【名前】
北 村 喜 宣
(Yoshinobu Kitamura)
【研究歴】
1.学生時代
研究職を志したのは、大学4年の最後も最後の3月。内定をまさにドタキャンしてのことでした。
とりあえず、神戸大学大学院法学研究科の研究生に滑り込み、その翌年に、いわゆる修士課程に進学しました。専攻は行政法学で、当時の指導教官は、阿部泰隆先生(神戸大学名誉教授・弁護士)です。学部時代も阿部ゼミでした。阿部先生の影響もあって、行政法の実施過程に興味を持っていたところ、北海道大学から赴任されたばかりの宮澤節生先生の強いおすすめがあり、奨学生試験を受験することになりました。
運よく合格し、カリフォルニア大学バークレイ校の法社会学のプログラムに2年間留学しました。行政活動に対して「法と社会」研究(law and society study)の観点からアプローチする手法を学びました。とくに、行政法がどのように実施されているのか、それを規定する要因は何なのかという分析視角は、現在に至るまで、私の研究の基礎となっています。20歳代の半ばをアメリカで過ごせたことは、代えがたい経験です。留学を可能にしてくださった方々に感謝です。
2.これまでの研究者人生
留学時代から準備していた博士論文が水環境管理法制に関するものであったこと、最初に赴任した横浜国立大学での授業科目が「環境・都市法」であったことが、環境法に傾斜した研究を決定づけました。30~40歳代には、水質汚濁防止法、廃棄物処理法、鳥獣保護法、漁業調整規則など環境法の執行過程研究をずいぶんとやりました。そのほかにも、建築基準法や消防法の実証研究をしました。 そうした研究には関心を持ちつつも、40歳代からは、地方分権時代の法政策に対する関心が高まってきています。とりわけ、条例の可能性についての理論研究を進めています。それと同時に、研究成果を実務に反映させるべく、自治体のコンサルティングを積極的に行っています。うまくいかないことも多いですが、失敗から学び、より適切な理論構築を目指しています。
3.これからの研究者人生
振り返ってみれば、その時々の関心に反応して研究論文を執筆してきたように思います。それは今後も継続するでしょうが、そろそろ「収束」を意識しはじめなければならない時期なのかもしれません。その方向はどのようなものでしょうか。実現できるかどうかわかりませんが、4つあげておきましょう。
(1) 環境法体系書の執筆
法科大学院用テキストとして、『環境法〔第3版〕』(弘文堂、2015年)を執筆しました。ただ、これは、あくまで司法試験受験生を念頭においたものであり、およそ体系書とはいえません。過去から続く環境法の歴史を踏まえて現在の法制度や裁判例をとらえ、さらに将来の展望をも示す。より広い読者にとってわかりやすいこうした1冊を書いてみたいと思っています。
(2) 環境法入門書の執筆
「わかりやすく伝える」ことは、モノを書く際には常に意識しています。環境法をさらに広い読者層に伝えるには、エッセンスをしっかりとおさえつつも、そして、内外の環境法に関する議論をしっかりおさえつつも、さらにわかりやすい記述と関心を持ってもらえる内容にしなければなりません。目標は、畠山武道『考えながら学ぶ環境法』(三省堂、2013年)です。とりあえずの取組みは、『環境法』(有斐閣、2015年)でやっています。60歳の半ばくらいに、畠山著に少しでも近づくことができる作品を残したいです。
(3)日本環境法の比較研究
研究生活の初期には、日米の比較研究を随分とやりましたが、最近は、すっかりご無沙汰になっています。日本環境法を深く研究するのも楽しいのですが、視野が狭くなる可能性もあります。若い研究者の間では、外国法研究が盛んですから、彼らとうまく(嫌われないように)コラボして、日本環境法の特徴を裏側から照射することができるような共同研究をしてみたいです。
(4)分権時代の法環境にふさわしい法制度の探究
分権改革によって法制度のOSが変わったのに、現行法の構造はそのままです。制度には慣性が働きますから、変わったOSのうえで以前と同じような認識や運用がされています。大改革にふさわしい「大解釈」が必要です。いささか原理主義的になりますが、憲法のもとでのあるべき姿を愚直に追い続けます。実践として、自治体の条例づくりのお手伝いを積極的にするようにします。その際には、「法律の範囲内」という条例制定の制約を柔軟に解することができる理論構築が課題になります。
【略歴】
1960年2月6日、京都市生まれ。
1978年、同志社高等学校卒業。
