日曜紙は70万部を誇るシドニーの『サンデー・テレグラフ』をはじめ大部数紙がひしめくが、いずれも州都単位の発行で、メルボルン、ホバートを除けば競合紙をもたない。一時は新しい日曜紙市場を開拓したと言われた『サンデー・エイジ』(19.4万部)も半期に1%程度の減少を続け、最盛期の3分の2ほどに落ち込んだ。

 オーストラリアのメディアは相変わらず、ルパート・マードック、ケリー・パッカーら主要メディア・オーナーらが市場を操り、近年のIT(情報技術)革命を背に、新聞、放送、通信の融合化が進んでいる。目前に控えたオリンピックのせいだろうか、1980年代には見られなかったような人々の活況が感じられる。その一つがやはり情報、ハイテク部門の株価の高騰にあったことは明らかだ。マードックが統括するニューズコープはことし3月はじめ、1株あたり26jに達して昨年9月の倍額となり、一族の資産が何とオーストラリアのGNPの4%にあたるほどになったこともある。
 
 そのマードックがアジアのリチャード・リー(スターTV創設者李嘉誠の息子)と急接近しつつ、タイム・ワーナーとAOLの合併などを横目にみながら、英国のボーダフォン・エアタッチあるいはフランスのビヴェンディと提携、でなければヤフーか、と注目を浴びる。マードックはタイム・ワーナーとAOLとの合併に、インターネット会社を探しているか、というような質問に「とんでもない」と答えてはいるものの、彼のしたさを読み違えてはいけない。マードックには一女二男=エリザベス、ジェームズ、ラックラン=がおり、誰が彼の後を継ぐか。

 広告市場規模では世界の10位前後に位置するオーストラリアでは、新聞媒体に約4割強、テレビが3割強であるが、雑誌を合わせての活字媒体依存率は5割を超える他方、インターネット、パソコンの普及率は5割近くあり、日本の倍、広告市場でオーストラリアよりはるかに規模の大きいフランスやイタリアを勝っている点、将来この分野の成長が見込こまれるであろう。昨年シドニーにオープンしたフォックス・スタジオに対抗して、傘下にパラマウント映画を所有する米・ヴァイアコムがメルボルンにテーマパーク開園をもくろんでいるように、オーストラリアを舞台にして巨大メディアがしのぎを削ることもあるかも知れない。

 1999年6月調査によれば、インターネット接続率は46%に成長し、1週間に一度はアクセスする人も前年の27%から58%に上昇している。大都市ばかりでなく地方紙も広告媒体として、またニュースオンラインでの編集、発行に力を注ぎ始めた。オンラインでの新聞接触は9%、定期性をもつ読者が29%もおり、インターネットでの商品購入は7%の人々が経験している。

 そのほか、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の老舗OzEmailが新興のEisaに買収され、オーストラリアのISPも、テルストラ、ビッグポンドの強大化(強者)対新興勢力(弱者)が生き残りをかけて熾烈な争いを繰り広げる戦国時代に突入した。マードック、パッカーの「ワン・テル」も侮れない。さらにイギリスのグラナダ・テレビジョンがK・ストークスがもつチャンネル・セブンの10.8%株(1億4,100万j)を買収し、オーストラリアのメディア市場は外国資本の進出にメディア規制を強化するか、再び議論されている。

 新聞産業界は連邦、州政府との任意協定により、古紙再生促進を行っており、1990年に32.5%だった再生率は1999年には69%までに上がった。また新聞界では以前からNIEのために様々な方策がとられてきたが、一例を紹介する。フェアファックス・グループでは傘下の新聞を、週20‐40部、10週間学校で希望すれば半額で配布しえている。コーディネーターには向こう1年にわたって新聞を進呈するなどの援助も惜しまない。

 大都市で平日80kから1j、週末紙1.2ドルから1.7ドルで販売される新聞の購読に1日3,200万jが費やされ、大都市と地方都市での新聞購入比は8.6対1.4で圧倒的に大都市が高い。日刊紙の読者数は9,800万人で、国民の65%(男69%、女61%)、土曜紙は60%(男62%、女58%)そして日曜紙は54%(男54%、女53%)である。14歳以上では、職業別では専門職、経営者らの93%から半熟練職などの83%まで、社会層でも93%から77%までと接触率は異なるものの、幅広く社会に受け入れられている
媒体である。例えば急速に進展している有料TVは18%の人々がいるが、48%が欲しいとは思わないとの調査結果もある。大都市紙は1部あたり2.9人に読まれ、地方紙ではそれが2.4人と下がる。購入者以外の閲読数をみると、平日紙は大都市で3.04人、地方で2.66人だが、週末紙では、2.86人対3.45人と逆転する。

