ポイント
・プロ向けのサイクルトレーナはリアルな反面不安定であり、一般向けのものは安定しているもののリアルさに欠ける。そこでサイクルトレーナの特性,人の感性,人の動き,の3つを合わせた総合的な指標を確立することを目的とし、感性工学の面からアプローチを試みた。
・自転車をこぐと左右に揺れ、その揺れに対して感じる「倒れそう」という感覚がリアルさにつながっていることがわかった。
・一般的に悪いイメージとしてとらえがちな「不安定さ」が、「良い」や「面白い」と言った評価要因につながっていることがわかった。
研究背景
近年、趣味や健康のために自転車に乗る人が増加しています。
そうした中、ジムやリハビリ,雨のため外で自転車に乗れない時などに活用されるサイクルトレーナの普及が進んでいます。
サイクルトレーナにも様々な種類があり、両輪の固定により安定していてエルゴメータなどに近い乗り心地の固定ローラや、ローラーの上を固定せずに走る3本ローラ等があります。
固定ローラは、安定しているため誰でも使える一方でリアルな乗り心地を感じにくく、3本ローラは不安定ではあるものの、乗れると外で自転車に乗る感覚に近い乗り心地を感じられます。
固定ローラーと3本ローラーの中間的な特性をもつハイブリッドローラと呼ばれるものは、前輪を固定しつつも、ある程度動くようになっているため、3本ローラーに比べるとリアルさは低いですが、安定感があり、気楽に乗ることができます
そこで本研究では、サイクルトレーナの特性,人の感性,人の動き,の3つを合わせた総合的な指標を確立することを目的とし、感性工学の面からアプローチを試みました。
実験方法
本研究は行動分析と心理分析の2つの面からアプローチしました。
また、評価グリッド法実験でより評価要因を抽出するために、違いを感じやすい「両輪を固定したもの」、「前輪を固定したもの」、「両輪の固定がないもの」の3種類のサイクルトレーナを対象としました。
行動分析
サイクルトレーナを使用している際の人体と自転車の運動をモーションキャプチャカメラを用いて測定し、得られたデータを分析した結果を行動の評価指標としました。
心理分析
評価グリッド法という手法を用いて、サイクルトレーナに関する評価要因を抽出し、得られた結果を基にSD法アンケートを作成しました。次にSD法アンケートを用いて実験を実施し、分析することで心理の評価指標を求め、行動の評価指標と心理の評価指標を合わせ、最終的に総合的な評価指標の確立しました。
研究成果
行動分析の結果
学会発表後に掲載予定
心理分析の結果
心理分析により、下記の3点がわかりました。
・集約評価構造図より自転車の固定方法がリアルさに、そして良さに繋がること・( 揺れる・動くなどの ) 倒れそうな感覚が、リアルさと繋がっていること・前輪部の拘束の度合いが、安心感や楽しさ、飽きにくさに繋がっていること
下記の図は集約評価構造図を一部抜粋してきたものです。
両輪が固定されていない、車体の動きに拘束がないという評価要因が、リアルさにつながり、リアルであることに対して、面白い、良いといった評価に繋がっていることから、サイクルトレーナのリアルな感覚に繋がる要因を重視していることがわかりました。
下記の図は、自転車にあまり乗らない人がリアルさに対してどのような評価をしているのか抜き出したものです。車輪の固定や動きから自転車をこいだ際に車輪の回転や横方向の揺れを感じ、その感覚がリアルさを感じさ面白いや良いに繋がっていることがわかります。また、この結果から、一般的に悪いイメージとしてとらえがちな不安定さが、良いや面白いと言った評価要因につながっていることがわかります。
以下の図は自転車によく乗る人がリアルさに対してどのような評価をしているのか抜き出したものです。「自転車にあまり乗らない人」の結果に加え、外で自転車に乗った際の後輪の感覚に近いか、自転車をこぐ際程よい負荷がかかるかというところからリアルさを感じ、リアルさのメリットとして,バランス感覚を養うことができると評価していることから、あまり自転車に乗らない人に比べ、経験をともなった要因も多く現れていることが分かります。
固定方法による不安定さがリアルさにつながることがわかったので、固定方法について詳しく検討するために、前輪固定式のサイクルトレーナに関する評価要因について抜き出したのが以下の図です。この図から、前輪と後輪の固定方法により、自転車をこぐと左右に揺れ、その揺れに対して感じる倒れそうという感覚がリアルさにつながっていることがわかります。
以下の図は、前輪固定式のサイクルトレーナに関する評価要因について抜き出したものです。この図から前輪の固定部があまりぐらつかないと、安定しているので、安心すること、逆に不安定だとスリルを感じ,楽しい・飽きにくいといった評価要因につながっていることから、前輪部の拘束の度合いが安心感や楽しさ、飽きにくさにつながっていることが分かります。安心感や楽しさはプラスな評価ですが,それに繋がる設計要素は安定している・不安定と相反するものとなっているので、この前輪部の拘束の度合いの設計は大切なことも分かります。
謝辞
この事業は、競輪の補助を受けて実施しました。http//hojo.keirin-autorace.or.jp