1983年、神戸大学法学部卒業。
1986年、神戸大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了(法学修士)
1988年、カリフォルニア大学バークレイ校大学院「法と社会政策」研究科修士課程修了(M.A. in Jurisprudence and Social Policy)[フルブライト全額給費生]。
1991年、神戸大学法学博士。
1989年、横浜国立大学経済学部講師。
1990年、同助教授。2001年、上智大学法学部教授
2012年、上智大学大学院法学研究科(法科大学院)教授(現在に至る)。
2014~2016年、上智大学法科大学院長
2004~2015年、放送大学客員教授
2004~2012年、新司法試験考査委員(環境法)
2013~2015年、司法試験考査委員(環境法)。
【専攻】
行政法学、環境法学、政策法務論
【所属学会】
日本公法学会、環境法政策学会(理事:1997年以降、常任理事:2009年以降)、日本自治学会(理事:2008年以降、常任理事:2012年以降)、都市住宅学会(監事:2012~2014年、理事:2014年以降)、日本法社会学会(理事:2001~2004年)
【所属学会】
日本公法学会、環境法政策学会(理事・1997年以降)、日本法社会学会(理事・2001-2004年)、都市住宅学会
【主要著作】
- 『自治力の挑戦』(公職研、2018年5月)
- 『分権政策法務の実践』(有斐閣、2018年2月)
- 『空き家問題解決のための政策法務』(第一法規、2018年2月)
- 『リーガルマインドが身につく自治体行政法』(ぎょうせい、2018年1月)
- 『環境法〔第4版〕』(弘文堂、2017年3月)
- 『環境法』(有斐閣、2015年9月)[2016年都市住宅学会賞・著作賞]
- 『自治体環境行政法〔第7版〕』(第一法規、2015年10月)) 『環境法政策の発想』(レクシスネクシス・ジャパン、2015年7月)
- 『自治力の躍動』(公職研、2015年5月)
- 『現代環境法の諸相〔改訂版〕』(放送大学教育振興会、2013年3月))
- 『自治力の爽風』(慈学社出版、2012年3月))
- 『プレップ環境法〔第2版〕』(弘文堂、2011年2月)[初版(2006年4月)に対し、第2回不動産協会優秀著作奨励賞]
- 『行政法の実効性確保』(有斐閣、2008年11月)
- 『分権政策法務と環境・景観行政』(日本評論社、2008年11月)
- 『自治力の達人』(慈学社出版、2008年3月)
- 『産業廃棄物法改革の到達点』(グリニッシュビレッジ、2007年3月)
- 『自治力の情熱』(信山社出版・2004年7月))
- 『分権改革と条例』(弘文堂、2004年2月)
- 『揺れ動く産業廃棄物法制』(第一法規出版、2003年2月)
- 『自治力の冒険』(信山社出版、2003年1月)
- 『政策法務がゆく!:分権時代における自治体づくりの法政策』(公人の友社、2002年10月)
- 『自治力の発想』(信山社出版、2002年7月)
- 『環境法雑記帖』(環境新聞社、1999年11月)
- 『環境政策法務の実践』(ぎょうせい、1999年7月)
- 『産業廃棄物への法政策対応』(第一法規出版、1998年7月)
- 『行政執行過程と自治体』(日本評論社、1997年10月)
- 『環境管理の制度と実態:アメリカ水環境法の実証分析』(弘文堂、1992年11月)
学部授業抜粋
環境法各論
本講義では、環境法の基本的考え方や基本的法システムについて学習する。抽象的議論を避けるために、テキストを踏まえつつも頻繁に法令や判例を参照し、基本的考え方やモデルが実際にどのようなかたちで制度化されているのかを確認する。 およそあらゆる法システムは、それが制定された時代状況を反映しているものである。立法者は、対処すべき問題をどのように受け止めて、どのような法的手法で対応したのであろうか。それは、どのように機能しているのであろうか。その法システムにはどのような問題がありどのような改善が可能なのだろうか。以上の観点を踏まえて、環境法の仕組みを解説する。
自治体環境法
自治体環境行政をめぐる法と政策について、土地利用規制、環境アセスメント、行政手続などにふれながら解説する。地方分権によって、自治体の「自治力」の高まりが期待されるが、環境行政分野には、どのような可能性があるのだろうか。条例制定権限の限界、より効率的・合理的な法システムの創造と実施を念頭に置いて、自治体環境法政策の最前線を探索する。