 多文化社会を反映するエスニック・メディアのなかで2000年1月現在、1万部以上を発行する非英語紙は約70紙ある。
 ところで、昨年ラジオのトーク番組のコメンテーターが放送のなかで特定の企業や団体に対して便宜を図る発言をして、引き換えに金銭を受領していたという事件が「キャッシュ・フォア・コメント」としてセンセーションを巻き起こした。シドニーでもっとも人気のあるラジオ局2UEのお抱えキャスターのジョン・ローズとアラン・ジョーンズがオーストラリア銀行協会などと、銀行擁護を「コメントでアピールする」という取引があったことを、ABCテレビの「メディア・ウォッチ」がすっぱ抜いたことから、彼らが多くの企業と同種の「契約」を結んでいたことが発覚した。毎朝6時から9時までをジョーンズが、引き続き12時までローズが担当して、高い聴取率を上げている番組である。

 メディアの監督機関ABAは事態を重視し、調査委員会を設置したが、その長D.フリント(前プレス・カウンシル議長)が当該番組に出ていたことで、職を辞するなどといった混乱もおこり、今年2月になりようやく数百頁もの分厚い調査結果が提出された。それによると、2人は巨額の報酬の見返りに、放送中企業や業界団体の主張を有利に導く形でコメントを流し、少なくとも5件の放送業法違反と90件の放送番組倫理規定違反があったという。2UEのライセンスについては向こう3年間にわたり、企業・業界団体との主要取引の詳細な公表が義務付けられた。


<ニュージーランド 1999/2000>

 ニュージーランドは新聞所有の制限や、マルチプルオーナー規制などとくになく、世界でも最も自由な国であることを誇る。
 同国最大の都市オークランド(39万人)で発行される『ニュージーランド・ヘラルド』(ウィルソン&ホートン社=以下W&H社、213,334部)が最大発行部数紙である。30紙近くある日刊紙のうちは2‐10万部台が9紙、そのほかは4千-2万部と少ない。 

 首都圏の朝刊紙『ドミニオン』(68,743部)、夕刊紙『イブニング・ポスト』(59,055部)はともにウェリントン新聞社の発行で、同社はマードック系のインディペンデント・ニューズ社(INL)が所有する。オークランドに続く大都市クライストチャーチ(32万人)で発行される唯一の日刊紙『ザ・プレス』(92,992)もINLの傘下にある。

 地方日刊紙もほぼ上述の2グループが9割を所有している。W&H社は99年5月北島の既存2紙を合併して『ホークスベイ・トゥディ』(31,574)が夕刊紙として創刊した。代表的な日曜紙『サンデー・スター・タイムズ』(207,375)、『サンデー・ニューズ』(115,054)はともにINLの発行で、オークランドを中心に全国的に配布されている。そのほか、100紙以上のコミュニティー・ペーパーの総発行部数はおよそ230万部、多くはフリーシートである。大都市日刊紙の総発行部数は80万部台から70万部台に減少しているものの、無代紙のほうは6年前の170万部から増加傾向にある。

 第3位グループとして存在するアライド・プレスは、南島のオタゴ中央地方のダニーデンで発行される『オタゴ・デーリー・タイムズ』(44,093)が中心。。同紙は1861年ニュージーランド最初の日刊紙として創刊され、現存する最も息の長い新聞である。
W&H社と二分する勢力をもつINLは出版社ゴードン&ゴッチ(NZ)をもち、『ウィメンズ・ウィークリー』をはじめ雑誌分野でも大きな力をもっていたが、99年にはそのオーストラリア部門を切り離した。またINLが1997年からもつスカイネットワーク・テレビジョン(49.6%)そして情報分野のテラバイトは今後のニュージーランドのマルチメディ時代に先駆けての投資と思われる。
 ニュージーランドでは新聞にもGST12.5%がかかる。


「豪メディア最新事情二題」 「ケーブルテレビ」