数学科教育法III講義日記



4/15

初回。 能書きプリントとアンケートとを配る。 アンケート提出は36名。 数学科以外の受講生もあちこちの学科どころか他学部からも来ているが、 中でも今年は物理学科(大学院物理学領域含む)からの受講生が10名を超え、 理科の免許は取得済みで、大学院在学中に数学の免許の取得希望、 という人も数名いる。ブームなんだろか。 情報理工学科2年生の受講生数が気になっていたが、1人だけ。 履修登録単位上限などとの兼ね合いかも知れないが、 理工再編後の学生の教職課程登録が少ない、という話があるだけに、心配な所。 IIIなので、I・IIの後に取るという人が多いのかも。それなら良いのだが。 3年生になって数学の知識も或る程度増えてきた所で聴いてもらう方が、 こちらもやり易いので。 数学科の教職課程非登録の受講生は少なめで、これはまぁ良し、か。

全体の概要を話して、関連書籍の紹介。時間配分をしくじって話し過ぎ。 後で思ったが、各回の授業の始めに簡単に1冊づつ紹介する、 というような手もあったかも。 「如何に教えるか」から「何故学ぶのか」まで遡る話は、 板書もしつつプロジェクタ資料を併用して紹介。 それなりにうなずきながら聴いていてくれた模様。 教育基本法の「教育は人格の完成を目指す」の紹介を資料に加えた。 教育基本法改定の件に触れると微妙な問題になるので敢えて触れず。 改定後にも上のようには書いてあるので良いでしょう。 流石に「教育は国家による統制に都合の良い人材の育成を目指す」とは 書けなかったんでしょうね。書きたかったんでしょうけど。

時間を25分くらい残せば時間内に提出でも良いんだろうけれども、 15分弱しかないので、授業時レポートの予定は次回提出の小レポートに変更。

小レポート(次回提出): 今迄に自分が受けた授業(中学・高校・大学、数学・それ以外問わず)を振り返って、 「こんな授業をしてみたい」 というのを思い出してみる。 (但し、個別的・瑣末的なことでも良いから、具体的に。 単に漠然と「判り易い」「楽しい」「面白い」等では不可。)

授業後に提出した人が数名。折角なので少しづつコメントを付けて返却。 とにかく実際に受けた特定の授業・題材を思い出して具体的に、 ここで書いたことを更に深めよ、と。

ちゃんと考えてもらえれば、それでも問題ないけど、 次回の授業の予定を考えないと。 教材研究に入ることになるが、どう入っていくか。 いきなり問題演習でもしてみるかな。

4/22

今回提出の課題の補足から(今更だが)。 とにかく実際に受けた特定の授業・題材を思い出して具体的に、と。 今回提出なので、回答の紹介は次回。

という訳で、教材研究に入る。 今年は予め、こんな題材を採り挙げるよ、というのをプリントにして配ってみた。 ちょっと考えておいてみよ、と。 例年採り挙げている問題以外にも少し加えたので、 時間次第では全部は出来ないけれど、 書いてあるだけで考える機会になればそれも良いでしょう。

その中から例年のように7番勝負の問題を初めに。 20分ほど時間を取って考えてもらう。 後半5分くらいは相談・意見交換しても良いよ、と。 で、板書発表者を募るが、すぐには出てこない。 双方向な授業が望ましいと言っても中々いきなりは出来ないよね、 とか何とか言いつつ待っていると手が挙がる。 2通りの方法がちゃんと毎年出てくるね。 集合・写像の言葉を使って現象を明確にすること、一対一対応の話など。 「最終戦は勝ちで終わってる」という点を見落とすと間違えるので、 説明する時は多分この点への注意を強調してしまいがちな気がしますが、 この問題を通じて上のようなことを意識するのだ、という出題だとすると、 注意点は注意点としても、実際には比較的瑣末な点だということになりますね。

