当研究室でのデバイス研究について、その設計、試作、測定・評価まで簡単な流れを研究室で使用している装置と共に説明します。
デバイス設計・マスクパターン作製
まず光デバイスの設計を行います。 設計にはBPM CAD(Rsoft)、Fortranによる伝搬解析プログラムを用いて、光導波路の屈折率分布、寸法等のデバイス構造の最適値を求めます。
ビーム伝搬法による解析を元に光デバイスのマスクパターンを作製します。2インチ以上のガラス乾板マスクは外注し、数mm程度のパターンはBEAM DRAWというパターン作製装置を用いています。BEAM
DRAWはCAD上で作製されたパターンに従って走査型電子顕微鏡(JSM-5310、日本電子)の電子線およびウエハの載ったステージをコントロールし、パターン描画を行います。
結晶成長
光デバイスの性能を決定するのは元基板(ウエハ)の出来次第です。
当研究室では有機金属気相成長装置(エピクエスト)を用いてこの元ウエハの作製を行っています。この装置は長波長帯光デバイス材料として、ガリウム、インジウム、アルミニウム、ヒ素、リン系の混晶結晶を成長できる仕様となっています。ヒ素、リンのⅤ族元素は有機化合物の状態(ターシャル・ブチル・ヒ素=TBA、ターシャル・ブチル・リン=TBP)、N型ドーパントもジ・トリ・ブチル・シリコン(DTBSi)で供給しており、Ⅲ族元素もあわせてオール有機金属気相成長装置になっています。またウエハサイズは最大3インチまで成長可能な縦型炉です。
基板の成長前処理としてオゾンクリーナを使用しています。
リアクタ洗浄、有機金属材料ボトル交換後にはヘリウムリークディテクタによりリーク検査を行います。
酸化膜(SiO2)形成
エッチング用のマスク、電極分離(アイソレーション)の絶縁膜としてSiO2膜は半導体プロセスにおいて必要不可欠なものです。2001年度TEOS原料を用いてSiO2膜を形成するプラズマCVD装置(サムコ)を導入しました。
光露光・電子線直接描画
光導波路をウエハ上に作製する場合、ガラス乾板のマスクパターンを光露光装置(MJB4、ズースマイクロテック)によってウエハに転写するか、あるいは電子線を用いてウエハ上に直接描画します。
エッチング
光導波路をウエハ上に作製する場合、ウエハ上に転写されたパターンを元にSiO2膜あるいは半導体の不要部分を溶解侵食、食刻するエッチングという工程が入ります。これには弗酸、塩酸や硫酸などの液体を用いたウエットエッチングや、マスクパターンを忠実にエッチングするためにガスを用いたドライエッチングが使われています。当研究室ではウエットエッチングの他にアトムビームエッチング装置とプラズマアッシング装置を用いてドライエッチングを行っています。
電極形成
光デバイスを動作させるには、電流注入あるいは電界印加によって、利得、吸収、屈折率等を変化させます。そのために試作の最終工程として電極付けがあります。
光導波路から外部に光を取り出したり、入れたりするためには光導波路の端面は非常に平坦な面が要求され、通常はへき開という方法によりある結晶面を出します。そのためには基板はある程度薄くする必要があり、ラッピング装置(研磨機)によって350μmから100μm程度まで研磨します。
電極用の金属は半導体基板の種類、P型、N型によって異なりますが、当研究室ではAu合金、Alなどを抵抗加熱型蒸着装置によって蒸着します。
チタン、ニッケル、白金、パラジウムなどの高融点金属は電子ビーム蒸着器によって蒸着します。
蒸着した後の金属はアニール炉によって400℃~500℃で熱処理をして合金化します。当研究室では通常のアニール装置から数秒程度で目的の温度まで上昇させる赤外線ゴールドイメージ炉を場合に応じて使い分けています。
電極形成後、光デバイスのチップをパッケージやマウント台に実装するために、ダイボンダー、ワイヤーボンダーを使用します。
形状測定
量子ドットなどナノメートルサイズを測定する場合には、原子間力顕微鏡(SPM、島津製作所)を用います。
導波路をエッチングによって作製する場合には、導波路高さを精密に制御する必要があります。膜厚や段差を測定する場合には、レーザ顕微鏡(キーエンス)を使用します。
フォトルミネッセンス測定
ウエハの吸収端をフォトルミネッセンス(PL)法によって測定します。励起光として700nmの半導体レーザを使用し、ウエハから放出された光は光ファイバーを通して、光スペクトラムアナライザー(AQ-6315D、横河電機)によって波長分解されます。
アレイ導波路のように数μm以下の空間的な変化を観測する場合には、顕微フォトルミネッセンス装置(堀場製作所)を用います。顕微フォトルミネッセンス装置では532nmの固体レーザを光源とし、回折格子を用いた波長分解を行い、Extended
GaInAs検出器、あるいはInAs検出器によりにより波長3μmまでのスペクトル測定が可能です。
低温フォトルミネッセンス測定を行う場合には、液体窒素フロー式クライオスタット(Microstat-N)を用います。
電気特性測定
光デバイスの電圧-電流特性はソースメジャーユニット(GS610、横河電機)によって測定します。MOSFETなどの電子デバイスの測定では、プローバによってゲート、ソース、ドレインの電極パッドに直接針を立てて測定します。
半導体レーザの電流-電圧特性、電流-光特性はパルスI-Lテスター(ALT、旭データシステムズ)によって測定します。
近視野像測定・導波路出力光測定
光デバイスから出射される光の近視野像測定、また導波路からの出力光測定について説明します。
入射光光源には波長1.46μm~1.58μmまでの波長可変レーザ(TSL-200、サンテック)、1.50μm~1.63μmまでの波長可変レーザ(MG9541A、アンリツ)を用いています。この光を先端球光ファイバーを通して光デバイスのへき開された端面に入射します。出射端面からの光は目では見えませんので、赤外線ビジコンカメラ(C2741-03、浜松ホトニクス)、リアルタイム画像改善装置(DVS-3000、浜松ホトニクス)を通してモニターに出力されます。
導波路からの出力光強度を測定する場合には、出射光を先端球光ファイバに結合させパワーメータ(、横河電機)によって測定します。