English
トップ 研究内容 研究業績 学会発表 メンバー 研究風景 アルバム 魚図鑑

魚類は独自の消化システムをもっていた

消化酵素pactacinの発見

ヒトを含む哺乳類は胃をもち、胃で作られるペプシンなどを用いて食物を消化しています。このように私たちヒトにとって胃は重要な消化器官の1つですが、魚類には胃があるものと胃をもたない魚がいます。前者は有胃魚、後者は無胃魚と呼ばれています。有胃魚は、哺乳類と同様にペプシンを用いて消化しています。一方無胃魚は、膵臓で作られるトリプシンやキモトリプシンが消化管に分泌されて、消化管内で消化していると考えられてきました。

アスタシンファミリーと呼ばれる金属プロテアーゼファミリーの遺伝子は、遺伝子の重複により、魚類から様々な遺伝子が見つかっており、その一員には、孵化時に卵膜を分解する孵化酵素や免疫系に関わるネフロシンなどが知られています。この他にも私たちは無胃魚であるメダカには機能不明なアスタシンファミリー遺伝子があることを2006年に発表していました。今回、メダカに加えて、同じように胃をもたないタツノオトシゴでも、この機能不明遺伝子が膵臓で発現していることを明らかにし、pactacin(pancreatic astacin)と名付けました。さらに、メダカの消化液から酵素の精製を行い、トリプシンやキモトリプシンに加えてpactacinが消化液中に主要な消化酵素として分泌されていることを明らかにしました。

地球は海や川などの広大な水域を有し、そこに生息する魚類は脊椎動物最大の多様なグループです。胃の有無が消化システムの多様化につながり、その過程で魚類は独自の消化酵素を獲得したのではないでしょうか。

育児嚢の形成過程


図(A)タツノオトシゴのpactacin遺伝子は膵臓で発現していた。(B)メダカのpactacin(OlPac2)のウェスタンブロッティング。膵臓からはプロ型酵素が、消化液からは成熟酵素が検出された。(C)HPLCを用いたメダカの消化液の部分精製。黒線がタンパク量、赤線が酵素活性を示す。活性は3つのピーク(Ia, Ib, Ic)として検出された。(D)組換えpactacin(rOlPac2)とHPLCの3つの活性ピークの活性を、金属プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ阻害剤存在下で調べた。組換えpactacinは金属プロテアーゼでのみ活性が阻害されることがわかる。ピークIaが金属プロテアーゼ(pactacin)、IbとIcはシステインプロテアーゼ(トリプシンやキモトリプシン)と考えられる。

掲載論文

  1. Mari Kawaguchi, Yohei Okazawa, Aiko Imafuku, Yuko Nakano, Risa Shimizu, Reiji Ishizuka, Tianlong Jiang, Tatsuki Nagasawa, Junya Hiroi, and Shigeki Yasumasu. (2021) Pactacin is a novel digestive enzyme in teleosts. Scientific Reports, 11: 7230.
    DOI: 10.1038/s41598-021-86565-9
  2. Mari Kawaguchi, Shigeki Yasumasu, Junya Hiroi, Kiyoshi Naruse, Masayuki Inoue and Ichiro Iuchi, 2006. Evolution of teleostean hatching enzyme genes and their paralogous genes. Development Genes and Evolution, 216: 769-784.
    DOI: 10.1007/s00427-006-0104-5