最後に次回提出の課題提示。この課題もプリントに書いておいたので説明が楽だ。

小レポート(次回提出): 大学で数学を勉強していて/塾・家庭教師などで教えてみて、 中学・高校で学習した数学の内容で「あぁそういうことだったのか」と解ったこと。

4/29

前々回提示・前回提出の小レポートの回答紹介。 この「こんな授業をしてみたい」アンケートでは、例年、 熱い人ほど色んな意気込みを語ってくれるのだが、 それはそれで良いのだけれど、それでは空回りしがち。 教育実践(というような用語は業界臭がして嫌なのだが)は 目の前の一つ一つの授業(解説・出題・板書・発言)の積み重ねであって、 ここで要求しているのは、その一つ一つの指針になるようなことを、 今まで受けてきた授業(一つ一つの積み重ね)の中から探しましょう、 ということなので、具体的個別的に考えましょう、と。 時には熱さも必要かも知れないけど、基本的には教育技術者な訳で、 その技術で信頼を勝ち得ていかなきゃいけないのは他の専門技術職と同じ、 いや寧ろ信頼を得ることの重要さが極めて大きいと言う点では、 他の職種以上に専門技術が問われる、と言えるのではなかろうか。

最後に時間が10分少々取れたので、次回に繋がるように前回の話の復習。 2通りの方法で値が一致することについては、 それぞれ元の数を数えている集合の間に明示的に全単射が構成されている、 ということが重要で、 単に(偶然)数値が一致するのとでは、ものの解り具合が全然違う。 全単射があれば元数の一致は"当たり前"な訳ですからね。 場合分けによる方法でも、単に和として計算できる、ということでなくて、 考えている集合がもっと解り易い集合の排他和として表せた、という点が重要。 など言いつつ、次の研究課題(順列組合せ)を提示して終了。 前回提示の小レポート提出。

5/13

前回提出の小レポートの回答紹介だが、 その前に、今売りの 数学セミナー 6月号に特集記事「高等学校の新学習指導要領について」が出ていたので紹介。 新指導要領全体の理念として 「『活用』の重視」「『言語活動』の充実」「理数教育の充実」 が挙がっている。 高校までの数学教育が大学での数学専門教育のためだけにあるのではないこと、 しかも、大学での数学専門教育においても基礎的な「言語活動」能力の不足が 目に付くこと、などを考えれば、実に妥当な理念と言える。

前回提出の小レポートの回答紹介。 例年のことではあるが、 「公式が何故成り立つのか解った」 「覚えていただけだった性質が何故なのか解った」 という類の回答が多い。 解ったのは尊いことなので良いのだが、 中には「そもそもそんな見てすぐ解りそうなことが解らなかったのか」 「そもそもそういうことを疑問に思わなかったのか」 と言いたくなるようなこともある。 ま、生徒(だった受講生諸君)が悪い訳ではなくて、 そういう疑問を引き起こさない/引き起こさせないような授業だったんでしょう。 幸い、 初回提示の小レポート「こんな授業をしてみたい」 では、 「公式が成り立つ理由や導き方が解るような授業がしたい」 と思ってくれているようなので、そういう風にしてくれることを期待。 ただ、多分それは実はその当時の先生も元々そう思っていたとは思う(思いたい)ので、 だとすると、 「それなのに何故そうならない・出来ないのか」 というのが根深い問題点かな、と。

てなことを言っていたら残り時間が少なくなったので、 順列組合せの研究課題については先送り。 「教科書では通常どういう順番で説明しているか」 「それにはどういう理由があるのか」 など、考えるポイントを補足。

5/20

など書いて更に続く。暫し待たれよ。

レポート評価

レポート課題は2つ。

  1. 「数学」という教科を通して何を学んでもらいたいか。 扱う題材の内容そのものでも、そうでなくてもよい。
  2. 中学・高校の数学の題材で、 実は同値関係による同値類・商集合を考えていると思うべき例を (出来れば複数)挙げ、 それぞれの例でどういう集合どういう同値関係を入れてその同値類を考えていると思うべきか、 またその同値類別によって定式化されるのはどういう概念であるか。 更に、(中学・高校では同値類という考えを前面に出していない筈なので) どういう扱いをしているか、論ぜよ。

「何を学んでもらいたいか」の方は、更に 「そのために具体的にどのように授業の工夫をすれば良いか」 と付け加えた方が良かったかも知れない。 具体性も評価のポイントの一つにしているのだが、 それを明示した方が、レポート作成に向けて考える指針になるだろう。

「同値関係」の方は、 「条件の同値」と混同しているままの人が例年相当数出ていたが、 今年は授業期間中に 準備的な課題を提出してもらったので、 そういうレポートは無く、正しい例を幾つか挙げたものが多かった。 後はその先の考察にどう誘導していくか、 こちら側の練り込みとしては後一歩という所か。