一般に異種機能を持つ半導体光デバイスのモノリシック集積化には構成素子ごとに放出/吸収する光の波長帯(バンドギャップ波長)が異なる半導体結晶を同じ半導体基板上につくり込む必要があります。
従来の光デバイスの集積化では主に半導体層を部分的にエッチング除去し他の半導体層をこの箇所に選択的に再成長する手法がとられていました。しかし、このエッチング/再成長法では作製プロセスが長く複雑なだけでなく、特に異種半導体結晶層の結合部の平坦性や接続界面の結晶性などが現状の結晶成長技術、プロセス技術ではまだ十分でないことが問題となっています。そこでわれわれはMOVPE装置を用いた選択成長を行い、マスク幅によるバンドギャップ制御を確認しています。
エピタキシャル結晶成長では、基板結晶表面に存在する安定点に成長原料ガスから供給される原子が次々と結合して層状に結晶が積層されていきます。従ってマスクで結晶表面が覆われていると、適当な成長条件下では基板表面が露出している部分にのみ結晶成長が起きます。マスクの材料としては、化学的,熱的に安定で欠陥が少なくかつ容易に微細パターンが形成できるSiO2やSiNxが多く用いられます。このマスク基板上にMOVPE法で半導体層の結晶成長を行うと,SiO2上には結晶は成長せずマスクのない領域にのみ選択的に成長が起き、このため、SiO2マスク上に飛来する有機金属原料種や有機基脱離後の原料種はマスク周辺の半導体層に自動的に取り込まれ、この領域での成長膜厚の増大や組成変化を引き起こします。
さらにSiO2マスクの開ロ部を所望の導波路パターン形状に加工して選択成長を行い、マスク形状どおりのリッジ導波路を形成しています。この方法ですと半導体のエッチング工程を用いずに導波路パターンの形成が可能となり、光集積回路で不可欠な分岐導波路や、素子間の光配線などの実現に有望と考えています。
このように選択MOVPEを用いると非常に簡単な手法で異種光テバイスの集積構造を実現できるため、今後の多機能、高性能化や大規模集積化に向けて重要な技術と考えています。